第6話 エンブレム
「エマ、これから冒険者に登録したいんだけどついて来てくれるか? 勝手がわからん」
俺はエマに話しながら、支給されたローブに身を包み、自分を確かめてみる。
ローブはまぁ、普通に黒いな。制服も──黒い……右胸辺りには骸骨さんが鎌を携えているシンボルマークが刻んである。あまり進んで着たくないが、服がもうぼろぼろだから着る物がこれぐらいしかないんだよな。
黒髪、黒い瞳──制服も真っ黒……司祭なのに黒すぎるだろ……アストラ教の人達は白かったぞ?
しかも、この制服のシンボルマークが更に不気味さを増している……そもそも、エマなんて会った当初から制服なんか着てねぇしな。
制服のシンボルマークはエンブレムで隠そう……まだ髑髏っぽいマークの方がマシだしな。
「あぁ、そういえば田舎から出てきて間もないんでしたね。冒険者証は身分証明書の代わりになりますしね。そういえば身分証明書ってあるんですか? 街に入ってるから持ってるとは思うんですが──」
「夜中に忍び込んだな」
「無いんかい! よく捕まりませんでしたね……」
「身分証持ってないと入れないと言われたからな……残された手段は城壁よじ登って忍び込むしかなかったんだ」
「いやいや、たぶん普通に中で身分証明書作ってとか言われませんでした? それで入れたと思いますよ?」
「確かにそう言われたけど、中に入る為の税金という奴か? あれが払えなかったから諦めた。だから侵入するしかなかったんだよ」
とても腹が減っていたからな……。
「え? お金いっぱいあったじゃないですか!?」
「あれはアストラ教会の聖女さんだったか? あの人を助けた礼に貰ったんだよ」
「なるほど……」
「という事で、魔物を狩ったら金の貰える冒険者になろうと思う。案内してくれないか?」
「結局、狩りは行わないとダメなんですね……。えっと〜冒険者ギルドはこっちですよ……」
「街で生きるって大変だな……いや、そういえば田舎の故郷にいる時も命懸けで獲物狩ってたな……どっちもそんなに変わらないか……」
「そうですね……生きるのって大変なんですよ? ──あそこですね。もう着きますよ」
しばらく雑談しながら歩いていると到着したようだった。
エマの指差す方向には剣と槍が交差した看板があった。あそこがきっと冒険者ギルドという奴なのだろう。
ついに俺も仕事に就けるのか……なんかわくわくするな。
「中に入って何をしたらいいんだ?」
「普通に登録して、説明受けるぐらいですよ。戦闘の多い仕事ですので、たまに職業的に問題があると試験がありますが滅多になかったと思います。ギルドも支援魔法の使い手は欲しているので試験は無いはずですよ?」
「そっか、なら安心だな。母さん達に戦闘を生業にしてる人は強敵ばかりだから気をつけるように口を酸っぱくして言われているからな。俺みたいな新人は虐められないようにしないとな!」
「……あんた何言ってんですかね? レイさん……司祭は強くないとなれないんですよ!? 強さで言えば、Aランク以上は確実でしょ! むしろレイさんが最弱なんだったら、この世のほとんどがゴミカスです!」
……何でそんなに怒られないといけないんだ……俺はそう言われて育っているんだが?
実際、村の子供や女の子にも俺は勝った事がないんだぞ?
「エマ、俺はこれ以上は強くはなれん。そもそも、村の女、子供にも負けているんだ。だから戦わなくて済む支援職は俺にとって最後の希望なんだ。俺は──必ず最高のサポートマスターになってみせるぞ!」
「そこはどんな村なんですか!?」
「田舎の村?」
「レイさんが最弱とか何の冗談なんですかね!? さぁ、さっさと登録しますよ!」
俺達は扉を開けて受付に進む──
何故か皆、こちらを一眼見るものの、俺を見ては目を逸らしている。これは道中でもそうだったが気のせいではないみたいだな。
「エマ、何故か目を逸らされているんだが?」
「へ? 何で──って、エンブレムつけてるからですよ! そのエンブレムは司祭様用の奴なんです! つまり変人共の親玉だと思われてるんですよ!」
「えっ?」
エンブレムがちょうどシンボルマークを隠すぐらちの大きさなので付けていたんだが……。
……つまり俺も変人だと思われていると?
