第3話 ヤバい宗教に入った気がする

 扉の先には──


 男性と女性が笑いながら酒を飲んでいた。


 この2人が司祭という事なのだろう。他の信者はいないのか?


「なぁ、エマ……あの2人が司祭だとして──他の信者は?」


「……言ったじゃないですか……信者が少ないって……」


 少ないにしても少なすぎないか? エマ合わせて3人だぞ?


 実は数が少ないから皆偉いさんばかりなんじゃなかろうか?



 2人はこちらに気付き、男性の方がエマに声をかけてくる。


「おっ、エマお帰り〜。その人がの方かな?」


「はい、ちゃんと連れてきましたよ。彼は──支援術師になりたいそうです」


「「え!?」」


「アストラ教会では無理だったそうです。ですのでここで職業変更をと」


 今度は女性の方がエマに話しかける。


「……エマちゃん? その子って教皇様の言う通りなら使徒様よね? 何故に支援職?! 使徒様ならもっと強い職業があると思うんだけど!?」


「知りませんよ。職業変更出来たらリディア教に入ってくれるそうですよ? ね?」


「あぁ、俺は約束は守る」


 今度は男の方が言葉を発する。


「……まぁ、入ってくれるなら問題ない。職業は後からでも変更出来るからな……エマ……お前の『鑑定眼』で見て支援職はあったのか?」


 エマの瞳に紅い模様があったが、魔眼だったのか。


「ありました……『漆黒支援術師見習い』です」


「ふむ……彼は今、何の職についている? 熟練度次第では転職出来るかもしれんし試そう」


「信じられない事にです……」


「は? その年で? 嘘だろ?」


 なんか言葉だけを聞いていると、とても失礼だな。無職って響きは俺が何もしてないように聞こえるじゃないか……まぁ、実際の所は何も仕事はしてないんだが。


「本当です……しかも、その状態で討伐ランクAの上位悪魔ハイデーモンを一撃で仕留めてました……」


「「……さすが使徒様……通りで司祭2人が選ばれるわけだ……」」


 何故俺を崇める……あと、使徒って何だ!?


「なぁ、話してないでちゃっちゃとやってくれないかな?」


「うむ、ではこの水晶に手を触れなさい」


 男に俺は用意された大きめの水晶に手を触れるよう言われたので触れる。


 すると淡い光を放ち出す──


「なるほど……古代語による文字化けが複数か……おそらくこれだな。これはアストラではわからんだろうな……では──『転職』──これで君は晴れて支援職になったぞ? おめでとう!」


「特に何も変わらないんだけど?」


 いや──この職業ジョブの魔法の使い方が頭に入ってきているな……。


 魔法って魔法陣を構築して使うんじゃなかったのか? 職業を得ると勝手に魔法陣が頭に刻まれてる感じだな……。


「ちょっと待って下さいね〜。『鑑定』──ふむふむ、ちゃんと【支援魔法】と【回復魔法】は覚えてますね。この職業は聖女と似た系統の職業ですね。2つとも使えるようです。他にも──」


 エマが俺に『鑑定』とやらを使って確認する。鑑定と言えば相手の情報を覗く事が出来ると聞いている。俺の名前もわかったのかもしれないな。


 それよりも今は支援職に就けた事の方が何より嬉しいっ!


 何かエマが話し続けているが今は聞くより試したい!


「使ってみていいか?」


「どうぞ〜──って何してるんですかっ!?」


「えっ? 回復魔法を使いたいから自分の足を突き刺したんだが? おっと、このままだとヤバいな。『回復』──おっ! 本当だ! 使えてる使えてる! だけど傷口が塞がってもまた開くぞ?」


 ふむふむ、頭に刻まれた魔法陣を思い浮かべて魔力を込めるだけで使えるのは便利だな。


 しかし、回復魔法の効果薄くないか? 血が止まらないんだが……母さん(優しい方)が使ってくれた時は直ぐに治ったぞ? その後また地獄送り(怖い方の母さん)にされたけど。


「当然でしょ! 見習いで治る傷じゃないです!」


「……そうなのか……仕方ないな。むんっ」


「……血が──止まった?」


 エマは何故、血が止まったのか不思議そうに見ている。


「筋肉に力を入れて血を止めたんだ。これなら血も吹き出さないし回復出来るだろ」


「「「……無茶苦茶な……」」」


 俺以外が驚きドン引きしていた。俺の村じゃ、これは当たり前の事なんだが……。


 さてと──


『回復魔法』使って傷も治ったし──


 これで俺は念願の支援術師になったな!


「とりあえず、ありがとうな! それで、リディア教とやらに入ればいいのか?」


「あぁ、そうだね。これにサインを──ありがとう! 入信おめでとう! これで我らは同志だ! 歓迎するぞ!」


 紙にサインをすると男は喜ぶ。


「そういえば入ったら何かしないとダメなのか?」


「うむ、特に使命とかはない! そんなもん強要すると信者が直ぐに抜けるからな。だから自由だ。出来れば我らの宗教を布教してくれると助かるがね……他はお務めぐらいだな。後、君にはこれを渡しておこう。まず、制服だ。後は──フード、エンブレム、教えの書かれた聖書だな。聖書はまた読んでおいてくれ。リディア様の素晴らしい教えが書いてあるぞ?」


「ありがとう」


 俺はそれらを受け取り、着替える事にする。服もぼろぼろだったし丁度良い。しかし……この制服って目の前の司祭が着ている服なんだが? まぁ良いか……。


 聖書とやらは後で読んだらいいだろう。



「──そうそう、教皇様にこれは適正があれば渡すように言われていたな。これに触れてみなさい」


「──!? これは!?」


 を手渡された瞬間に本から鎖が放出し、俺の腕に絡まる。


「……やはり適正者か……まぁ信託通り、使徒様だったね。これは君の物だ。大事に使いたまえ。これはリディア教に伝わる神器だ。それに上位悪魔ハイデーモンも簡単に倒してるみたいだし、これから君は司祭を名乗るといい。我々は今回その権限が与えられているからね。──エンブレムはこっちに変更だ。それと司祭は信者の職業ジョブを変えてあげられる。その為の起動魔道具も渡しておこう」


 どんどん話が進み、先程の小さな錆びたようなメダルではなく、銀色の少し大きめのエンブレムと金属で出来た板を渡される。このエンブレムはどちらも髑髏をモチーフにしているようだ。


 趣味が悪いな……。


 しかし……司祭って、そんなに簡単になれるものなのか?


 しかも司祭になるのに魔物とか関係あるのか??


 それとも、この黒い本が関係しているのか?


 疑問が尽きない……。


 それよりも──


「……これ外れないんだが?」


 鎖が完全に俺と同化しているようで本が全く取れない……。


「それは知らん。この本は君を認めた。もはや一蓮托生! おめでとう! 新たな司祭に乾杯! さぁ酒を飲もう! ちなみに君はリディア教を逃亡したりすると、このサインした契約書から特殊な強い悪魔が現れて君を連れ戻すからね! 司祭以上も駆り出されるから逃げないようね!」


 しかも最後に詐欺に合った気分だ。まぁ強い悪魔って今日退治した奴より少し強いぐらいだろうし大丈夫だろ。


 でも、なんかヤバい宗教に入った気がするな……まぁ念願の支援職だしいいか……。


 これで俺は戦わなくて済むな!


 これから楽しみだ!

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