第8話 俺の支援魔法

「まぁ、耳の事は後で考えましょう。それよりもゴブリンが向かってきますよ? どうするんですか?」


「まず、エマの実力を見たい──と言ってもゴブリンの子供だからな……直ぐ終わるだろうけど」


「また意味のわからない事を! ゴブリンはゴブリンですって! とりあえず殺しますよ! ──ふっ!」


 目の前のゴブリン3匹は素早い動きのエマの短剣によって首が落とされる。


「おっ、お見事。 エマ、弱くないじゃないか! これなら安心だな」


「何がですか?」


「安心して前衛を任せられる! 次は俺に『支援魔法』を使わせてくれ!」


「え? レイさんが前衛じゃないんですか?」


「だって俺、後衛職じゃないか。エマの職業は何なんだ?」


盗賊シーフですけど……」


「なら前衛で大丈夫だろ。盗賊と言えば遊撃するんだろ? 村の人も上手いこと立ち回ってたぞ? それに危なくなったら俺が助けてやるよ!」


 今思えば、その村の人も盗賊シーフ職業ジョブに就いていたのだろう。


 俺はてっきり、「今日もお宝盗んで来たぜ!」とかよく言ってたから勘違いしてたようだ。


「まぁ、それなら……」


「俺あんまり動きたくないんだよね」


「だからそういう事言うな!」


 会話出来るって楽しいな!


 村で会話なんてあんまりした記憶無いしな。主に訓練のせいだけど……。



 おっと、次のゴブリンが3匹発見だな!


「良し、次発見したから【支援魔法】を使うぞ──『身体強化魔法』──さぁ、行ってらっしゃい!」


「はいはい……」


 瞬時に首を刈り取るエマ。


「おかえり〜。俺の支援魔法どうだった?!」


「あまり変わらないですね……まぁ見習いですし、こんなものなのでは?」


 なんだと……せっかくの支援魔法があまり効果を発揮していないとは……。


「どうやったら効果が上がるんだ?」


職業ジョブの熟練度を上げるか、派生の上位職に就くしか無いですね。上げ方はその職業特有の技能を使うか、魔物を殺せば上がりますよ?」


「支援魔法でどうやって殺すんだよ……」


「物理?」


「それは後衛じゃない……」


 こいつは何を言ってるんだ?


「なら地道に使うしかないですよ。かのアストラの聖女も最初の頃はメイスで魔物を叩き潰していたそうですよ?」


「マジか……」


 あの可憐そうに見える聖女さんも嬉々として撲殺していたのか!?


 女の人って怖いな……人は見た目で判断してはならんな……。


「ちなみにおそらくですけど、レイさんの職業はバフよりデバフの方が効果高いですよ? 転職した時にそう説明したんですけど?!」


「すまん、あの時は支援職に就けた喜びで全く聞いてなかった。バフとデバフって何?」


「こんの野郎……。はぁ……つまり、バフは強化をする魔法で、デバフは弱体化させる魔法になります」


 なるほど……俺は弱体化の方が向いている職業なのか……そういえば何種類か魔法が頭の中に流れ込んで来たな。


「良し、試してみよう。エマ、とりあえず全力で俺に攻撃してくれ──「はいっ──」──切り替えが早いな」


「涼しい顔して避けてる癖に何を言ってやがるんですかね!?」


「まぁ、いいや。──『身体弱体化魔法』──!? ……さぁ、もう一度だ。かかってこい……ってどうした?」


 今一瞬、本に魔力を込めた時と同じで何か黒い魔力が出た気がしたな……。


 あと、エマが動かんな。


「……すいません。体が鉛のように重いです」


「マジか……どれぐらいの効果かわかりそうか?」


「約3割は低下している気がしますね……見習いでこれとか酷い弱体化の魔法ですね……こんなの使われたらキツすぎますよ……」


「しかし……俺の思ってた支援魔法と違うんだが? こう力が溢れてくる的なのが良いんだが?」


「そんな事、私に言われても知りませんよ……支援職に就きたいとしか聞いてませんでしたし……」


 まぁ、確かに……しょうがないな。


「とりあえず、俺はバフを極める事にしようと思う」


「はいはい、勝手にして下さい」


「なんか雑だな!?」


「とりあえず、ゴブリンは6匹狩れましたね。耳どうします?」


 そういえば忘れてた……。


「どうしよう……エマってさ……俺の部下になるんだよな?」


「……まさか部下に汚れ仕事をさせる気ですか?」


「……いや、そんなつもりは毛頭無いが……」


 うっ、見透かされてたか……。


「なら何で間が空くんですかね!?」


「気のせいだ……。とりあえず耳を手分けして切り落とそうか。なんせパーティメンバーだし協力が必要だ!」


 うん、これなら問題無いな。


 俺達は右耳を切り取り、地面に置く。エマも俺にならって並べる。


「なぁ……何で右耳だけなんだ? 薬にするなら左耳も必要だろ? というか持ち帰り用の袋が入るなら出る前に言ってくれよ」


「常時依頼なので大量の耳が集まるらしいです……消費しきれないから片耳である右耳になったと聞いた事があります……袋は単純に言い忘れてました……」


 確かに……大量のゴブリンの耳とか山積みされたら気持ち悪いな。


 切り取るのは正直問題ない……問題なのは──


  だ。


 俺もエマも嫌だし、スレイに頼むか……。


 右手に『黒の書』を出して魔力を放出する。


 黒い魔力だな。


 弱体化の魔法の時にも出ていたが、もしかして、これのお陰で効果が高い?


 バフでも使えるんじゃないのか? 相性が悪いとかあるのだろうか?


 また、試してみるか……今はそれより耳の方が大事だ。専用の入れ物も無いし、こんなもん手に持って帰りたくない。



 目の前にスレイが現れる──


「ん? レイか? どうした? 敵はいなさそうだが?」


「スレイ……これを運んでくれないか?」


 俺の指差す方向に目を向けるスレイ。


「──断る」


 即答するスレイ。


「そこを何とか!」


 粘ってみる俺。


「こんな事で呼び出されたの初めてだぞ!? 誰がそんな事やるか! 斬り刻むぞ!」


「これ持って帰らないとお金が減るらしいんだけどさ……臭くて運びたくないんだ……」


「何馬鹿正直に言ってやがる! それでも断る! それなら、その本に収納したら良いだろが!」


 収納!? そんな事が出来るのか!?


「どうやって?」


「本を近付けて念じるだけでいけるはずだ」


 俺は耳に本を近付けて収納するように『入れ』と念じると耳はその場から消える。


 おぉ、これで耳の持ち帰りがなんとかなりそうだ!


「おぉ、凄いな! どうやって出すんだ!?」


「最初のページに文字が書いてあるだろ? そのページを開きながら文字を心の中で呼んでもいいし、口に出して発してもいけたはずだ」


 最初にある真っ白だったページにはゴブリンの右耳と書かれていた。俺は『出ろ』と念じてみると──


 右耳が現れる。


 うぉ!? 本当だ!? これ凄い便利じゃないか!


「スレイっ!」


「な、なんだ!?」


「ありがとう! お前は俺達の恩人だ!」


 俺はスレイに祈りを捧げる。


「……まぁ、感謝されるのは悪く無いな……それで用はそれだけか?」


「そうだ」


 その後、スレイの容赦ない攻撃がしばらく俺を襲った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る