第2話 才能より職業くれ

「聖女さん……今なんと?」


 俺は教会の中で聖女さんから話を聞いているところだ。今聞き捨てならない事を言われた。


「レイさん……誠に言い辛いのですが──貴方には適正がありません……それよりもかなりレアな前衛職が大量にありますね……一応、後衛もあります……魔法使いとか──いえ、この希少な後裔職業ジョブとかどうですか? 他にも世界でも希少な職業の──」


 聖女さんの話が全く頭に入って来ない……。


 何という事だ……あれだけ意気込んだのに進む道が封鎖されてしまった……。


 魔法使いなど後ろから攻撃魔法放つだけじゃないか! 面白みが全く無い! そもそも攻撃魔法って戦うのが面倒臭い時にしか使わないんだよな……。


 それなら俺は斬るか殴るっ! その方が早いからな。


 こう、皆に頼りにされる縁の下の力持ち的なポジションが良い!


 そして、感謝されたい!


 しかし、困ったな……。


「……俺はサポート職に就けないという事か?」


「いえ、そういうわけではないんですが……この職業というのは未だに不明な職業が多いんです……今知られている支援職の表示がされていないだけで、私も読めない、この──いくつかの職業がもしかしたら支援職の可能性もあります……」


「そうか……この職業ジョブというのは頻繁に変える事は出来るのか? 出来るなら、その読めない職業ジョブを片っ端から試したいんだが……」


「無条件に出来る時は最初だけになります。その後は職業の熟練度が最大になると変更出来ますが……中々最大にするのは難しいのが現状です。だからこそ、最初の職業選びが大事になります。それよりも通常は10歳で『職業選択の儀』を行うのです。未だにされていない事に驚きなのですが……しかも職業無しであの強さ……」


 つまり、俺が適正年齢になっても転職とやらをさせてもらっていなかった事はわかった。


「あぁ、ずっと田舎にいたからな……。転職したら次は直ぐに変更出来ないのか……じゃあ、少し考えてみるわ……ありがとうな……」


「お力になれずに申し訳ありません。それと──命をお救い頂きありがとうございます。これはお礼です。どうか貴方にアストラ神の御加護がありますように。後──貴方はもしかしたら私の探していた人かも──連絡先を──」


 最後ら辺に何か言っていたが、支援職になれないと言われ、ショックを受けた俺の耳には聞こえてこなかった。


 俺は麻袋を受け取ってその場を一瞬で去り、また広場に戻る事にした。


 そして草村で仰向けに寝転がる。



 神様はいないんじゃないだろうか?


 いるなら救いの一つぐらい欲しいものだ……。


 そんな事を考えていると声が聞こえてくる。


「あー、すいません。そこの黒髪のお兄さん♪」


 周りを見渡して、黒髪は俺しかいないから俺なんだろうな……。


 視線を向けると視界に紅髪でポニーテールにした可愛らしい女の子がいた。


 見た感じ──服装は普通のラフな格好で、特徴をあえて言うなら首に巻いた黒いチョーカーぐらいだ。背も低く、俺より少し年下ぐらいだろう。


 聖女さんと違って胸はねぇな。


 瞳は紅く模様が入っている、まるで俺を見透かすように笑顔で見下ろしている。


 ……まぁ暇だし相手にしてみるか……。


「……何か用か?」


「貴方は神などいない──そんな顔をされていますね?」


「いないんじゃないか? いるなら俺は今頃、支援職になっているはずだぞ?」


「なるほど……貴方は確か──アストラ教会に入りましたね……転職一覧の中に支援職がなかったと?」


「そうだ」


「私にはわかります。貴方は才能に溢れている方だと。支援職ぐらいは選択肢にあるはずです。そう神は言いました」


 ……なんだ? この人も教会の人なのか?


「才能なんていらないから職業くれ」


「ふふふ、職業自体が神様により与えられた才能なんですよ?」


「だから才能なんていらないから支援職にしてくれよ」


「変わった人ですね。私達の教会に来ませんか? 直ぐ近くに支部があります。アストラ教会よりも職業には詳しいですよ? おそらく──わからない職業があったんじゃないですか?」


 ──!?


 なるほど、職業がわかるなら行ってみる価値はあるな。聖女さんも読めない職業ジョブがあると言っていた。


「──わかった。行こう。お前の名前は?」


「ありがとうございます! 私はエマと言います。これで一安心です……」


 最後が聞き取れなかったが、今はそんな事よりも支援職に就けるかもしれない事が重要だ。


「エマか……そういや神って何人もいるのか?」


「ええ、たくさんいます! 有名なのが、レイさんが行かれたアストラ神です。最近この街に聖女が来てるんですよ」


 聖女はこの街に住んでるわけじゃないんだな……そういえば巡業とか言っていたな。


「なるほど……何で俺の名前知ってんの?」


「……神よりお聞きしました」


 神という存在は何でも教えてくれるのか……便利だな。ぜひ一度会ってみたいもんだ。


「とりあえず、その支部だったか? 行こうぜ」


「はい、では離れずについて来て下さいね? 少し特殊な所にありますから……」


 エマは黒いフードを被り、先に進んでいく。



 特殊? まぁついて行ったらいいだろ……。


 しばらく歩いて行くが、言われた通り特殊のような気がする。


 人気が全く無い道をひたすら進んでいるのはまだ良い。


 しかし、何故か古民家に入り──床扉を開けて途中から地下に続く階段を降りて洞窟のような作りになっている所を歩いている。


「なぁ……本当にこんな所に教会があるのか?」


 俺は疑問を投げかける。


「ありますよ? 私達の教会はアストラと違って、有名では無いのであまり寄付金が貰えないからひっそりとした所にあるんです」


「へぇ〜教会も大変なんだな」


「そうなんですよ。だから信者も中々集まらなくて……そうだ! レイさんが──もし支援職になれたら入ってくれませんか?」


「なれたら良いぞ? 大手の教会でなれないと言われたんだから、なれるなら信者ぐらいなってやるよ」


「──言質は取りましたよ?」


 先程の天真爛漫な様子と違い狂気に満ちた口元が見えた気がした。


「……あぁ、約束は守るぞ? 嘘ついたら母さんにボコられるからな」


「ふふ、なんですかそれ……さぁ着きましたよ? ここになります」


 とりあえず、感想を言おうと思う。


 骸骨が大鎌を携えているシンボルが扉に刻まれており、中から薄気味悪い笑い声が聞こえて来る。


 入りたくないな……。


「ちょ、何してるんですか!?」


「いや、何か薄気味悪い声が聞こえるし、変なの出てきたら殲滅する為にを出したんだが?」


「いやいやいや! 中にいるのは私と同じ信者の方ですよ! 今回レイさんをお連れすると言ったら、2人も司祭様が訪れてるんです! 暴力はやめて下さい!」


 予め俺がここに来るのが決定されてるような言い方だな。


「けど、中から薄気味悪い笑い声が聞こえてくるぞ?」


「……たぶん、お酒を飲んでるんですよ……後地下だから声が反響するんです」


 そうなのか……なら危害は加えられないのか?


 教会の人は酒は飲まないもんだと思っていたが、そんな事はないんだな。


 俺は剣を鞘に戻す。


「入りまーす」


 エマは扉を開ける──

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