第21話 折れない心を持て
俺とベスは森の中に食料を探しに出ている。
これが最近の俺の日課だ。
村の食料は畑も荒らされて、備蓄が尽きかけているからだ。
離れた場所にある村では行商人も来るのだが、おそらくゴブリンが頻発に現れるせいで引き返している可能性が高く、誰も訪れないとのこと。
つまり、食糧難なのだ。
だからこそ俺が肉を捕獲する為に狩りをしている。
今日も村人に感謝されたいしな。
とりあえず──
「ベス」
『がる?』
「とりあえず──攻撃を見せてくれ」
『がる!』
「良し、とりあえず──あそこの木に放て」
「「「ごっぶぅ──」」」
その瞬間に右から順に炎、氷、毒のブレスが3方向に放たれる。
木々は炎により消し炭、氷柱により貫通、毒により溶解していた。
そして、近くにいたゴブリン数匹も巻き添えにしていた。魔力も回復している。これはもう確定で良いだろう。
ベルが毎日、ゴブリンを殺しているから魔力が減らないし『黒の書』から3人出してても維持するのは楽だな。
「凄いぞ〜。これで遠距離攻撃も大丈夫そうだな。ただ素材とか肉が取れなくなるから俺が合図するまではそのブレスは使わなくていいぞ」
とりあえず、わかったのは魔法撃つより、ベスの方が楽だな。
『がるる』
「よし、じゃあ肉を探そう。ベル──肉はどこだ?」
『そこまま進めば豚がいますよ』
俺の側にはベルの分身の蝿がいる。そいつらが索敵して俺に情報をくれるからとても狩りが楽だ。
「豚か……いいな。がっつりしたステーキとか食いたい。行くぞ」
『がるん♪』
ベスも肉が食いたいのだろう。
『僕もステーキ食べたいですね』
「いや、お前はゴブリンでいいだろ」
『えー、さすがに違うの食べたい』
「余ったらやるよ」
『それでいいや。とりあえずそのまま進んでしばらくしたら豚がそれなりにいるよ』
「わかった──その前に……ベル……説明を」
俺は後方にいるラキにを見ながらベルに催促する。
『レイさんがついて来るように許可したと聞いたからそのまま出したよ』
「全く……ラキっ! こっちに来いっ!」
「……はい」
「何故、村から出て来た? ここは危険な場所になっている。子供が出てきて良い場所じゃない」
「僕も戦いたいです!」
「……はぁ……まぁ10歳だし良いだろ……俺も5歳の時は既に子供のゴブリンぐらいは殺してたしな」
『……ここにエマという子がいないのが悔やまれます』
なんでだよ!? 確かにエマがいないからちょっと寂しいが──今、エマが必要な場面なのか!?
「とりあえず、ラキ……俺の指示には必ず従え。ベスはラキの護衛だ」
『がる!』
「はい!」
「じゃあ豚でも狩りに行くぞ」
しばらく俺達は歩いて行く。
すると──
二足歩行の大きな豚がいた。
「ベル……あれはオークという魔物だぞ?」
『知ってますよ。まさか、レイさんに言われるとは……でも豚は豚でしょう?』
まぁ、確かに豚である事に変わりはないな。
「それじゃ、豚を狩るか──「レイさん……」──なんだ?」
ラキは俺に話しかける。
「……あの奥にいるのってオークキングでは? 爺ちゃんの本に書いてたよ?」
へぇ、村長はそんな本も持っているのか……欲しいな。
「ラキ……あれは大人のオークだ。だからオークに変わりはない」
「わかりました! なるほど、オークも大人になるんですね! じゃあ、あの周りにいるのが子供ですね!」
「そうだ。子供はゴブリンより少し強いぐらいだが、ラキにはまだ早い。そこで見学していると良い」
「はい!」
うん、素直でよろしい。
きっとここにエマがいたら色々言うのだろうが、いないから別に構わないだろ。
さて、肉が大量にある。その数──約200。まだそこまで規模も多くないな。
まぁ、これだけあれば当分の食料は問題無い。
さて、ベルに任せると肉が無くなる可能性があるし、ベスに任せると食えるかどうか怪しくなるな……氷ならまぁ問題ない気もするが、ここは俺がやろう。
鈍った体を少しでも動かしたい。
俺は剣を取り出す──
もしかしたら討伐部位があるかもしれないから出来るだけ綺麗に倒したい。
後で村長に聞くか……。
俺は次々と豚の鳴き声が響く中、オーク(子供)の首を斬り落としていく。
「す、凄い……」
ラキは俺に羨望の眼差しを向けてくれている。
こういうのは今までなかったから正直嬉しい。
俺の故郷じゃ、これぐらいは普通の事だったし──エマもこの間、同時に一瞬で倒すと「おかしいでしょ!」って怒ってたんだよな……。
「オマエコロス」
さすがオークの大人だな。人の言葉を話せる。
「いや、無理だろ──むん」
俺は他のオーク(子供)と同じように首を跳ね飛ばす。
その顔は何が起こったかわからないような表情をしていた。まぁ豚顔なのでなんとなくそんな気がしたんだが。
「うおぉぉっ! レイさん凄い! 俺もいつか強くなりたいです! どうやったらなれますか!?」
「……そうだなー。訓練を諦めずに続けるのは当然ながら──まず折れない心が大事だな」
「折れない心ですか?」
「そうだ。ラキはまだ実戦をした事がないだろう?」
「はい……」
「生き物を殺すという事は覚悟がいるものだ。殺す──つまりは誰が相手であれ、その者の命を奪い、未来を終わらせるという事だ。殺した後、ラキは後悔するかもしれないし、何も感じないかもしれない。それはわかるか?」
「わかりません……」
「そうか、ならいつかわかる時が来る。その時にラキが剣を握れない──そんな事が無いようにな? それが一つ目だ。二つ目は──殺し合いに勝てるという保証なんかは無い……もし、自分が勝てない相手と対峙した時──恐怖に負けて足がすくんで腰を抜かすかもしれない。ラキがその時に立ち向かったり、考える事を止めれば──死ぬだろう。だからこそ折れない心を持て。そして足掻け」
「──はいっ!」
「生き残る事が出来れば、また強くなってリベンジしたら良い。今言ったのは故郷の人が言っていた言葉の受け売りだがな」
「俺にはまだよくわかりません──だけど……レイさんの言葉は肝に銘じておきます!」
「それで良い……戦っていれば、どうせいつか──わかる時が来る。いいか? どんな苦境であっても諦めるな」
「わかりました! ちなみにレイさんは初めて殺した時とか勝てない相手に対峙した時はどうしたんですか?」
「俺か? 俺は何も感じなかったな。いきなり大量のゴブリンの中に放り込まれてそれどころじゃなかった。──勝てない相手か……あの時は無鉄砲に立ち向かったが、結局──兄が俺を助けて死んだな。だから考えて動け。後悔しない為にな」
「レイさんでもそんな事があったんですね……」
「あぁ、だからこそ折れない心を持て。そして覚悟もな? さぁ、辛気臭い話はこれで終わりだ。豚共を持って帰って──今日は焼肉パーティだな!」
俺はオークを『黒の書』に収納する。
「はいっ!」
『がるん♪』
『焼肉♪』
俺達は村に戻る──
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