第29話 シュールな光景だな

「レイさん達って変人ですよね……」


 唖然としながら呟くエマ。


 応援しかしてない癖に酷い言い草だな。聞こえてるからな?


「お前も戦ってもいいぞ? アルファ達が守ってくれるからな」


「無理無理。私如きがキング種に勝てるわけないでしょうが!」


 本当に見届けに来ただけか!?


「手伝ってやりたい所なんだが手が離せん。こいつ王様に成り立ての割にけっこう強いからな……ベル、エマを手伝ってやってくれ」


「はいよ〜♪」


 俺はゴブリンの王様相手に立ち回っている。


 ベルなんて既にこっちに合流して、もう1匹の王様を仕留めたら大人ゴブリンで遊びながら高みの見物状態だ。


「私にどうしろと!?」


「とりあえず、攻撃しろ。攻撃が当たらんかったら意味がない。ベル、あいつら捕縛しろ」


 この熟練度とやらは戦闘に参加しないと獲得出来ないとゲイル達が言っていたからな。


 ベルの指示で蝿達がゴブリン共を拘束していく。


「これならなんとかなるかな? 何でもいいんですね? えいっ」


 石を投擲するエマ。


 動けずに雄叫びを上げるデカいゴブリンに石を投げる姿はシュールだな。当然ながらダメージは無い。


 さて、俺もさっさとこいつを仕留めるか。


 成り立てのせいか、【支援魔法】の『弱体化』と『黒勢』を使った状態で余裕がある。もう少し苦戦するかと思ったが──これなら問題なさそうだ。


 俺の覚悟を返してほしい。


 ぼちぼち終わらせたいな。


「スレイ──もうちょい切れ味は上がらないか?」


『魔素も大分喰えたし、善処しよう──』


 剣状態のスレイから真っ赤なオーラが出る。


 なんか格好良いな……それと、俺にも力が溢れてくるな。これは聖女さんから、かけられた事がある【支援魔法】みたいな感じだ。


 スレイも魔素を喰らったと言っていた。つまり、血を吸うだけでなく──切れ味や俺自身も強化する事が出来る能力があるのだろう。


 これなら余裕だな。


「よっと」


 襲い来る王様の攻撃を避けて腕を斬り落とす。


 切れ味ヤバいな。だがこれなら直ぐに終わるな。


「名も無き王よ──子供からやり直して来いっ! ──剣王流五ノ太刀『滅』──」


 ゴブリンの王様は滅多切りになり、吹き飛ばすと同時に塵に変わる。


 この技は故郷にいたおっさんが俺に教えてくれた。


 簡単に言うと滅多切りした後に【火魔法】で焼却処分をしているだけなのだが、タイミングが凄く難しい技で遅れてしまうとただの細切れが量産されてしまう。俺の場合は古代魔法に時間がかかるから余計にタイミングが難しい。


