第17話 状況が変わった

 あれから村に速度を上げて向かい──1日経過した。


 ベル曰く、今の進軍速度だと後、半日ぐらいだと言う。本当はもう少し早く行きたいのだが、エマの体力的に難しい。昨日の夜も疲労困憊で倒れていた。


 とりあえず、今の所は村にはそこまで大きな被害は出ていないそうだ。


 昨日の夜にベルの『視覚共有』でまた見た感じだと──村の規模は大体200人程度で戦える人はざっと20人ぐらいだった。


 たまに現れるゴブリンの対処をしているみたいなのだが、昼夜問わず現れるせいで弱いと言っても疲労が溜まっているようだ。


 後少しで到着するし、元凶を仕留めたら元の生活に戻れるだろう。


「レイさん……腹が減りました……食い物を……」


「ほれ」


「……また干し肉……栄養が足りない……」


 俺は頻繁に食事を強請ってくるベルに少し嫌気がさしてきている。


 俺達の非常食は既に枯渇寸前だ。こういう時に限って食べられる魔物が現れないのは不思議なものだ……。


 そもそも、こいつの胃袋はどうなっているんだ?


 ずっと腹減ったしか聞いていないぞ?


「もう少ししたら大量に食えるんだから我慢しろ」


「レイさん……私もう走れないです……」


 急に止まったエマは泣き言を言う。


「体力無さすぎるだろ……」


「いやいや、レイさんがおかしいんですよ……私けっこう足には自信あるんですよ? 何で休憩もしないで走り続けれるんですかね?! しかも息切れも汗一つ無いし!」


「鍛錬の賜物だ」


「……もういいです。とりあえず走れません! おんぶして下さい!」


「……おんぶって背中に乗せて運ぶやつか?」


「そうです! このままだと私は戦闘出来なくなります! 余裕そうなレイさんなら私を運んでも大丈夫でしょ?」


「運ぶのは問題ないが……別に俺はエマが動けなくてもゴブリン如きに遅れは取らんぞ? だから安心して走れ」


「……鬼! もう足が痛くて動かないんですよ……」


「そうか──『回復』──これで少しはマシだろ?」


『黒勢』を使いながら魔法を使用する。


「だ・か・ら! そんなクソみたいな回復魔法なんて効かないですから!」


「いや、一応効果あるだろ?」


「……確かに……何か前より回復してる? 黒い魔力が関係してる?」


「俺だって少しずつ成長しているんだよ。サポートは任せろ」


「サポートって……今回はレイさんのサポートは入りませんからね! むしろ私がサポートです! それに効果が少し上がった『回復魔法』でも安物のポーションの方が効果高いですから!」


「……そんなに効果低いのか……。まぁ、今回はベルが頑張ってくれるさ。俺達がサポートしたら良いだろ」


「え? 僕が退治していいの?」


「だって、お前食いたいんだろ? 全部やってくれたら良いぞ? そもそも俺は支援術師だからな」


「やった! あれだけ食えばそこそこ足しになる!」


 いや、1000匹でそこそことかお前の胃袋どうなってるんだよ!?


「さぁ、あと少しで着くだろうし急ぐぞ」


「「はーい」」


 1人はうきうきしながら、もう1人はまた走るのかと撃沈しながら走り出す。



 途中、エマがまた駄々をこねたので肩に担いで走ったので数時間後には村に到着した。


「肩じゃなくて背中ぁぁぁっ、もしくは乙女の憧れである、お姫様抱っこぉぉぉぉっ」


 と、途中でエマが叫んでいたが……。普通にお姫様抱っこもしてやったはずなんだが「もっとムード良くしてくれませんかねぇ!?」とかダメ出しされてしまった。


 文句が多いなと思う。



 そして今は到着し、目の前を見ると村の周りには木で出来たバリケードがあった。


「すいませーん」


 俺は一応外から声をかけると中から若い男が返してくれた。


「こんな村までどうされましたか?」


「ギルドの依頼で来た冒険者だが?」


「おぉ!? ついに来てくれたんですね! ささ、扉を開けますのでどうぞ中に!」


 とても快く中に入れてくれるな。まぁそれだけ切羽詰まっているのかもしれないが。


「依頼主である村長はどこだ?」


「はい、こちらになります! ──親父っ! 冒険者の方が来てくれました!」


 男は俺達を少し大きめの家の前まで案内し、中に呼びかける。この者は村長の息子のようだな。


「中に入ってもらってくれ」


 俺達はそのまま扉を開けて中に入る。


 すると、初老ぐらいの男性がやつれた顔で座っていた。


「お前が村長か?」


「そうです……貴方が冒険者ギルドから派遣された方ですか?」


「あぁ」


「失礼ですが、あなた方のランクは?」


「俺とこいつはDランクだな。この子供はただの知り合いだ」


「Dランクですか……すいませんが、お帰り下さい」


「何故? お前らは依頼をしたのではないのか?」


「状況が変わりまして……最初はゴブリンが多いぐらいだったのでCランクの依頼を出したのですが……どうやら村の者が集落を発見したようなのです……依頼をキャンセルしようにもゴブリンが多くて……それに集落の討伐はDランクでは厳しいです……」


「ふむ……一つ聞きたいのだが──なぜ害虫駆除という依頼内容にしたんだ? ゴブリンと記載していればもっと早くになんとかなったかもしれないじゃないか?」


「……? お話から察するに村の依頼内容がゴブリン討伐ではなく、害虫駆除になっていたという事ですか?」


「そうだ。……なるほど、依頼する時にミスがあったのか……」


「あぁ……何と言う事だ……それで中々冒険者の方が来られなかったのか……」


「そうみたいだな」


「申し訳ありません。そんな依頼内容でも足を運んで頂き、感謝しかありません。ですが、この数は異常です。一度冒険者ギルドに帰って頂き──依頼内容の変更を頼んでもよろしいでしょうか?」


 村長が俺に頼んでいる時に横槍が入る。


「親父っ! せっかく来てくれたんだ! 討伐させたら良いだろ!? それにこれ以上──この村に金なんかないんだ!」


「──馬鹿者がっ! お前が依頼内容の記載を間違えるからこうなったんだろうがっ! 冒険者という職業は危険な職業だ! 依頼の記載に間違いがあってはならんのだ! それで命を落とす事だってあるんだ!」


「……ぐっ……ごめん……でも……このままだと皆死んじまうよ……もう皆、1週間まともに寝てないんだ……いつかゴブリンが侵入して来る……」


「それも仕方あるまい……冒険者のお方──すいませんが、依頼はキャンセルでお願いします。むざむざこんな所で死ぬ事はない。何、心配する必要はありません。私も昔はBランクの冒険者でした。他の冒険者の方が到着するまでは持ち堪えてみせます」


「本当に──いいのか?」


「はい……これも運命でしょう……村の長として私はここで皆を守ります」


「そうか……」


「ちょっと待っていて下さい。これからお金を集めて来ますので──」


 村長は外に出て行く。


 この場には村長の息子と俺達だけが残る。


「なぁ……無理を承知で頼みたい……討伐してくれないのか?」


「それは無理だ」


「「え?」」


 村長の息子が俺に聞くが即座に断ると、エマとベルが討伐しないの? と言いたげな顔をして俺を見る。


「そうですか……」


 しばらく無言の時間を過ごすと村長が戻ってきた──

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