第26話 リディア教ヤバいな
「レイさん、ありがとうございます。お陰で皆の熟練度が一気に上がりました!」
次の日の朝、『旋風』のリーダーであるゲイルが俺にお礼を言う。
理由は大人のゴブリンを仕留めさせたからだ。
熟練度って上がるとわかるのか?
俺わからねーんだけど?
もしかしたら何かアイテムとかあるのかもしれんな。
「なに、気にする事はない。ベル曰く、もう少しで討伐隊が来るらしいぞ?」
「どうするんですか?」
「お前らがとりあえず事情を話せ。お前らの方が冒険者ランクが高いからな。信用があるだろ?」
「レイさんのランクは?」
「Dだな」
「明らかにランクがおかしいだろ!? 司祭はSランク級の猛者と聞いているんだが!?」
エマは司祭の強さはAランク以上って言ってたぞ? 巷ではSランク相当なのか?
「あぁ、最近冒険者になったからな。という事で任せたぞ?」
「なら仕方ないか……って、エンブレム出したらいけるんじゃないか?」
「……確かに。でも、面倒臭いからお前に任すわ」
「ぶっちゃけたな……まぁ頑張るよ」
「まぁ打ち合わせ通りに言ってくれたら問題ない。指揮官が相当の馬鹿じゃなきゃ大丈夫だろ。さぁ、ベルから討伐隊が到着したと連絡が来た──行って来い」
「まぁな。じゃあ、行って来るよ」
ゲイルは討伐隊の元へ向かう。
既に俺はエマに話した計画をゲイルに説明している。
もちろん、勝てるかどうか怪しい事も。
だから、俺が負けた時は速やかに村人を避難させるように言ってある。
そして、討伐隊が来た時はこの森の状況を伝えた上で作戦に参加するように言いくるめる指示を出している。
1000人もいれば守りながら逃げれるだろう。
ここまでの事態になったのは正直に言うと事態を軽く見ていた俺のせいだろう。
もっと早い段階で魔法陣を壊していれば良かったし、ベルに間引いてもらえば問題なかったのかもしれない。
だけど、俺は日に日に強くなって大量に出てくる魔物を間引くのに精一杯だったし、ベルには森の外に魔物を出さないよう──森を広範囲に囲ってもらっていた。そこまでの余裕はなかった。
気付いた時に対処していれば良かった……あの時ならまだ余裕があったのにな……。
これは俺の責任だ。
だから必ず──俺が尻拭いをする。
まぁ、どうせあいつに勝てなかったら、いずれ母さんに捕まるだろうし──どちらにせよ人生詰むからな。
俺もここに来てから訓練をそれなりにし直した。
本当は戦うのは痛いし、しんどいし、嫌だけど──
村長やラキ、村人の人達が生きる為に頑張っている姿を見て、命を張るのも悪くないと思ったのも事実だ。
だからこそ、逃してやりたい──
『レイさん──討伐隊とゲイルが揉めてます』
ベルが報告してくる。
ったく仕方ねーな……。
俺はゲイル達のいる場所へと向かう──
「我々は討伐に来ている。防衛などせん」
「だーかーらー、既に手遅れなんだよ! ゴブリンキングが既に複数体もいる上に10000もゴブリンがいるんだぞ? 正気か!?」
「そもそも、その話が真実かも怪しい。たかが冒険者如きが大袈裟に言っているだけだろう?」
「そんなわけあるか! お前らは村に群がる死骸を見ていないのか!?」
「……見たが……何かの魔法で我らを騙したのであろう? そもそも、どうすればあんな死骸になるやら……ゴブリンキングが複数現れたという記述も今までない。よってお前らの言っている事は嘘だな」
俺は揉めている間に割り込む。
「──ゲイル。そこまでで良い。こいつはどうやら無能の指揮官のようだ」
「レイさん!?」
「誰が無能だと? 栄誉ある第一騎士団の団長である俺が無能? 笑わせてくれる。お前ら冒険者などより常に人々の為に戦っておるわ」
「人々を守る人間がその程度ではお前らの国はたかが知れてるな? お前らみたいな見たい物だけを信じる奴はどこにでもいる。だから見せてやろう──」
俺は便利アイテム、リディア教司祭のエンブレムを出す。
「……本物?」
驚く騎士団長とお付きの団員。
俺は首を縦に振る。
「あの話も本当?」
ポカンと口を開けて言葉を出す騎士団長にまた首を縦に振る。
「……我らはアストラ教信者ではあるが──国の命令により、リディア教司祭以上の言葉は王の次に順守せよと言われている……よって──言葉を信じよう」
態度変わり過ぎだろ……これがエマの言っていた『ある程度の融通』って奴か?
