第9話 終わりよければ!

「さて……スレイ、少しは落ち着いたか?」


「何故当たらん……しかも体が怠い」


「いや、さすがに避け続けるの無理っぽいからデバフを使ったぞ?」


 弱体化で3割減なら、スレイなら余裕で避け続けられるしな。


「……屈辱だ……」


「スレイさん気にしたらダメです……この人は人の気持ちがわならないんです。慣れですよ慣れ」


 エマ……何気に酷い事言うな……。


「お前は?」


「私はエマと言います。レイさんの補助についてる者です」


「こいつの補助? ……お前大変だな……」


 何だろ……女の友情が芽生えている気がする。見た目もなんか似てるし、姉妹みたいだな。


 こいつらはしばらく置いておこう。


 このデバフがあれば、母さん達と渡り合えるかもしれない──


 ──いや……無理だな……たった3割減では俺との力量差はそんなに変わらない気がする。そもそも母さん達がどれぐらい強いかわからん……。


 いつかばったり会った時に連れ戻されないようにしなければならない。


 早く熟練度とやらを上げなければ。


 そういえば、スレイって剣になれるんだったよな?


「スレイ──剣になれるって言ってたけど、どうやってなるんだ?」


「ちっ、邪魔者が……こうやってだ──」


 口が悪いな……そりゃあ、割って入ったけどさ。



 スレイは一瞬光ったと思ったら、その場には鞘に入った剣が地面に刺さっていた。


 俺は手に取り──


「レイさん! ちょっと待って下さい!」


 剣を抜き放つ──


 ただの剣では無い……血のように紅い刃が際立っている剣だ。


「綺麗な剣だな……」


「あんたは何で待たないんですかね!? ダインスレイブと言えば──伝説では持ち手は他者を殺すまで鞘に戻らないって言われてるんですよ!?」


「? 別に殺す奴なんていないだろ?」


「……大丈夫なんですか??」


「問題無いな。一回試し斬りはしてみたいけどな……ゴブリンいねぇかな……」


『なっ!? 私でゴブリンを斬るのか!?』


 ん? 本から出す時みたいにスレイの声が聞こえてくるな……どこからだ? 直接頭の中に話しかけられてる感じだな。


 まぁ、今はそれより試し斬りだな。


 おっ、丁度ゴブリンいるな。


 とりあえず、殺してみるか……。


「よっ」


 ゴブリンの首を一瞬にして落とす。


 んん? これは──魔力が回復している?


 スレイを召喚してけっこう減ったはずなんだけど、ほんの僅かに回復している気がするな。


『……このクソ不味い血で吐きそうだ……』


「血が不味い?」


 どゆこと? そりゃあゴブリンの血は不味いだろうけどさ。


「スレイさんは伝説通りなら──血を吸っているんだと思います。血を吸う呪われた魔剣──それがダインスレイブです」


 へぇ……エマは博識だな。


 血を吸って、魔力が俺に還元されているのか?


 とりあえず、これで魔力切れの心配はなくなったな。


『お前のアホみたいな考えが伝わってくるぞ……それでゴブリン殺しまくって『支援魔法』を使いまくるつもりだろ?』


 正解!


 なるべく早く熟練度って奴を上げたいしね。


 頼むわ!


 俺は


『絶対嫌だっ! 私は本に帰る──!? 帰れない?! 何故だ!?』


「どうやら、本が出ていないと帰れないみたいだな? さぁもう少し付き合ってもらうぞ? さっき散々攻撃してきたんだ。これぐらいは償ってもらおうか?」


「レイさん……言葉が悪魔みたいです……」


 おっと声に出てたか。


 まぁ、俺達は熟練度は上がって、金が手に入るし、スレイは罪が償える。


 皆嬉しい事だらけで良いじゃないか!


 経典にも『終わりよければ全て良し』って書いてたしな!



 その後、スレイの叫び声が俺の中で木霊し続けた。


 不思議な事にどれだけ森の奥に行っても、見事にゴブリンしか現れなかった……他の魔物の血を吸わせてやりたかったんだが現れないのはどうしようもなかった。


 夕暮れに切り上げた俺達は現在、街まで戻る為に歩いている。


 スレイは本に戻す時には無言になっており、さすがに可哀想だと思って俺の血を少し分けてあげた。


 すると──


『あれだけ大量のクソ不味い血を飲まされたせいで、大して美味くもない味でも美味く感じる!?』


 と失礼な事を言われた。


 まぁ、また俺を攻撃するような事があれば同じ事をしようと思うのだが、きっとしないだろう。


 今日はとても充実した1日だったな。


【支援魔法】もそれなりに使い慣れた気がする。


 エマからは「そのカスみたいなバフやめて戦ってくれませんかねぇ!?」とか言われてたけど……。


 黒い力も何か分かってきた気がする。


 これはどうやら俺が本を意識して魔力を使うと黒くなるようだ──と思っていたのだが、途中から魔力自体が黒くなっていた。


 呪われた気分だった。既に本に呪われているのだが……。


 そして、何故かバフ系統とは相性がやはり悪いせいなのか効果は変わらなかった。


 他の魔法は効果が高かったからきっと練習不足なのかもしれない。魔法は黒く侵食されて黒かったけど……。


 これからも精進するしかないな。


 まぁ、今日は色々と収穫があった。


 街に戻って休みたい。というか飯が食いたい……。


「エマ、帰ったら飯を食おう。腹が減った……」


「賛成! 肉! 肉が食いたいです!」


「そうだな。確かにギルドに酒場が併設されていたっぽいし、換金したら──俺達の初依頼達成のお祝いで好きなだけ食おう」


「やったぁっ! 久しぶりの肉〜♪」


 肉如きでこの喜びようは見ていて悲しくなるな……どれだけ金がなかったんだろうか……それに肉ぐらい森で狩りをすれば手に入るだろうに……。


「金の価値はわからんが──これだけ狩れてたら飯ぐらいけっこう食えそうな気がするんだが?」


「レイさん……普通はこんなに狩れませんし、誰が好き好んで、ずかずかと1人2人で森の奥に入るんですかね!?」


「俺は入るぞ?」


「……良いですか? 油断が命取りの冒険者は危険を避けて獲物を狩るものなんです! これが長生きの秘訣です!」


「ふーん」


「反応が薄いっ!」


「いや、俺がいた故郷が森の中だったからそんなに気にしないんだよね。って事でギルドに着いたな。さっさと換金して飯にしよう」


「そういえば、そんな事言ってましたね。受付にさっさと行ってご飯食べましょう!」


 俺達2人はご飯を想像しながら笑みを浮かべて受付に進んで行く。

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