第10話 上納金?

 俺達が進んで行くと並んでいた人達が俺達を避けて行く。


「並ばないのか?」


 と聞くと「お先にどうぞ」と強面のおっちゃんや兄ちゃん達に譲られた。


 そして、向かう先の受付嬢さんの顔を見ると引き攣っている。


 あの受付嬢さんは俺の冒険者登録をしてくれた人だ。


 昼間に俺達を見ていた人はこそこそと俺を見ながら何かを話している。きっと俺は昼間で有名になってしまったのかもしれない。


 リディア教というのはやはり凄いんだな。


 せっかく順番を譲ってもらえたんだ。さっさと換金を済ませた方が良いだろう。


「換金してもらいたい」


「は、はい! 冒険者カードを提示下さい。依頼は──何も受けてませんね。常時依頼でしょうか? ……えっ? ゴブリンが165匹?」


 冒険者カードを渡すと何やら一人でぶつぶつと話し出す受付嬢さん。


 165匹という言葉からきっと討伐履歴を見ているのだろう。どうやって記録されているのか謎だが。


 昼から夕暮れまで狩り続けたからな。なんせ5匹ずつしか換金出来ないと聞いたから揃うまでやたら時間がかかった。


「耳が無いと報酬が下がると聞いたから持ってきたぞ? どこに出せばいいんだ?」


「えっ!? あっ……少々お待ち下さい──このトレイにお願いします」


 俺は『黒の書』を出してゴブリンの右耳を念じて出す。


 ボタボタと右耳がトレイに落ちて行く──


 ぶっちゃけると見ていると気持ち悪い……。


 受付嬢さんも顔色が悪くなっていっている。


 トレイに山積みされていく右耳を見ながら受付嬢さんは口を開く。


「ま、まだ出てくるんですか? そういえば──確か昼から討伐に行きましたよね? しかもこの耳はどこから出してるんですか??」


「まだ半分ぐらいだな。討伐数の右耳はちゃんと持ってきた。確かに昼から夕暮れまで狩ってたな。この耳がどこから出ているか? 本だな」


 聞かれた事に俺は淡々と討伐数の分、右耳が出てくると伝えると、受付嬢さんの顔色は更に悪くなる。


 気持ちはわかる。とてもグロテスクだからな。


 でも、ここに出してくれと言われた以上──俺は悪くない。きっと手ぶらで来たからあまり多くないと思っていたんだろう。


「さて──これで全部だな。換金を頼む」


 とても上手くトレイからはみ出さないように入れれたような気がする。


 ちょっとした塔みたいになったな。


 運ぶ時に溢れるだろうけど……。


 周りから──


「あいつおかしくないか?」


「ゴブリンの耳しかねぇぞ」


「あんなに半日で狩ったのか?」


「どこからあんな大量の耳を出したんだよ。何かの魔道具か魔法か?」


「あいつ、確かリディア教の司祭だぞ。昼間に司祭のエンブレムしてるの見たからな……」


「「「あぁ、納得……司祭半端ねぇな」」」


 とか聞こえて来る。


 最後の締めがリディア教の一言で片付くのにびっくりだ。


 更に言うと、いつの間にかエマが俺から離れて他人のふりをしている事にもびっくりだ!



「で、では換金に入りますので少々お待ち下さい……」


 ゴブリンの右耳の塔を唖然と眺めながら言う受付嬢さん。


「わかった」


 涙目で右耳を溢しながら運んで行く受付嬢さんに後ろから別の受付嬢さんが耳を拾いながらついて行く。



 しばらくすると先程の受付嬢さんが帰ってきた。


「──査定が終わるまでにレイ様のランクアップの手続きをしたいと思います。165匹の討伐で依頼33回分となり、規定の依頼数は超えていますので今からDランクとなります」


 ランクって簡単に上がるんだな……。


「俺だけか? エマは?」


「エマ様は既にDランクですので変更はありません。ここからのランクはゴブリン討伐では上がらないんです」


「まぁ、雑魚だったしな……」


 ゴブリンの子供をいくら狩ってもそんなもんだろう。


「とてもその年齢の新人が狩る量ではありませんよ……というかこの数のゴブリンがいる事に驚きが隠せないんですが……近くに集落でもありましたか?」


「そうなの? これぐらい出来そうな人っていっぱいいそうだがな。集落なんかはなかったな」


「集落がなかったんなら良かったです。……一応Cランクの人達なら出来るとは思いますけど、2人では厳しいと思いますよ?」


「ふーん」


 という事は一人前はBランクからなのだろう。これぐらい出来ない奴は新人以下だろ。


「さて、査定も終わりました。銀貨16枚と銅貨50枚になります。ありがとうございました……」


「こちらこそ、ありがとう。また狩って来るよ」


 そんな俺の返事にまた顔面蒼白になる受付嬢さん。


 お金を収納した俺はその場を去る。


 さて、エマを探すか……いつの間にか、近くからいなくなってるし……。


 とりあえず、中を歩き回るか──


「レイさんこっちです!」


 エマの声が聞こえる方を向くと隣接された酒場にいた。


 俺は近寄り声をかける。


「いなくなるとか酷くないか? なんかよくわからん内にDランクになってたんだが?」


「いやー、場の視線が痛くて……とりあえずランクアップおめでとうございます! 金額は──ずばり銀貨16枚と銅貨50枚だったでしょう?」


「まぁ、いいけどな……ありがとう。よくわかったな」


「ふっふっふ、私はお金の計算は早いのですよ。これだけあればしばらくは美味しい食事と宿に泊まれそうですね! 既に料理は頼んでますよ!」


「もう頼んでるのか!? とりあえずこの金で腹一杯飯食って山分けしよう」


「やったぁぁぁっ! お金も半分も貰えるんですか!? とかあるのに大丈夫なんですか?」


「え? 上納金? なにそれ?」


「あー、そういえば説明してませんでしたね……役職がつくとですね。リディア教の場合は他の所と違って運営の為にお金を納めないとダメなんですよ。レイさんは今年は金貨10枚と聞いてます」


 俺の時が一瞬止まった気がした。


 あくまで俺の時であって、エマは満面の笑みで食べ続けているが……食べる勢いが半端無いな。どれだけ飢えてたんだ……。


 それより、上納金って何だ?

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