第7話 世の中は不思議だな

 依頼板の前でEとFランクの依頼書を見ているのだが……。


 家のお掃除、瓦礫の除去などの街の何でも屋みたいな物から、薬草採取やゴブリンなどの魔物の討伐などがある。


 まぁ、弱いランクだと冒険者を育てる為と死なせない為にもこういう依頼が多いのかもしれない。


 しかし──


 ゴブリン退治はいただけないな……俺の故郷ではゴブリンは巨体で大きな剣を振り回すし、頭も良くてそこそこ強敵だったぞ?


 しかも群れで襲ってくるから面倒臭かった記憶しかない。


 どうやら街ではゴブリンが最弱とされているようだが、こんなもの新人に狩る事が出来るのか?


 そう思っていると先程──


「今日はゴブリン10匹倒したぜ!」


 とさっき声高らかに言っていた同い年ぐらいの男がいたが……彼も新人だと言っていたはず。あまり強くなさそうなのに不思議だ……何か凄い力を隠しているのかもしれないな。


 やはり、母さん達の言う通り──猛者ばかりなのだろう。



「どれにします?」


「そうだな……この瓦礫の除去をしようと思う」


「え?」


「何だその顔は? ゴブリンはそこそこ強いし面倒なんだぞ? エマを守りながら簡単に狩れるような魔物なんかじゃない。俺はお前の命を守らなければならん」


「いやいや、ゴブリンぐらい私でも余裕で狩れますよ!」


 エマ……こいつ本当は実力隠してるんじゃないのか?


 確かめる必要があるな。


「良し、わかった。ならばゴブリンを狩ろう。これを受付に持って行けばいいんだな?」


「いや、ゴブリン討伐と薬草採取は常時依頼ですから討伐部位とか素材を持って行ったら換金してくれますよ?」


「それはありがたいな。では行こう」



 俺達は街の門まで到着し、出ようとすると──


「ちょっと待て……お前──この間、身分証明書が無くて帰った奴じゃなかったか? 何で中から出てくる!? ちょっと話を聞かせて貰おうか?」


 門番さんに止められる。この人は俺がここに到着した時に対応してくれた人だな。


「いや、身分証はありますよ? ほら」


 俺は冒険者証を出す。


「前は無かったろ!?」


 確かに! と思っているとエマが口を挟む。


「門番さん、彼は冒険者証無くしちゃってたみたいなんですよ。他の門番さんの時に説明して入ったらしいですよ? ねっ?」


 エマが俺に聞いて来たので思った事をそのまま答える。


「いや、忍び込んで冒険者証はさっき作ったぞ?」


「おいっ! フォローが意味ないだろ!」


 ん? あぁ、なるほど、エマは俺の為に嘘をついてくれていたのか……全く気付かなかったな。


 まぁ、俺は思った事を口に出すからな……悪い事をしたな。



「さぁ詰所行こうか?」


 門番さんは俺の手を取り歩き出そうとする。


「レイさん、エンブレムを──」


 俺はエマに言われた通り、エンブレムを胸に装着する。


「──こ、これは!? リディア教司祭の証!? こんな若造が!? これは失礼を……通って良し!」


 明後日の方向を向く門番さん。こちらに目は一切合わせない。


 このエンブレムって本当、凄い効果だな……それだけ関わり合いになりたくないという事なのだろうか?



 複雑な心境ではあるが、リディア教に助けられたのはわかる。


 後でリディアに祈りを捧げよう。



 門を出てしばらく歩くとエマが口を開く。


「レイさん……捕まりたいんですか?」


「いや、捕まりたくはないぞ?」


「なら話ぐらい合わせて下さい!」


「悪い……田舎では訓練と読み書き計算ぐらいしか教えて貰ってないんだ。後はたまに雑学ぐらいかな……同い年の人も1人しかいなかった。だから──一般常識がさっぱりわからんし、人との付き合い方もよくわからないんだ。これからも助けてくれると嬉しい」


 俺は悪いと思ったので頭を下げる。


「むぅ! そんな言われ方したら断れないじゃないですか! ……全く……私がいないとレイさんはダメですね。ちゃんと私の面倒見て下さいよ? 司祭は助祭の面倒を見る義務があるんですからね?」


「あぁ、任せろ! 俺がお前の生活ぐらい世話してやる! エマの笑顔と的確な会話術が俺は大好きだからな!」


 俺は満面の笑みを浮かべてエマに話しかける。


「うぅ、不甲斐なく年下に胸が熱くなりそうでした……」


 俯きながら頬を赤らめるエマの言葉に気になる単語があった。俺の年を知っているのは『鑑定眼』で見たのだろう……それより──


「ん? エマって年下じゃないの?」


「私は18歳ですよ! なんですかその顔は! どうせ胸も無いし、童顔だし、背も低いですよ!」


 衝撃的な事実だ……俺はずっと少し年下だと思ってたのに……。


「……世界は広いんだな……」


「何なんですかね!? その不思議な物を見る目は!?」


「なに、気にするな……ほら、ゴブリンのがやってきたぞ?」


 目の前に緑色の小人が現れる。


「ゴブリンの子供? ──あれはゴブリンですよ?」


「いや、子供だろう。まさかあれを討伐したら金を貰えるのか!?」


「そうですね。5匹で銅貨50枚ですね」


 なるほど……ゴブリンの子供であれば問題無いな。


 あれは強く無い。人も子供であれば弱いのと同じだ。


 俺が故郷で大人ゴブリンと戦ってる時に村の皆は『さっさとゴブリンぐらい倒せ』と言っていたぐらいだから、目の前のあれは子供だろう。


「あんなの直ぐ終わるぞ? ちなみに討伐部位とやらはどこなんだ?」


「右耳です。倒した後に削ぎ取って下さい」


 え? 何でそんな気持ち悪い事しないとダメなんだよ……。


「……耳を持ち帰るの嫌なんだが?」


「私も嫌ですよ! でもやらないとお金貰えませんよ? 持って行かないと銅貨25枚ですからね! 半額ですよ! それにお務めしないとダメじゃないですか!」


「じゃあ、殺すだけで良くないか? 耳いらない……」


「我が儘言わない! ランクは討伐履歴に残るので上がりますけど、お金が無いと何も出来ませんよ! 私の面倒見てくれるんでしょ!?」


「……面倒を見る……そうだったな……」


 だけどな……世間知らずな俺でもわかる事がある……討伐履歴とやらが見れるなら耳いらないだろ!


「耳は一応薬の原料になるそうです……」


 エマ──俺の心を読んだな!?


「いや、あいつらの耳を薬にするって正気か!?」


「酔い覚ましとか、意識をはっきりさせる時に使う薬らしいですよ……」


 本当、世の中知らない不思議な事ばかりだな……。

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