黒の司祭〜司祭になった男は上納金を納める為に可愛い助祭と本に封印された『モノ』達と共に布教しながらお務めします〜

トロ

第1話 俺の進む道

「世の中は金か……」


 今、俺は到着した街で猛烈に焦っている。


 とりあえず、金が無いと物を買う事も出来ないらしい。


 俺は元々自給自足のような生活していた。知識としては教えてもらっていたが、当然ながらお金など必要が無かった。物々交換だったしな……。


 つまり、文無しの俺は何も買えないのだ。


 早急に仕事とやらを探さなければならないが、既に腹が減り過ぎてヤバい。


 しかし、俺は故郷ではずっと訓練ばかりだったから街の一般常識もわからない上に仕事なんかした事が無い。


 やった事があるのは狩りぐらいだろう。



 さっき、チラッと聞いた話によると冒険者という仕事があるらしい。それは魔物を倒して稼ぐ事も出来るそうだ。


 痛いのも戦うのも嫌だが生きる為だし、仕方ないのかもしれん。



 故郷あそこに戻るのは嫌だしな……。



 俺は──


 赤子の時に捨てられていたらしい。


 らしいと言うのは拾ってくれた育ての親──母さんからそう聞いたからだ。


 そして、その母さんは怖い方と優しい方の2人がいる。まぁ、捨て子の俺からしたら村の人達が俺の家族みたいなものだろう。


 怖い方の母さん主導で俺に物心がついた頃から訓練と言う名の扱きを行った。


『今の力では外の世界だと直ぐに死にますよ?』


 と笑顔で話しながら──毎日毎日、訓練で俺は血反吐を吐いた。


 当然ながら死にたくないので必死に訓練した……というか、母さん達から殺されないように必死だったな。


 そして──


 苦節15年……地獄のような訓練にはもう付き合いきれない。痛いのはもう嫌だ!


 ──と戦いに疲れた俺は育ての母さん達から離れる事にした(正確には逃げた)──


 そもそもあの村は絶対におかしい気がする。


 村人全員がおかしいぐらいに強いし!


 勝った事が一度もないんだが!?


 しかも、何で村が凶悪な魔物ばっかいる中心地にあるんだよ! お陰で抜け出すのに苦労したよ!


 母さん(怖い方)の言うは村の周りだったんじゃないかと思うぐらいだった……。


 まぁ、そんなこんなで俺はやっと故郷から抜け出したのだ。


 そして、無我夢中で走り続け──


 辿り着いた街でどうやって生きて行こうか広場で考えている所だったりする。


 はぁ、どうすっかな……。


 ん?


 ──食い物の匂いがする!?


 どこだ!?


 よく見ると広場の真ん中辺りに行列が出来ており、食事を配っている人達がいた。


 食べ物が貰えるのだろうか?


 俺は近くまで近寄って、食事を配っている人に声をかける。


「これって貰えるのか?」


「はい、恵まれない方々に炊き出しを行っております。これは巡業されているアストラ教会の聖女様からの贈り物でございます」


 ほほう……聖女さんという人は食べ物を人にあげているのか……とても素晴らしい人だな。


「俺も欲しい。金がなくてな……」


「えぇ、構いませんよ。食器はお持ちですか?」


「はい」


 俺は唯一持っていた旅道具一式の中からお皿を取り出すとスープを入れてくれる。


「貴方にアストラ神の祝福がありますように」


「ありがとう!」


 俺はやっとの事で食事にありつく事が出来た。実に数日ぶりだ! 道中は逃げるのに必死だったし、狩りも出来なくて食料調達が満足に出来なかったからな……後ろを振り向くと母さん達がいる気がして止まりたくなかった。


 しかし、良い人っているんだな……。



 ご飯を食べ終わり一休みしていると、大きな声が聞こえて来た。


「見てっ! 聖女様よ!」


「ありがたや〜」


 などと所々から聞こえてくる。



 俺も一眼見ようと近寄ると──


 白く長い髪の毛をなびかせる綺麗な女性が装備を整えたお付きの人、5人と一緒に歩いていた。


 凄く美人だな。この人気も頷ける。しかも巨乳だ……更に慈愛に満ち溢れているとは……俺の好みど真ん中だ。


 まぁ、俺なんて見向きもされないだろうけど。そもそも人付き合いの仕方がよくわからん。



「さぁ、怪我や病気の方はこちらへ並んで下さい」


 大衆に向けてそう告げて、並んだ人達に魔法を使っていく。


 あれは──


【回復魔法】という奴だろう。住んでた村でも何人か使える人がいたはずだ。と言っても村の総人数なんて30人もいなかったけど……。


 俺も使ってみたいな。あれば便利そうだ。


 どうやって使うんだろうか?


