第24話 残るなら報酬をやる

「うんまっ! 何これ!? これがオークキング!? これぞまさに至高の肉っ! おかわり!」


 エマは豚肉(大人)の味に感動し、無我夢中で貪り食う。


「ほれっ、まだあるから食ったらいいぞ。えっと──お前ら名前は?」


 オーク(大人)の味に感動しているエマは置いて、一緒に来た冒険者達に話しかける。


「あぁ、俺はパーティ『旋風』のリーダーである魔法剣士のゲイルだ。Bランクだ。貴重な肉ありがとう……」


「同じく、回復術師のフランです」


「同じく、盾使いのジン」


「同じく、魔法使いのノエルよ」


「同じく、斧使いのガジルだ」


 おっ、凄くバランスの良い編成だな。しかも全員がBランクか……でもこいつらだと全員でゴブリン(大人)1匹ぐらいが限界かな?


 大多数の規模なら更に厳しそうだな。でも、まだまだ、強くなる可能性を秘めている。


「おっと、俺の自己紹介がまだだったな。俺はレイ──リディア教司祭だ」


 俺はエンブレムを見せて言う。


「「「なっ!?」」」


『旋風』の面々は目を見開いて俺を見る。


 この反応見るにエマは教えていなかったのだろう。


「レイさん──リディア教司祭である貴方でも討伐出来ないんですか? 村の外にはゴブリンキングが5体もいましたが……」


 こういう時の説明はエマだ──


 俺はエマを見る。


 エマはオーク肉(大人)を涙を流しながら食べている。邪魔すると可哀想だな。ドン引きするぐらいの勢いで肉を頬張るとまた後で動けなくなると思うぞ?


 さて、何と答えたら良いものか……そうだな──


「あぁ、ゴブリンぐらいは余裕だな。あれはこの村の置かれている状況をわかりやすく伝える為に残しているだけだ。オークも今食っているがこいつも、この森にいたからな。エマが──あの肉ばっか食ってる奴ね? あいつが出てからゴブリンやオークが異常発生してね。俺が村を守っていたんだ。殲滅に向かおうにも村の守りが出来ないからね。だから──お前らが来るのを待っていた」


 自分でもよくここまで言葉が出るなと感心する。


「なるほど……この状況は国で対応するレベルだと思いますが──レイさんなら問題ないという事ですね?」


「そうだな。別に殺そうと思えばいつでも表のゴブリンぐらい殺せるからな」


「さ、さすがリディア教の司祭……噂通り半端ないですね。一応、ここに来る前に国も討伐隊を派遣していました。数日以内に到着すると思いますがどうされますか?」


「ん? そうなのか? ならそいつらに任せよう。俺達は冒険者としてここを守ればいいだろ」


「しかし、私達は集落の討伐依頼を受けています」


「そんなもん破棄だろ。既に状況は変わっているんだ。お前らで10000を超えるゴブリンを対処出来るのか? 後、ゴブリンキングだっけ? あれがまだけっこういるぞ? ギルドにも後でそう報告したら大丈夫だろ」


 依頼より命の方が大事だと思うけどな。


「「「──!? そんなに!?」」」


「そうだ。お前らだけで討伐出来るのか?」


「無理……です……」


 リーダーのゲイルは悔しそうに言う。


「だから、国が討伐隊を出しているなら任せて村を守っておけばいいんじゃないか?」


「しかし……今回派遣された討伐隊の人数は約1000人……ゴブリン10000体とキングが複数ではさすがに無理かと……」


「まぁ、無理そうならベルに頼めばいいだろ」


「ベル?」


「俺の使い魔だな。表に男の子がいただろ?」


 正確には使い魔ではないが。その方が納得するだろ。


「……確かにいました……あの子……普通じゃないですね」


「まぁ、あいつに任せれば簡単に終わるからな」


「つまり──俺達はこの村の防衛をすれば良いという事ですね?」


 さすがBランクだな話が早い。


「そういう事だ。後、ギルドに戻った時にこの説明をしてほしい。確約するのであればお前らも俺が守ってやる」


「……このまま放棄して逃げる事も出来るんですよ?」


 むっとするゲイル。おそらく俺の言葉が引っかかったのだろう。


「俺の態度が気に入らないなら謝ろう。まぁ、別にそれでも構わない。真実は全て話した。お前らがこの報告をギルドにしてくれるなら特に問題はないからな。今は俺達が食い止めているが──お前らが再度討伐隊を編成して戻ってくる頃には討伐隊は全滅し、何万ぐらいのゴブリンになっているのやら。そして、その被害はとてつもないだろうな? お前らがせいで罪も無い人々が殺されるんだからな?」


 実際の所はこいつらが帰っても役目は済んでいるから速やかに事を終わらせるつもりだがな。村人の守りが欲しいのは事実だ。だから俺は真面目そうなこいつを煽る。


「ゲイル──受けた方がいいわ。この人──口は悪いけど、確実に強い──きっとこれぐらいなら余裕で片付けてくれるわ。なんせ──リディア教の司祭なのだから……」


 回復術師であるフランがそうゲイルに告げる。


 他の面々も頷いている。同意見のようだ。


「……わかった……確約しよう。俺はパーティーリーダーだ。逃げるのが悪いとは思っていないし、例え、ギルドに報告したとしてもちゃんと真実を報告はしていた。だが──罪の無い人々を黙って見殺しにも出来ない! 俺達はレイさん──貴方に協力する!」


 俺の思惑通りに進んで満足だな!


「パーティーリーダーはメンバーの命の事を考えなければならない──それは理解している。最悪の時は逃げればいい。まぁ、残ってくれると助かるのも事実だ。だから──俺がお前らに報酬を出そう」


 人を扱うには故郷の人が、飴と鞭を使いこなせと言っていた。そして経典にも『使える物は使え』とあったからな。


「報酬?」


「表で捕縛している大人のゴブリンを1人1匹ずつ殺す許可をやる。金が必要だから死体はやらんがな。殺せばそこそこ熟練度とやらも増えるだろ?」


「「「大人の? もしかしてゴブリンキング!? いいのか!?」」」


 これぐらいの報酬が無いとな。


 俺達の熟練度は残りの5匹を狩れば問題ないだろう。


「構わん。その代わり──俺の指示には従ってもらう。どうだ?」


「甘んじて受けよう。俺達はこんな所で立ち止まるわけには行かない」


「良い目だ。じゃあ、今日からお前ら俺の下僕な?」


「「「え?」」」


「いや、俺の指示に従うんだろ? 別に無茶を言うつもりは無いぞ?」


 固まる『旋風』メンバー。そんな中、エマの声が響き渡る。


「ぷは〜。美味しかったです! レイさん相変わらず悪魔の所業ですね! とりあえず一件落着ですね! でも、この肉に免じて私はレイさんを許します」


「安い女だな……」


「オークキングの肉なんか普通は一生お目にかかれないような物なんですよ!? 安くないですよ! 私は高い女ですからね!?」


「せめて、おっぱい大きくなってから出直して来い……」


「むっき〜っ! 人が気にしてる事をぉぉぉ!」


「さて、とりあえず討伐隊でも待つか……」


「無視するんじゃねぇーですよ!」


「さて、お前らも疲れただろ? 適当に休むと良い。明日に詳しい話をしよう」


 こうして、この場はお開きになった──


 と思ったのだが、エマに根掘り葉掘り色々と聞かれた俺は中々休めなかった。


 ちなみにスレイは離れた場所で肉を黙々と食い続けて、ベスと何やら懐かしそうにお話をしていた。

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