第20話 癒しが欲しいんだ
もう、ここに来てから5日が経った。
「本当にありがとうございます! レイさんのお陰で村は生き残っております!」
朝から村長に感謝の言葉を告げられる。
別に村長だけでは無い。村を歩けば全員が俺に礼を言う。
最近はゴブリン(子供)が更に増え、中には剣や弓などの武器を持ったゴブリン(青年)も出て来ており、もう村人では対処出来ない規模で襲って来ていた。
当然ながらベルが全て喰っている。
ベルは生物じゃないと食べれないらしい。骨はいらないらしい……。
右耳と武器類はまとめてくれているので、たまに俺がベルの元へ行って俺が回収しているが……。
ちなみに俺は暇すぎて基本的に鈍らないようにトレーニングをしている。
最近では村長の孫も懐いて一緒にしている。孫と言ってもララではなく、弟の方だ。
名前はラキと言っていた。
まだ10歳だが、負けん気が強い。
どうやら姉であるララを守りたいようだ。
強くなりたいというのは良い事だし、誰かを守りたいという気持ちは尊重したい。
是非、俺みたいに逃げ出さずに頑張ってほしいものだ。
後は食料調達もしている。さすがの俺も何もしないわけにはいかないからな。
昨日なんかは中々大きな獲物を仕留める事が出来たので村人達も大喜びだった。
久しぶりの美味い肉だったな。
さて、肝心の国や冒険者ギルドからの救援なのだが──まだ来ない。
村を歩けばゴブリンしかいないので、このまま勝手にゴブリンを殲滅してしまいたいが村の為にも我慢しなければならない。
とりあえず、右耳と武器の回収の為にベルの元へ向かう事にする。
すると、山積みされた骨の中にゴブリン(大人)がベルによって拘束されていた。
「ベル、良くやった。とりあえず1匹目の捕獲完了だな」
「そうですね。後4匹いますからね。数も5倍ぐらいになってますから食事には困りません」
なんか日に日にゴブリン(子供〜青年)が増えてるんだよな……しかもゴブリン(大人)が更に増えた。元々は3匹だったんだが……。
けっこう大きな森だが、5000を超えるゴブリンがいると思うと入りたくなくなるな。
このままだと更に増えそうだな。
こいつらどうやって増えてるんだろうか?
「ベル、ゴブリンってどうやって増えるんだ?」
「ゴブリンは異種族との交配でも増えますが──魔力溜まりが原因で増える事がありますね。今回は後者です。しかも人為的にですね。何者かが空中にある魔素を集める魔法陣を森のど真ん中に刻んでいます。それが原因かと」
そうなんだな……俺の故郷はその魔力溜まりがあるのかもしれないな。ゴブリン(大人)が多かったからな……。
「なるほどな……それを破壊するのが1番か……」
「ご武運を」
「いや、今は行かないぞ? 行くとしたら、冒険者達が到着してからだな」
そもそも、ゴブリンぐらいならそこまで慌てる必要も無いだろう。たまに違う魔物が出てくるけど……。
「あの魔剣サボってないですかね? あいつなら1日ぐらいで街まで行けるでしょ」
「魔剣ってスレイか? まぁ、大丈夫だろ。どちらかと言うと──エマが説得に苦戦してるんじゃないか? それにギルドとかが優秀なら討伐隊を組むかもしれんし、人集めもある。ここまで大世帯で来る事になるだろう。早くても後2日は来ないんじゃないか?」
「人族って面倒臭いですね」
「俺もそう思う。なんか偉いさんとかは直ぐに動かないとか故郷で皆言ってたしな」
「まぁ、もうしばらくは食事に困りそうに無いので僕的には構いませんがね」
「そうだな。その調子でガンガン頼むわ。俺は他の奴でも本から出してみるかな」
「おっ、良いですね。たぶん喜ぶと思いますよ? どんな奴が良いですか?」
「そうだなー、今の所は戦力はベルがいたら十分だろうし──マスコット的な奴がいいな」
最近、ゴブリンの見過ぎで俺の心が汚れてる気がする。こいつら見てたら無理矢理食わされた時がフラッシュバックして気持ち悪い。
癒しが欲しい。
「いますよ? 確か──12ページに犬がいましたね。そこそこ強いし護衛にも使える奴ですよ?」
俺はページを開く。
「へぇ〜。どれどれ……なんかこれ俺の知ってる犬じゃないんだけど?」
「まぁ、その本に入ってるのは大昔に存在してた奴らですからね。出してみて気に入らなければ本に戻したら良いのでは?」
「そうだな。名前ぐらいは見ておくか……えーっと……ケルベロスかな?」
俺は本からケルベロスを出す為に『黒勢』を込める。
襲われても大丈夫なように油断はしない。
──気が付けば目の前に大きな3つの首を持つ犬が現れる。
『がるるぅぅぅぅ』
口が3つあるから鳴き声が重なって聞こえてくるな。煩い……。
「お座り。後、煩いから黙れ」
『がる』
おぉ!? 初めて出てきた瞬間に襲われなかった上に言う事を聞いた!?
でも、癒しにはならないな……大きな口からは鋭い牙も見えるし、涎も流れ続けている。
普通に見た目は怖いだろこれ……。
「お前、もっと小さくなれないのか? 後、喋れないのか?」
『なれます』
そんな言葉が頭に直接聞こえた瞬間に普通の犬サイズになった。
「おっ! 小さくなって可愛いな! しかも──スレイみたいに頭に直接聞こえてくるぞ?」
しかもこれ、女の子の声だな。
「レイさん、それは『念話』です。意思を伝える為のスキルですね」
「便利だな。ベルも使えるのか?」
「この本に入ってる奴らは全員使えますよ」
なるほど……じゃあ、今度試しにページ開いて話しかけてみるか。
というか、それが出来るならお前も最初に出した時に使えよな。
「『念話』か……いつか俺も使ってみたいな。まぁ、今はそれよりこいつだな……人にもなれるのか?」
『はい』
一瞬光った後は目の前には明るい金髪のボブカットで金色の瞳を持つ3人の5歳ぐらいの女の子がいた。
同じような姿だし、三つ子みたいだな。
名前どうしよ……ベルやスレイみたいに短縮したように決めたいが……女の子だし短縮し難いな……。
一応聞くか……。
「名前とかある?」
「「「ケルベロスです」」」
ですよね! わかってた!
何て呼ぼう……そうだ! 故郷で教えて貰った文字の読み方でいいだろ……。
「判別しにくいから名前をつけるぞ。右からアルファ、ベータ、ガンマだ。3人合わせてベスで行こう」
「「「はい」」」
素直でよろしい!
他の奴らもこれぐらい素直なら良いのにな。
「それでお前らは何が出来るんだ?」
「私は炎が吐けます♪ 火葬万歳!」
陽気な感じのアルファ──
「私は──氷が吐けます。串刺しにして磔にするのは任せて下さい」
吊り目で少し冷たい印象のベータ──
「私は毒が吐けます。敵の苦しむ姿が見れます」
凄く暗いガンマ──
こうやって別々に話すと識別しやすいな。
ちょっと特殊な自己紹介のような気がするが。
「……わかった。後で試そう。今は小さい犬になってくれるか?」
「「「はい」」」
「小さいと可愛いな……」
俺はケルベロスの頭を撫でる。
あぁ、これなら癒されるな。
「レイさんは幼女が好きなんですね?」
「違うわ!」
ベルとたわいもないやり取りを終えて、俺は食料調達に向かう。
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