第15話 持ち主に酷い本だな……
『……』
俺を見たまま微動だにしない蝿……一応、羽は震えているのだが……その場から動かないという意味だ。
「えっと……ベルゼバブだし、ベルでいいか……ベルに頼みたい事があるんだけど?」
俺は気軽に話しかけてみる。
口元? が三日月状になった気がした瞬間──
「──がはっ──」
俺は気が付けばその場から吹っ飛ばされていた。
なんとか転倒しないように片膝を付いて着地する。
こ……れは……母さん並か?
いや、あの状態で攻撃されたなら母さんであれば俺は意識が飛んでるだろう。母さんに近い実力はあるな。
スレイが制止しようとした意味が今わかった。かなりヤバい奴だ。確実に俺より強い。
しかし、この本──持ち主に対して酷いな……。
スレイにしてもいきなり斬りかかってきたしな。
「あわわわ……」
エマはまたもやスレイの時と同じで顔面蒼白で震えている。
守ると言った以上は必ず守る。
俺は立ち上がり──
『黒勢』を使う──
こんな所で時間を割いてる暇は無い。
仮に母さん並であっても俺は勝たねばならない──
というか勝つ必要は無い。
この『黒勢』はアイテムの収納やスレイを出したり出来た。おそらく『黒の書』に入った物を出し入れする力もあるはずだ。
つまり──強制的に閉じ込める事も可能のはず。
試してみるしかない!
「おい、蝿……俺は急いでいるんだ──言う事聞かないなら本に閉じ込めるぞっ! おらぁっ!」
俺は黒い魔力を散布させるように放出する。
『……◯△◇▼●□──』
なんだ? 何かを話している?
「お前は人になれないのか? 何を言ってるかさっぱりわからん──!?」
一瞬光ったと思ったら目の前には俺と同じ黒い髪と瞳の可愛らしい男の子がいた。
「ふふっ……これで話は通じますか?」
無邪気に笑いながらベルは言う。
「……あぁ。何故攻撃した?」
「暇潰しですかね? ずっと閉じ込められてストレスが溜まってるんですよ。それに腹が減りましたしね。目の前に肉があるなら食べるでしょ? それより、よく僕の一撃で死にませんでしたね?」
笑いながら捕食者の目を向けるベル。明らかに俺を挑発しているな。
「つまり──俺達を食うと?」
全く……この本の中身はどうなってんだよ……。
俺は『黒勢』を更に放出し、臨戦態勢を取る。
「そのつもりだったんですが──また閉じ込められると出してくれないでしょう? さっさとさっき殺せていれば解放されたんですけどね……もう油断してくれないでしょう?」
「あぁ、今後はこれを使う時は油断しない。……それでお前はどうするつもりだ?」
「そうですね……弱体化した状態では貴方を一撃で殺す事も不可能ですから──出してもらうチャンスが減ってしまうと嫌なので、ここは恩でも売りましょうかね?」
白々しくベルは言ってくる。
「……ふむ。じゃあ、偵察が出来ると聞いている。どれぐらいの規模で出来るんだ?」
まぁ、でも逆らわなければ問題無いか……今後はこいつに油断は絶対しないしな。
「まぁ、それぐらいは余裕ですね……。そうですね──どこまででも……ですかね? これを飛ばして様子を見るだけですから」
蝿を掌から出してそう言う。
「わかった。じゃあ──この先にある村の脅威を調べて欲しい。要は敵がどいつか知りたい」
「それぐらいお安い御用です──」
「うげぇ……」
エマは気持ち悪そうに声を出す。
気持ちはわかる。大量の蝿が霧散して行く姿は気持ち悪い。
「どれぐらいかかりそうだ?」
「まぁ、分身体がその村に到着しない事にはなんともですね」
「そうか。ならまだお前は出しておいた方がいいな」
「そうですね。久しぶりの外なのでこのまま堪能したい所です。僕は強いですから守ってあげますよ?」
確かに強いし、このまま残ってくれた方が助かるな。
年下の見た目で守ってあげると言われると変な感じがするな。いや、故郷でも似たような事言われた事があるからデジャブを感じる……。
それよりも疑問がある──
「いつまで外にいれるんだ?」
「? 別にそこに強制送還されなければ──魔力さえ供給を遮断しなければいつまでもいれますよ? 試した事がない?」
「無いな……お前で2人目だしな。という事は──大量に魔力が必要なのは出す時だけか」
消費魔力はスレイと同じぐらいだ。そういえばスレイも数時間は出せていたな。
供給していれば存在できるのか……確かに魔力は減っていっているが、そこまで極端な減り方じゃないな……スレイの時は回復していたからわからなかったな。
これならけっこう出したままで行けるか? ──いや、また攻撃されるのも嫌だしな……命を常に狙われるとかごめんだ。
「なるほど……では、あまり力の使い方は知らないんですね……」
「知らんな……つい最近使ったからな。ちなみにお前は何で本にいる?」
「リディアと敵対したら閉じ込められたね」
「そ、そうか」
……リディアって敵対した奴は片っ端から本に閉じ込めているのか?
話の最中にベルが反応する。
「おや? 村を発見しましたね」
「早いな。歩いて3日ぐらいの距離と聞いていたんだが」
「まぁ、分身はけっこう速いですからね」
「村の様子は?」
「疲弊してますね」
「……敵はわかるか?」
「うーん、特に強そうな奴はいませんね」
「お前の基準で言うな……本当に脅威に感じる敵はいないのか?」
「いないですね。いてもゴブリンぐらいですよ? ゴブリンは脅威ですか?」
ゴブリンか……エマと俺では知ってるゴブリンが違うからな……昨日狩ってたのをゴブリンと一般的に言うのであれば俺の中では脅威では無い。
「雑魚だな……この村はいったい何の為に依頼を出したんだ? 疲弊している理由はわかりそうか?」
「ゴブリンですね」
「意味がわからない……エマ──ゴブリンは脅威なのか?」
「話から察するに──数が多いのでは?」
なるほど、奴らは群れる習性があるからな。
「ベル──どうなんだ?」
「ベル? さっきもそう呼んでましたね。まぁ呼び方はご自由に。数はそこそこいますよ。村から少し離れた所に集落を作っているみたいで軽く1000は超えてます」
まぁまぁ数がいるな。
「エマ……もしかして一般人からするとゴブリンは脅威なのか?」
「間違いなく脅威です……集落を作るぐらい数も多いのであれば間違いなく──依頼で言えばCランク以上です。ゴブリンの数だけで言えばCランクパーティ複数で依頼の対応をするレベルです。報酬も金貨1枚からです。やはり詐欺依頼ですね……レイさんなら問題なさそうですけど」
「なるほど……。ベル、この村はまだ無事そうか?」
「……レイさんでしたっけ? 正直もう説明するのが面倒臭いので、自分で確かめて下さい──『視覚共有』──」
──!?
俺の視界がいきなり変わり──目の前には色々な視界が写っていた。
確かにけっこう多いな……。
村はまだ本格的に襲われてはいないようだな。
しかし、襲われるのも時間の問題だろう。
しかも──
ゴブリンの集落の視界を覗くと、俺の知っているゴブリンがいた。
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