―無―
月下は、診療所を出たその足で官邸に向かっていた。
彼女が倒れた原因、それは偏に過労と寝不足だった。
体は二日も寝ればすっかり元気になったが、倒れた時に頭を打ちつけた可能性があると、検査のために五日も診療所で過ごした。その間、蓮は月下の側から離れようとせず、ずっと診療所に泊まっていた。そんな彼は今、おくらの許に行っている。
月下は今日、敦盛に大事なお願いがあった。
蓮と暮らすようになって、ずっと考えていたのだ。そのため、寝る間も惜しんで本を読みあさり、独学で知識も得た。体調を崩したのはそのせいだ。
敦盛の執務室の扉を叩くと、中からはいつもの優しい返事があった。月下が尊敬して止まない、花国の長、敦盛。
慈しみを込めた瞳で見つめる彼に、月下は今、宣言する。
「敦盛様、私は差別の無い世をつくるため、外交官を目指します! 大臣様方へ私をご推薦ください!」
【第一章、終わり】
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