やっぱりとんでもない宗教に入ったような気がする。というか、そういうのは出る前とか道中に言ってくれよ……道理で視線が痛かったわけだ……。
俺はサッとエンブレムをポケットにしまう。
「今度からそれ出すのは信者の前ぐらいにして下さいね。必要な時は私から言いますから」
「もっと早く言って欲しかったな……見てみろよ……あの受付っぽい所にいる人の口元が引き攣ってるぞ?」
「仕方ないですよ。さぁ、行きますよ」
「ひっ」
俺達が前に到着すると怯える受付嬢さん。
「すまないが、冒険者登録をしたい」
「は、はい! ではこちらの書類に必要事項を書いて下さい」
「わかりました」
どれどれ……年齢、名前、出身地、職業ね。
えらい簡単な内容だな。そういえば母さん(優しい方)曰く、戦闘を生業にしている人はあまり頭が良くないとも言っていたから、その関係なのか?
とりあえず書くか……読み書き計算はちゃんと教えられているから安心だな。
年齢は15歳──
名前はレイ──
出身地? どうしよう? 住んでた場所なんて名前知らないんだが? とりあえず森と書いておくか……。
職業はなんか長くて覚えてないんだよな……エマに聞くか……。
「エマ、俺の職業って──何て名前だっけ?」
「そこは支援術師見習いで良いですよ」
「わかった」
良しっ! 書けたぞ!
「よし、書けた──」
「は、はい、ありがとうございます……支援術師見習い? リディア教司祭のエンブレムを付けているのに?」
何かおかしいのか?
「最近、支援術師見習いになったんだけど問題あるのか?」
「いえ、リディア教の方は基本的に戦闘職が多いので意外でして……では受付しますね。冒険者の説明は必要ですか?」
「必要ない。この子に聞くわ」
「え?!」
俺の発言に驚愕の表情を浮かべるエマ。
「わかりました。そちらの方は信者の方だと思いますので──パーティを組まれるのでしたら手続きも行っておきますが? 後、初回ランク申請されるのでしたら試験がありますがどうされますか?」
「よろしく頼む。初回ランク申請とは?」
「たまに、『俺はFランクよりは確実に強い』とか思っている方が試験官と戦って認められれば初期ランクを少しでも上げれる制度になります」
「なるほど、試験が面倒臭いのでいらん」
「……リディア教の方なのに珍しいですね……。かしこまりました。では少々お待ち下さい」
「わかった」
珍しいのか? 本当、いったいどんな信者の集まりなんだよ……。
「レイさん! 何で私が説明しないとダメなんですか!」
受付嬢さんが席を作業に移るとエマが話しかけてくる。
「怒るな怒るな……エンブレムのせいで既に色んな人に目をつけられているから、あまり長居したくないんだ」
「……まぁ、確かに……」
「それにな……説明聞くとか試験とか苦手なんだよね。時間の無駄だろ。必要な事は必要な時に聞けたらそれで良いしな」
「そういう事は思ってても言うな!」
エマのこういう、的を得た返答は好きだな。会話って楽しいな!
そんな事を思っていると手続きが終わったようだ。
「では、こちらが冒険者証になります。依頼板は向こうにありますので、良い依頼がありましたらこちらへ持ってきて下さい。レイ様のランクはFからになりますのでEランクまでの依頼が可能となります。では、より良い冒険者ライフをお送り下さい」
受付嬢さんは冒険者証であるプレートを手渡し、心底ホッとした表情をして俺達を見送る。
俺の冒険者登録は完了したので、依頼板とやらを見に行く事にした。話から察するに依頼は一つ上のランクまで受けれるという事だろう。
「人目につき過ぎたから帰るんじゃねぇんですかね!?」
とかエマが言っていたが、初めてで興味があるんだから仕方ないじゃないか……経典にも書いてあったろ?
『己に正直であれ』
ってな!
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