第16話 これがゴブリンだろ

「エマ急ぐぞ。ゴブリンのがいる」


「?? 昨日からいったい何を言ってるんですか? ゴブリンに大人なんかいませんよ?」


「いや、いるだろ。ベル、エマにも見せれるか?」


「お安い御用です──」


「えっ? 目の前にいっぱい視界が!? 凄い……──ってゴブリンキングがいるじゃないですか!? 依頼だとAランク以上推奨ですよ!?」


「ゴブリンキング? ゴブリンはゴブリンだろうに? 大人と子供の違いだろ?」


「……まさかレイさん……この大きな武器持ってる巨体のゴブリンの事を大人のゴブリンって言ってるんですか?!」


「そうだ。昨日倒してたのは棍棒しか持ってないし、知能も低い。つまり子供だ」


「ちがぁぁぁうっ! ゴブリンが最終的に進化したのがゴブリンキングなんです! あれはゴブリンの最強種です! 最強種は下手したら国が滅びる事もあるから発見次第報告の義務があるんです!」


「いや、あれは最強種じゃないぞ? 俺の故郷じゃ、更に強いゴブリンがいたからな……」


 あれぐらいで国は滅びないだろ……あれより強いゴブリンの方がヤバいぞ? 俺1人だと即死亡だからな。俺を訓練してた母さん達は普通に狩ってたけど……。


「……どんな魔境に住んでたんですか!?」


「田舎?」


「こんの世間知らずが! 今はそんな事より、ギルドに報告しないとですよ! こんなの普通は数人で対処なんか出来ません! 速やかに討伐隊を組む手配をしないと……」


 俺からするとエマの方がその辺は世間知らずなんだが……故郷にはゴブリンキングとやらを従えてるゴブリンがいたんぞ?


「いや、これぐらいなら倒せるぞ? よく倒してたからな」


「あんた絶対おかしいって! だからゴブリンが強いって言ってたんですか!」


「そうだ。俺の中ではあれがゴブリンだからな」


「こんなに価値観が違うとは……」


「全くだ……」


「何でそっちがやれやれみたいな態度してるんですかねぇ!?」


「まぁ、討伐は問題ないが──報告義務とやらがあるのであればエマが行って来い。俺は手遅れになる前に向かう」


「……わかりました……レイさんがゴブリンキングが問題無いと言うのであれば問題無いのでしょう……だけど、私は報告しません! このままついて行きます! 私は助祭──レイさんの補助ですからね?」


「ふっ、良い目になったな。ゴブリンぐらいなら俺がちゃんと守ってやるから安心しろ。さぁ──行くぞ──?」


『黒勢』を使うと前より強いから守れるだろ。


「……は……い」


 よく見ればエマはもじもじとしている。


 ……なるほど……。


「……着替えて来い……」


「はい……」


 そそくさとエマは物陰に着替えに行く。


 まさかお漏らしをしているとは……ベルが怖かったんだな。


 もはや何も言うまい……。


「……」


 しばらくすると無言で出てくるエマ。ベルも空気を読んで黙っている。まぁお前のせいだしな。


「さぁ、行くぞ」


 俺達は無言で走り出す──



「エマ──」


「……」


 さっきからエマに声をかけているのだが、ずっとこんな感じだ。


「気持ちはわかる……だけどお漏らし──「黙れ」……」


 エマから聞いた事のない低い声に俺は言葉を止める。


 触れられたくないのだろう。


 しかし、村についてからの事も話しておきたかったのだけど、今は無理そうだ。


 仕方ない……ベルに話しかけよう。


「ベルは手伝ってくれるのか?」


「そうですね。良い暇潰しになりそうですしね」


「それは頼もしいな」


 ベルの強さならぶっちゃけ余裕だろう。


「ただ、報酬が欲しいです」


 確かにタダ働きは良くないよな。


「何が欲しいんだ?」


「今回は久しぶりに食事がしたいんですよ。腹ペコです。血肉を何でも良いですから食べたいですね」


「ほれ」


 俺は走りながら非常食である干し肉を渡す。


「……レイさんは天然とか言われませんか?」


「……言われない……」


「……嘘ですね。僕が欲しいのは──今回ならゴブリンの死体で結構です」


「え? お前あれ食うの? マジか……お腹壊すぞ?」


「……変人を見るような目で見ないでくれますか? 僕は常に腹が減ってるんです。肉でも野菜でも好き嫌いはしない派です」


「……そうか。なら右耳以外はやろう。右耳は金になるからな」


「わかりました。それで結構で──「ゴブリンキングの死体はダメです」──何故? レイさん?」


 右耳以外は食わせて良いだろと思っていると、黙って聞いていたエマからストップがかかる。


「エマ理由を」


 俺はエマに理由を言うように促す。


「キング種はお金になります」


 それは大事な事だな。


「ベル──ゴブリンキングとやらは食ったら強制的に本に戻して二度と出さないからな」


「え? そこまでですか!? お金が必要なんですか?」


 俺の物言わせぬ雰囲気と言葉に驚くベル。


「そうだ。上納金を集める為に必要だ。だから食うなよ? 他にも金になりそうなのを食っても同じだからな? エマの言う事は聞けよ?」


 俺は殺気を出しながら言う。これだけは譲れないからな。


「……わかりました。約束守れば──僕はこのままずっと出してくれるんですか?」


「……お前の働き次第だな。後、俺の命を狙わなければ問題無いな」


「そうですね……どうせ弱体化してる状態で解放されても討伐されるでしょうし言う事を聞きましょう」


 命狙わないなら問題ないか。


「お前の働きに期待している」



「レイさん……絶対おかしい……何で大悪魔と普通に話してるんですかね……」


 何やらぶつぶつとエマが言っているが、しばらくそっとしておこう。


「あっ、そうだ。ベル、村が危なくなったら報告してくれよ?」


「承知」


 たぶん、あの感じだとしばらくはゴブリン共は村を襲う事は無いだろう。


 何やらゴブリンの大人がかで争っていたしな。

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