 俺も魔法は使えるけど、攻撃魔法な上に全てが初級しか使えないんだよな……。


 母さん(怖い方)は「あり得ん……まだ職業ジョブを習得させてないのに……」と驚いていたが……。


 だけど、けっこう魔法放つまでに時間かかる……。



 やり方を聞いてみたいな……。


 どうにかお近付きになれないものか……あわよくば俺を彼氏にしてくれないかな?



 そんな事を考えていると凄い勢いで聖女さんに走り出す人がいた。手にはナイフを持っている。


 護衛の3人がそれに気付き──前に立つが、一瞬にして首と胴体を離れ離れになる。


 周りは阿鼻叫喚の渦となり、逃げ惑う。


「仕留め損ねたか……聖女の命貰い受ける──この上位悪魔ハイデーモンである俺がな」


 その言葉と共にナイフを持っていた者は異形の形になる。


 話せる魔物は比較的に強い奴が多い。


 聖女さんも顔面蒼白だし、護衛の残り2人も顔色が良くない。



 確かに魔物だし、危険なのかもしれない。


 だけど──この護衛弱すぎないか?


 俺は村の外に出たら、戦闘を生業にしてる奴には強敵しかいないと聞いていたんだが……。


 きっと、この護衛は新人なのかもしれないな。


 このままだと全滅しそうだ……。


 しかし、ご飯を頂いた以上──ここで死なせるのは後味が悪い。何より好みの女性だしな。



 俺は気付けば両者の間に入っていた。



「そこの方、逃げて下さい! もうすぐ救援が来ます! ここは私達が食い止めます!」


 聖女さんが必死に呼び止めてくれるが──


「いや、救援が来る前にお前ら死ぬと思うよ?」


 結界を張っているようだが、破られるのは時間の問題だ。放っておけば死ぬのは明らかだ。


「誰だ? お前から先に殺してやろう──」


 上位悪魔ハイデーモンと名乗った魔物は俺に爪攻撃を行って来るが、俺は──止める。


「「「なっ!?」」」


 俺以外が驚いた表情をする。



 いや、驚かれても……だって母さん達より遅いし……。


 とりあえず、攻撃されたし反撃するか……。


「俺は『レイ』と言う。そして、よろしくの挨拶だ! よっと」


「ぶふぇ──」


 顔面に俺の拳がクリーンヒットして吹っ飛ばされる。



「「「はぁ!?」」」


 いや、驚かれても……村にいた時の方がこいつより強い魔物が多かったし……。


 即座に起き上がった上位悪魔ハイデーモンとやらは俺に魔法を放ってくる。


「……やるな小僧……これならどうだ──暴風嵐ウィンドストーム──」


「ちっ」


 俺は腕をクロスさせて防御の姿勢を取る。


 後ろの聖女さんは一応、自分を中心に先程より強力な結界を張ってはいるようだが、避けたら攻撃を受けて怪我する可能性があるからな。



 ──ん? なんだこれは?


 何か力が溢れてくるぞ?



 暴風による【風魔法】が俺を切り刻もうと襲いかかるが──



「生きてるだと?」


「そうだな。母さん達の扱きの方が痛い。という事で死んでくれ」


 今度は手加減無しで拳を繰り出して頭を破裂させる。



「「「……」」」


 俺は唖然として見守っている聖女さんの方に向き直る。


「……さぁて……一つ聞きたいんだけど良いかな?」


「やめなさいっ! ……何でしょうか?」


 2人の護衛が剣を構えてきたのを聖女さんが制止させる。


「さっき、風魔法受ける時──俺に何かした?」


 何か後ろから魔力が包み込むような感覚だったんだよな。


「……確かに【】を使いましたが……必要なさそうでしたね……」


 なるほど、あの力が溢れて来る魔法は【支援魔法】というのか……凄いな!


「あれって俺にでも出来るのか?」


「へ? あんなに強ければ必要ないのでは?」


 いや、そんな顔しないでくれないかな……俺は至って真面目だ。


 俺にはあれが必要だ!


 戦う事に疲れた俺にぴったりだ!


 何より後ろからサポートするという響きが良い!


 それに俺は思った──


『冒険者とやらになっても戦わなくて済むんじゃね?』って。


「いや、とても素晴らしかったです。俺にはあれが必要です。どうすれば使えるようになるんですか?」


 俺は慣れない敬語で話して教えを乞う。


「……職業適正を調べてみて──支援に類する職業ジョブがあれば覚えられますよ?」


 職業ジョブか……村の人達も何かしら就いていたと言っていたな。あれは仕事に就いているという意味ではないのか?


 まぁ、今はそんな事より話が優先だ。


「それはどこで調べられるんですか!?」


「そうですね……調べるだけならギルド関連なら大丈夫です。教会であれば調べた上で転職が可能です。アストラ教会に来られますか?」


「行く行くっ! 俺は支援職になるんだ!」



 こうして俺の進む道が決まった──

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