第18話 心意気を買おうと思う

「冒険者の方。お待たせ致しました。お金が用意できましたのでこれで依頼内容をゴブリンの集落殲滅にしてBランクの依頼に変更をお願いします。もしかしたら──集落がある以上……ゴブリンキングがいるかもしれませんので、その時はキャンセル可能とお伝え下さい」


 村長はかき集めてきたであろう硬貨を机に置く。


 金額にして金貨2枚分ぐらいはある。


 そこまで裕福では無い村で俺の故郷と同じく、お金が必要のない生活をしているのだろう。


 これは村の全財産なのかもしれない。


 そして、村長はゴブリンキングとやらの存在にも勘づいている。昔は優秀な冒険者だったのが推測出来る。


 これがこの村の──だとわかる。


 村長に嘘偽りはなかった。本当に村想いの良い村長だなと思う。


 これは村長の男の意地だ。


 だからこそ俺は討伐するとは言わない。面目を潰したくない。


「確かに受けとりました。エマ──」


「何ですか?」


「お前が街に戻って依頼をしてこい」


「レイさんは?」


「俺は──ここに残る。ゴブリンキングとやらがいる以上──どうせこのままだとこの村は全滅する。俺が冒険者やらが来るまで守っておいてやるよ」


「「──!?」」


 村長とその息子はゴブリンキングの言葉に驚く。


「殲滅する予定だったのでは?」


 殲滅はするが懸念がある。


「予定に変更は無い。俺は村長の心意気に胸を打たれた。この村が生き残っても──詐欺依頼を出したという事実だけが残ったなら、この村の依頼は今後は受けてもらえるのか?」


「……おそらく受けてもらえません……なるほど……誤解を解いてこればいいんですね?」


「そうだ。俺はこういう人は嫌いじゃない。だからこそエマに頼む。お前なら上手くやってくれるだろ?」


 こういうのは俺よりエマ向きだろう。それに俺はここから離れる事は出来ないからな。


「──はいっ! 任せて下さい!」


「任せた。俺はお前が帰ってくるまで殲滅はしない。その間は村をしっかり守っておいてやる。証人は必要だろ?」


「なるほど……今後の憂いを無くす為に動いてきますね?」


 わかってくれたようだな。


 この村はただ救うだけでは意味が無い。


 詐欺依頼を出したという事実が残るだけで、今後──脅威がまた訪れた時……冒険者ギルドは依頼を受理しないのは明白だ。


 黙っておけばいいかとも思ったが──討伐履歴にゴブリンキングとやらが記載されるのであればいずれバレて疑われるだろう。


 だから俺はエマに頼る。


 エマは賢い。俺のこの会話だけで察してくれた。


 きっと意図を察して上手い事立ち回ってくれるだろう。


 村長の顔を見るに村長も俺の意図はわかってはいるようだが──そんな表情をしている。


「すいません……レイさんでしたか? レイさんはゴブリンキングや集落ぐらいなら殲滅出来るという風に聞こえてきたのですが? Dランクですよね?」


「あぁ、そうだ。俺一人で対応可能だ。つい最近、冒険者登録をしたからランクはDだがな。だが──」


 俺は便利アイテムである──


 リディア教司祭の銀色に輝くエンブレムを出す──


「こ、こ、これは!? リディア教司祭の証!? なるほど……平気で残ると言うわけだ……」


 村長は驚きながらも納得する。


「ふっ、そういう事だ。俺は村長、あんた程出来た奴に久しぶりに会った。必ず──俺が守ってやる」


 俺は余裕の笑みを浮かべて安心させるように言うと。


「……あ……あ、ありがとうございますぅ……」


 村長は年甲斐もなく涙を流しながら礼を言う。


「レイさんって、やっぱり馬鹿じゃないですよね……」


 エマは本当お前は失礼な奴だな! 空気読んでくれ!


 ベルなんかお腹抑えて蹲って黙ってるだろ!? たぶん腹が減ってるだけだと思うけどな!


「……エマ……お前に護衛を付けようかと思っていたがやめておく……」


「え!? 護衛つけてくれるんですか!? ありがとうございます! レイさんは本当、助祭想いですよね! 本当いつも感謝してます!」


 ……なんて調子の良い奴なんだ……。


「……スレイ──」


「あれ!? 何で外に!?」


「ん? ベルの時に強制的に出したり出来るだろうと思って、それを試したら出来ただけだか?」


 いつもより魔力が必要だったけど。


「ベル? ──!? 暴食の王!? まさかお前本当にこいつを出したのか!? しかも五体満足だし!?」


 この言葉からベルを出した奴は今まで五体満足じゃなかった事が伺える……やっぱりヤバい奴だな。


「そうだな。今は一応俺の指示に従ってくれてるぞ? それでスレイ──お前に選択肢を与えよう」


「……お前……予想以上の大物だな……。選択肢とは?」


「エマの護衛をして無事に送り届けてここに戻るか──ひたすらゴブリンの血を飲むか──「エマの護衛をする!」──返事が早くてよろしい」


 そんなにゴブリンの血を飲むのが嫌なんだな……まぁ、返事が早くて助かるが……。


「ちなみにスレイはエマを担いで走れるか?」


「当然だろう」


「なら道案内をしてもらえ。エマの足だと到着が遅い。担いでとっととこっちに戻れ」


「わかった──「きゃっ」──エマ行くぞ! 私はゴブリンの血は二度とごめんだ!」


 エマを担いだスレイは一瞬にしてその場から離脱した。



「何も無い所から人が出てきた……」


 村長の息子は唖然と俺達を見ている。まぁ、何も知らない人から見たらそうなるよな。


「……レイは使徒様なのですか? そこにいる子供は暴食の王と聞こえてきました……【暴食の王】蝿の王ベルゼバブは──リディア教の使徒様が昔に使役していたと昔に聞いた事があります」


 この村長さん、けっこう物知りなんだな……いや、俺が知らなさすぎるだけか?


 実はリディア教ってかなり有名とか? 


 ……まぁ有名だろうな……あれだけ人が避けるぐらいだし……。


「さぁな……想像にお任せする。時に村長よ──俺は今日寝る所が無い。飯や部屋は用意してくれるのか?」


「もちろんです! ここを自分の家だと思って下され!」


 うん、これで寝床と飯は大丈夫だな。


 後はエマの朗報を待ちながら、村をのんびり守ろう。


 こういう田舎みたいな村は故郷を思い出すな。敵も大した事ないし、スローライフだと思おう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る