王の次とか言ってるぞ? かなり融通効いてる気がするんだけど?
俺はエマを見る。
「レイさん……これがリディア教の影響力です……」
いや、エマも驚いてるじゃないか……。
「やっぱヤバい宗教だな……まぁ、従ってくれるなら問題ないけど……」
「まぁ、スムーズに事が運んで良いじゃないですか」
「まぁな。さて、騎士団長──」
「はっ」
片膝をついて臣下の礼を取る騎士団長とその周りの騎士団。
「ゲイルの言った事は真実だ。あの死骸は俺の使い魔が作ったし、ゴブリンが10000以上いるのも、ゴブリンキングがかなりいるのも俺が確認している。よって、先程の話はそのまま進めるように」
「はっ」
俺は去り際に、リディア教って信者少ないのにそんなに影響力があるのか? と思った。
ベルに頼むか……。
「ベル……ちょっとあの後が気になるから『視覚共有』してくれない?」
「了解……僕もちょっと今のリディア教がどういう認識なのか気になります……」
視界が切り替わる──
「団長! 何故あんな若者の言う通りにしてるんですか! リディア教なんてただ戦闘集団の小さい教会でしょうに!」
団員からそう詰め寄られている騎士団長が目に入る。
正直、俺の気持ちも団員達と同じだ。
「いいか? リディア教と敵対してはならんのだ。これは王命である」
「しかし……王命であっても……いくらなんでも国教であるアストラ教を差し置いて聞く必要は無いのでは?」
「お前はリディア教についてどれだけ知っている?」
「司祭以上の人がヤバいぐらい強い事ぐらいですかね?」
「……その通り……ヤバいぐらいにな……。リディア教の司祭はドラゴンを1人で討伐する。つまり1人で国を相手取る事も不可能では無いという事だ……」
な、なるほど……そういう認識なのね……。
「しかし、たかが1人の司祭が国一つと渡り合えるとはとても思えません……」
「……昔な……とある国がリディア教の司祭を葬ろうとした事があった……その時──国は半壊、騎士団は全滅した……司祭は一人一人が有り得んぐらいに強い上に常識が一切通用しない……そして、これが1番の理由なのだが──国が対応出来ない魔物を討伐してくれる。リディア教に見放された国は過去に滅びている……。その時に毎年、国同士で行われる会議でリディア教の教皇は言った──『我らの司祭以上に命令は不可能。要請に応じない場合は彼の国のように滅びるだろう』とな……それ以降は不可侵にする事となった……。そして出来る限り、不利益にならなければ便宜を図るように一部の国を除いて、どの国も協力している……」
「「「……」」」
「それにな……最近、リディア教で使徒様が見つかったそうだ……」
「……リディア教の使徒様?」
「そうだ……伝説によると──使徒様は黒い本を持ち、あらゆる神話級の存在を召喚する……あの外の死骸はおそらく──」
「さっきの司祭の仕業だと?」
「うむ……これは昔からの言い伝えではあるが──『使徒を妨げてはならん』──とな。特にリディア教の使徒様は妨げてもろくな事にならんと伝わっている……」
「「「……」」」
お通夜みたいな雰囲気になってるんだけど?
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