第5話 『黒の書』の中身

 目の前には瞳と同じ色の真紅の髪を腰までなびかせた女性が現れる。


「ぷはー、やっとあそこから久しぶりに出れた〜。ありがとうね? 君が今代のこの本の持ち主だね?」


 本から出てきた女性はウインクをしながら俺に礼を言う。


 うん、悪い気はしないな。


 そう、俺は閉じ込められた人を解放したのだ。



 エマはがくがくと震えているが、見た感じはそんなに危険な存在だとは思えないんだが? 強さは──たぶん俺より少し弱いぐらいかな。


「所で──何でこの本に入って──!?」


 入ってたんだ? そう言い切る前にどこからか出した剣を俺の首目掛けて放ってくる。


 それに対して俺は指で剣を挟んで止める。


「……これは何の真似だ? 感謝されても殺される理由は無いと思うんだが?」


「……今代は強いな……」


「……手加減してくれなかったら避けてるさ」


「何でそんな偉そうなんだ……今代は面白そうだな。この本に何故入っていたのか? それはリディアに封印されたからだ」


「俺の村では皆こんな感じだぞ? それより──リディアに封印された? 何で?」


リディアを殺そうとしたら閉じ込められたな。この本には神話の時代に手のつけられないような者や悪魔、またはそれに類似した者が封印されている」


 こいつの持ち主ってなんだ?


 しかし……何かこの本って本当にヤバい物なんだな。


 神器ってのも嘘じゃないのか……俺には神器というよりは呪いの本のようにしか思えないんだが……というか聞いてる感じ悪魔やそれに類似してる存在とか完全に呪われてるだろ。


 横にいるエマは顔面蒼白になっている。


「神話の時代といえば今では想像出来ないぐらい強い奴ばっかりだと聞くが──どう考えても今のお前は俺より弱いぞ?」


「当然ながら──この本の持ち主が制御出来るように弱体化させられている」


「……なるほど」


 さっきの攻撃だと、一般人のエマなら死んでるぞ?


 母さん達が外の奴は強い奴ばかりだと言っていたのはこう言う事なのか!?


 あの司祭2人もけっこう強かったし、弱体化して俺より少し弱いぐらいのこいつもヤバいな!


「お前ぐらいは最低でも強くないと、この本は制御出来ないぞ? まだ私は話に応じるぐらいはするから最初に出して正解だったな」


 全然嬉しく無いな。


 厄介な物を押し付けられた感じしかしない。返したい……。


 一度、故郷に帰って母さん達に相談してみようかな?


 ──いや、ダメだ。逃げ出してるから見つかれば走馬灯を見るぐらいボコられる……やはり無しだな。


 どうしよ……。



 そんな事を考えていると、また話しかけられる。


「私の名前はダインスレイブだ。久方ぶりの外に出してくれたのは感謝している」


「ん? あぁ、スレイね……俺はレイ、名前が似てるな! まぁ、よろしくな」


「名前が違うぞ? まぁ良い……どうせ、この呪縛からは逃れられない。また出してくれると嬉しい。私は──武器に困ったら使うと良い──」


 そう言い残し、勝手に本の中に入っていく。


「剣?」


 いったいどういう事だ?


 人が剣になれるのか? 持ち主ってそういう意味なのか?



「……生きた心地がしませんでした……」


「……エマと同じく紅い髪と瞳で同じだったな。2人とも胸は無いが、スレイは凄い美人でセクシーだった。まさに──眼福っ! 夢心地だな!」


「うっせぇですよ! 胸無い言うな!」


「何はともあれ、黒い力と本の事はわかったな……正直いらないんだけど?」


「……私も貴方の補佐を降りたいです……」


「──!? それは困るぞ!? 俺は田舎で育ってるから知らない事が多いんだ。助けてくれよ」


「……無理無理……トラブルの予感しかしないです! これなら魔物狩りの方がマシです! ついでにお金も稼がないとダメですからね」


 困ったな……何とか残ってくれないだろうか?


 エマは金に困っているのか?


「エマ……」


「何と言われても残りませんからね! お家帰る!」


「お前が残ってくれるなら、生活費の面倒は俺が見ようと思う」


「……」


 言葉だけでは信じてくれないだろう。


 俺はアストラ教会の聖女さんに貰った麻袋を出す。チラッと見たが中身はお金のはずだ。


 金の価値は全然わからないが、聖女さんを助けたお礼に渡されたぐらいだ。きっと、この金色の硬貨は価値があるばずだと推測出来る。


「中身を見ても?」


「どうぞ」


「こ、こんなに!?」


 エマの表情から読み取るに──やはり、かなり価値があるのだろう。


 更に俺は残ってもらう為に話しかける。


「更にだ。お務めも俺がいたら問題ないだろう。この本も考えようだ。強い奴が味方になっているような物だと思えばそこまで悪くないだろ?」


「確かに……お務めはその本があれば強い味方がたくさんいるはず……レイさん自体もかなり強いですし……」


 うんうん、とても良い感じで話が進んでいるな。俺が戦うとは言ってないぞ?


 俺は支援職だからな!


「どうだ? 俺と来ないか?」


「──行きますっ!」


「エマならそう言ってくれると信じてたぜ! これからもよろしくな!」


「はいっ!」


 まぁ、俺は戦うつもりは無いから仲間探さないとダメなんだけどね……それにあの本から他の存在を出してもスレイみたいに協力的? な奴がどれだけいるのかもわからない。


 仮にスレイに戦ってもらうにしても、どれだけ本の外に出ていられるかも不明だ。少なくともあの短時間だけで俺の魔力はけっこう消耗している。


 そんな事を思いつつも決して俺は口には出さない。


 彼女に見放されたら俺はどうしたら良いのかわからないからだ。


 金の力は偉大だな。


 騙したような気もするが、懸念を口に出していないだけで別に嘘はついていない。



 経典にも──『信じる者は救われる』と書いていた。


 きっとエマの心は俺の言葉を信じて救われたはずだ。なんせ、金をずっとキラキラした目で見つめているからな。


 そして、俺も救われた!


 さぁて、この後は冒険者に登録しますかね。

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