第25話 不覚だ……

「さて、レイさん! 説明して下さい!」


「何を?」


「何また惚けてくれてるんですかねぇ?! 久しぶりに戻ってみたら状況変わり過ぎでしょ!? ゴブリンの数は10000超えてるわ、キングは表にもいるわ、村人は何故か訓練してるわで意味がわかんねーですよ!」


「……いや、そんなに怒ると皺が増えるぞ?」


「いいですか? まず、私は18歳です! 皺なんかないです! 増えたら間違いなくレイさんのせいですからね! ──いいから早く説明」


「……たまに凄く声が低くなるよなお前……」


「早く」


「はいはい、エマが出て行った後は異常に増えた。以上だな」


「また簡単な説明を……これ終息出来るんですか?」


「あぁ、森の中心地にある魔法陣で魔素を集めているとベルが言っていたからな。壊して殲滅したら終わるだろ」


「簡単に言ってくれますね……魔物は殲滅出来るんですか?」


「ベルがやる気満々だな。俺は魔法陣を壊しに行ってる間にあの冒険者達や討伐隊が村を守ればいけるだろ?」


「……言葉だけだと簡単そうですが──中心地には強い魔物とかは?」


な」


「今?」


「昨日に発生したと報告されたぞ?」


「相手は?」


「ベル曰く──ゴブリンロードだな。集落も中心地に移ったみたいだな」


「ゴブリン……ロード? 何ですかそれ??」


「1番強いゴブリンだな。故郷で現れた時は母さんや他の人が仕留めてたな……」


「……キングが1番強いのでは?」


「俺の中ではゴブリンの王様はそいつだけどな」


「……聞いた事がないんですが?」


「俺も初めて聞いたな……名前を」


「……とりあえず、レイさんの天然は置いておいて……どれぐらい強いんですか?」


「昔の俺だと負けるな」


「……レイさんで負けるとか何の冗談なんですかね!? 今は勝てるんですか? あっ、ベル君がいましたね」


「ベルは今回は増えすぎたゴブリンとかを相手にしてもらうからなぁ……」


「では──『黒の書』からまた強い人出すんですね!?」


「それも無理だな。どうやら出せるのは3人が限界のようだぞ? アルファ達を出した後に試したが誰も出て来なかったな」


「……アルファ達って?」


「さっき、スレイと話してる奴がいただろ?」


「あの可愛らしい3人娘ですか?? 強いんですか?」


「そこそこ強いだろ。あいつらには村の守りを任せるつもりだ」


「ちなみに名前は?」


「ベスだ」


 俺は3人の総称を伝える。


「ちがぁぁうっ! 『黒の書』に書いてた名前です!」


「確か──ケルベロスだったかな?」


「あの可愛らしい娘っ子達が……【地獄の門番】ケルベロス?」


「なんだそれ? なんか格好良いな。門番ならやっぱり守りに適任だな」


「いつの間にそんな危険な幻獣を出してるんですかねぇっ!?」


「ついこの間だな」


「……もういいです……。それでレイさんはそのゴブリンロードに勝算は?」


「わからん」


「……お家に帰ります──「まぁ、待て」──嫌だぁぁぁっ! 絶対死ぬぅぅぅっ! まだ私処女なんですよ!? まだ男性ともお付き合いもした事ないのにぃぃぃっ! こんな所で死んでたまるかです! さらば──」


 逃げようとするエマを捕まえる。


「まぁ待て待て。勝てるかはわからんが、俺は『黒勢』を使えばまだ強くなれる。その力は未知数だ。過去には勝てなかったとしても今は勝てるかもしれないだろ? つまり正確な返答としては──やってみないとわからない! っだ!」


「そんな賭けに乗れるかぁぁぁっ! 守るって言ったじゃないですか!? そんな危険な橋渡りたくないです! …………ひっぐ……私だって……彼氏が……ひっぐ……欲しいんです……子供だって……ひっぐ……欲しいんです……」


「落ち着け。別にエマはここから逃げて良いんだぞ? お前はもう役目を全うしたからな。後は俺の番だ」


「……ひっぐ……無理ですよ……ひっぐ……どうせ逃げたら悪魔が連れ戻して来るんです……断れば殺されるんです……」


「ん? あぁ、悪魔か? なら問題無いぞ? 俺が解除してやるよ」


「……どうやってですか?」


「ベル──見てるなら、


「人使いが荒いですね……また、この?」


「そうだ。さっさとやれ」


「はいはい──」


 この間、俺は魔契約によって刻まれた魔法陣をこうやってベルに喰ってもらった。理由としては簡単だ。


 鈍った勘を取り戻す為のウォーミングアップだ。


 逃げたら強い悪魔がやって来ると聞いていたから解除しても、やって来るだろうと思っていたらちゃんと来た。


 そいつは確かに良い訓練相手になった。


 そして、今度はエマの方で訓練させて貰おう。


『汝は何故、契約を解除した? 強制解除のペナルティは──死あるのみ──』


 同じ悪魔が現れる。


「ひっ……」


 エマは怯える。


「よう、昨日ぶりだな?」


 俺は怯えるエマの前に立つ。


『……へっ? お、お、お、お、お前は!?』


「さぁ──訓練相手になってくれるよな? 別にこいつは抜けるわけじゃない、俺が戦いたいんだよ──お前とな?」


 俺は口元を釣り上げて言う──


『ひっ、──抜けないのであれば問題無いです──ではでは──』


 ちっ、逃げたか……何回も再生してくれるから訓練相手に持ってこいだったんだがな。


「さぁ、これでエマは自由だぞ? リディアからの追っ手はないだろう。ただ、今逃げられると困るから──俺が負けたらベルに伝えるように言ってある。そしたら村人を避難させて逃げてくれるか?」


「……こんなに……簡単に……悪魔を……」


「ちょっとボコり過ぎたみたいだな……」


「ふ、ふふふ……あはははっ。何か私馬鹿みたいにです……私は──逃げません! レイさんと一緒にいます! そして、見届けます!」


「そうか……確約は出来なくなってしまったからな……ついて来ても守れんぞ?」


「はいっ!」


「はいじゃなくて……本当、着いて来なくていいぞ? 正直、足手まといだし」


「はっきり言わないでくれますかね!? 私は彼氏作るまで絶対に死にませんっ!」


「……ただ──これだけは言っておく」


「な、何ですか?」


 俺の真剣な表情に息を飲むエマ。


「リディア教から逃げた所で彼氏が出来るとは限らないぞ? まぁ強く生きろ……」


「うっさいです! 私はまだ成長するですよ!」


「いやだって……18歳だろ? ほぼ成長終わってる」


「むっきゅぅぅ! 失礼な! じゃあ、誰かさんに責任取ってもらうです!」


「そんな奴がいるのか。なら安心だな。どんな詐欺をしたのか知らないが──尚更逃げた方が──」


「レイさんですよ」


「……」


「黙るんじゃねーですよ!」


「……エマさんご冗談がお上手ですね?」


「何故敬語!? 私は……一生レイさんについて行きます……」


 いきなり声音を下げるエマの真剣な眼差しに俺は後ずさる。


「本気……なの……か?」


「……ふふふ……あははっ。冗談ですよ! 初めてレイさんのそんな顔見ましたよ? あー、可笑しい。じゃぁ、また明日──。必ず生き残りましょうね? おやすみなさい」


「……そうだな。必ず──生き残ろう……おやすみ……」


 冗談なの……か?


 本当に?


 不覚にも心拍数が上がってしまった……。


 でも、ここに残るのは本当だろう……。


 後は俺がベストを尽くすまでだ──

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