第23話 私も頑張った(エマ視点)
リディア教会で助祭をしている私は使徒様であるレイさんの補助に任命されました。
レイさんは天然で無鉄砲で世間知らずで──やる事が無茶苦茶ですが頭は悪く無いです。
そんなレイさんの指示でリディア教の神器である『黒の書』から出てきた魔剣ダインスレイブであるスレイさんが人化し、担がれて街まで戻りました。
1日以内に帰れるとは正直思ってなかったので驚きたした。
戻った早々に私は冒険者ギルドでレイさんの指示通りに依頼の変更を行います。
変更内容はCランクの『害虫駆除』からBランクの『ゴブリン集落の殲滅』です。
ちゃんと村が危機的状況だという事も伝え、早急に依頼を行ってほしいと報告しました。
これであの村は今後詐欺依頼をしたというレッテルは剥がれたでしょう。
そのまま、ギルドの方から国の方にも連絡をして貰いました。
ゴブリンは異常に数が増えます。昔にそれで国が滅びた事もあるぐらいなのでおそらく討伐隊を組んでくれるはずです。
まずこれで、一つ目の関門はクリアしました。
二つ目の関門は依頼を信用のおける人物やパーティが受けてくれるかです。
しかし、ここで依頼を受けたレイさんがリディア教という事がどこからか漏れてしまい──依頼変更した事が裏目に出てしまいます。
リディア教の司祭がいるなら問題無いだろう──
むしろ、司祭クラスが手に負えない依頼なのか?
その割に依頼がBランクで報酬が金貨2枚は低くないか?
と所々から聞こえてきました。
だから私も声を出します。
「レイさんは一人で村を襲ってくるゴブリンから守っているんです。手が回らないんです!」
そう言います。それで少しは疑問が解消されたようでした。
確かにゴブリンキングがいるので依頼自体はAランク以上ではあるので詐欺依頼になるのですが、実際にいたという報告は村からは聞いていません。
レイさんが言ってただけですからね。だから別に詐欺にはなりません。
なんせ依頼をした村人達は知らなかったのですから。レイさんが暴露してましたが……。
今回私達が欲しいのは討伐隊ではなく──証人です。誰でも良いから信用のある人物が来てくれたらそれで良いんです。
それに討伐隊は組みたくても組めないと聞きました。リディア信者は極端に戦闘に介入されるのを嫌うからです。その為、ギルドでは視察する目的も含めての依頼にしたそうです。そうすれば大義名分が出来るからと……。
受付嬢さんも依頼の募集を頑張ってくれました。
しかし、冒険者は誰も依頼を受けてくれません。
リディア教である事がここまで足を引っ張るとは思いもしませんでした。
レイさんの事だからずっと守って待ってくれるとは思うんですが、私も助祭として出来る事はしたい。
既に頼まれた事は終わりました。
私は毎日懸命にギルドで冒険者に呼びかけます。
それでも誰も反応してくれません。
そんな日々が続き──5日後には依頼から帰ってきたばかりのBランクパーティである『旋風』が依頼を受けてくれました。
私の必死な姿が目に入ったからだと言われました。
このパーティは最近有名になってきたパーティです。正義感も強く──依頼をこなす度に強くなっていると受付嬢さんから聞きました。
私もこの人達なら問題無いと思いました。
既に私が村から出て6日経過しています。
早く戻らないといけません。
しかし、『旋風』の人達も依頼から帰ったばかり、少し休息し、準備するのに2日かかりました。
そして、8日が経過しました。
私が『旋風』の道案内をして向かう頃には──
国からも討伐隊が編成されて進軍している所でした。
私達は討伐隊より先に向かいます──
『旋風』は馬車を持っていたので、おそらく2日もあれば村に到着するでしょう。
道中の魔物はスレイさんが「暇だ」と言って細切れにしていました。
「ゴブリンばっか血を吸ってたから、どんな血でも美味く感じるぜ!」と言っていました。
あぁ、可哀想なスレイさん……レイさんには私からも言っておこうと思います。彼女のお陰で私は安心して街まで戻れましたから。
『旋風』のメンバーさん達は一瞬で細切れになって行く魔物に空いた口が閉じませんでした。
そして──
村から出て10日が経過する頃には──村に到着します。
その時、私達が見た光景は──
ゴブリンの骨であろう物が村の周りに大量に放置された姿でした。よく見れば村のバリケードにも骨が使われており、入るのを躊躇う光景です。
『旋風』の皆さんの顔が引き攣りました。私はレイさんならこれぐらいやるだろうと思っていたので多少は驚いたもののそこまでではありません。
他にもゴブリンキングが雄叫びを上げながら5体も蝿で束縛されており、それを眺める
この男の子は涼しい顔をしながら、雄叫びを上げるゴブリンキングに石を投げて黙らせています。
『旋風』の皆さんはまず、ゴブリンキングが五体も存在している事、そして更にそれらを捕縛している事に驚愕していました。
後、ベル君の強さがわかるのでしょう。ベル君を見ると顔面蒼白になっていました。
ベル君に挨拶して中に入ると、私達は更に困惑します。
村の人達──老若男女問わず、木剣を持って訓練をしていました。
「腰が高いっ! それだと殺されるぞ! 良いか!? 剣を振り抜く時はこうだっ!」
レイさんが村人に指南していました。しかも振り抜いた剣戟からは衝撃波が放たれ──
家が破壊されます。
それはもう粉々です。
「「「はいっ!」」」
そんな惨状なのに村人達はそれが当たり前のように返事をしています。
私は思いました……。
私の居ない間に何があった!?
と……。
ちなみに『旋風』の皆さんはここに来る意味があったのか? とミーティングしていました。
私も申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ですけど、村をちゃんと守っているレイさんはやはり凄いんだなと誇らしくなりました。
さぁて、何が10日の間にあったか聞きましょうかね。
私は久しぶりに見たレイさんに声をかけます。
「レイさん! ただいま!」
「ん? おっ! おかえりエマ! この間狩った美味い豚肉があるぞ! 食うか?」
「はいっ! レイさん、その豚肉ってオークじゃないんですか?」
ふふっ、私もレイさんの事は段々とわかってきました。きっとオークの事を豚肉と言っている事ぐらいわかりますよ?
「おっ、よく分かったな? オークの大人だ!」
「それって──オークキングですかね?」
「なんか村長達もそんな事言ってたな! まぁ、美味いから食おうぜ!」
こんの人は何言ってやがるんですかね!? オークキングの肉とか滅茶苦茶高く買い取ってくれるんですけど!?
はぁ……やっぱり私がいないとダメですね……。
「……レイさん……オークキング1体で今年分ぐらいの上納金は稼げましたよ?」
「──え!? マジで!? まぁ、美味いし食った方がいいって! さぁ、焼肉パーティしようぜ! そいつらが依頼を受けた冒険者だろ? お前らも来いよ!」
「「「あ、はい」」」
「全く……レイさん、後で説教ですからね!」
無茶苦茶な人だけど──なんか安心出来る……レイさんは不思議な人です。
「はっはっはっ、俺は何も悪い事してないぞ? さぁ皆──飯の用意だっ!」
「「「応っ!」」」
ただ、村人達が戦闘民族みたいになってる事だけはちゃんと聞き出しますからね?
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