 あのおっさん曰く──


『技は格好良くないといかん』


 と言っていた。


 これは結構良い感じだと思うんだが、エマに聞いてみるか……。


「えいっ、えいっ、えいっ」


 見ちゃあいねぇな……石を投げるのに必死だ。


 とりあえず大まか終わった。


「エマ……斬って来い。その短剣は飾りか? 【支援魔法】使ってやるから……バフだけどな」


「あんたは鬼か! どこの世界にDランクの女の子をゴブリンキングに特攻させる奴がいるんですかねぇ!? しかもクソバフなんかいらねぇんですよ! せめてデバフを!」


「ここにいるぞ? 俺がいるから大丈夫だろ。こっちも終わったから暇だ。今いる大人ゴブリンは──10匹か。順番にやるぞ」


「……ちゃんと守ってくれるんですよね?」


「あぁ、今回あれだけ覚悟を決めたが無駄になるぐらい肩透かしをくらったからな。俺がちゃんと守ってやるよ。それに──エマ弱いから倒して熟練度上げろ」


「──はいっ! レイさん……」


「何だ?」


「私の処女あげてもいいですよ?」


「……いつか会うかもしれん彼氏の為にとっておけ」


「照れちゃって〜」


「俺の好みは巨乳だ」


「……──いつか絶対に巨乳になってやるからなぁぁぁぁっ! うぉぉぉっ、バックスタブっ!」


 急に怒りだしたエマは男みたいな唸り声を上げてゴブリン(大人)の死角から短剣術を繰り出しゴブリンに攻撃する。


「そうそう、その調子だ。その内殺せるだろ」


 中々の殺意だな。俺に向けられてる気もしない事はないが……。


「レイさん──お客さんです」


 ベルが指差す方に視線を向けると──



「レイさん無事か!?」


「我ら王国騎士団に撤退の二文字は無い!」


 ゲイル達と騎士団長とその精鋭が息を切らしながら到着する。


「お前らどうしたんだ? 避難は済んだのか?」


「既に済ませた──敵……は?」


「うむ、団員達が街まで守ってくれているはずだ──あれ……は?」


 2人は束縛されたゴブリンキングにひたすら短剣術を繰り出すエマを見て固まる。


「ん? あぁ、あれはエマの特訓だな」


「「「……」」」


 全員が押し黙る。


「……特訓は、まぁ、これがリディア教のやり方だと思って──この際置いておこう……ゴブリンの親玉は?」


 ゲイル……これはリディア教のやり方じゃないぞ?


「俺の後ろに倒れてるだろ?」


「……何だあの凶悪な顔のゴブリンは……凄く大きいな……一体は簡単に殺したような感じだ…… しかも同じ大きさのもう一体は骨だし……レイさん、ぱねぇっす……」


「さすがはリディア教の司祭殿……言う事聞いてよかった……」


「「「同意……」」」


 騎士団長達も何か言っている。


 お前ら失礼だな。


「何でそんな余裕そうなのに避難させたのか謎だ……」


 そんな呟きがどこからか聞こえて来る。


「数が多かったからだな。被害を抑える為に必要だった──ちっ、まだいたのか……」


 視界にまた魔物の影が見えた。


「全員構えろっ! ──オークキングだと!? しかもオークもこんなに!?」


 騎士団長が声を発する──


 その先にはオーク(大人)がいた。


「おっ、豚肉だな」


「「「えっ?」」」


「ん? どうしたんだ? 今日の晩ご飯は豚テキだぞ? お前らがやらないなら俺がやるけど?」


「司祭様は……先程戦ったばかり──ここは我らが!」


「そうだ! 俺達がレイさんの代わりに戦う!」


「いや、でもオークの大人が2匹いるぞ?」


「「オークの大人? ──オークキングが2体!?」」


「あれは俺がもらうぞ?」


「「……しかし」」


「アルファ。弱火だ」


 俺はポンと頭に手を乗せると炎のブレスを吐き出すアルファ。


 オーク(子供)は丸焼けになっていく。


「「……なにそれ……」」


 唖然とする2人。


「アルファのブレスだが? ベータ、オークの大人の足元だ」


 今度はベータの頭にポンと手を乗せるとオーク(大人)の足元は凍る。


「「「……」」」


 またもや黙る周囲。


「私は?」


「ガンマがやると食べれなくなるだろ? 俺が狩るけど問題無いな?」


 コクコクッと全員が首を縦に振る。


「じゃぁ遠慮なく──」


 俺はスレイで一閃すると首が落ちる。


「「「……」」」


 全員が黙る。


「何で黙るんだ? これぐらい普通だろ?」


「「「絶対普通じゃない!」」」


 今度は全員から否定されてしまった……。



 そうだ、エマならわかってくれるだろ。


「私だって──いつか巨乳になってやるです! 巨乳になる秘薬を探してやるです!」


 ……着々とゴブリンの大人を狩っているエマは巨乳になると叫んでいた。


 話しかけ辛いが一応、聞いてみるか……。


「エマ、俺って普通だよな?」


「あぁ!? レイさんが普通なら私達は塵か!?」


 エマの言葉と形相を見て全員がドン引きする。


 俺も頬が引き攣るぐらいだった。

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