たんたかたん 本編

第一章 唄をうたおう、君のために

―零―

 じゃらりと音を立てたのは鋼鉄の鎖だった。


 それは自由を奪う枷、与えられた罰。


 けれど鎖はどこにも繋がってはいない。幼く細い、繊細な首から垂れ、黒々と、だらりと、ただただ自身を主張している。


 青年が一歩近付くと、幼子は途端に威嚇の声を上げた。


『こっちにくるな、あっちいけ!』


 発した言葉は獣の唸りとなり、青年の耳に届く。木々が生い茂る深い森の中で、反響する威嚇は哀れなほど震えていた。


 銀の髪と赤い瞳をもった異国の青年は、美しく整った顔を憮然に歪めて煙管きせるに火を点けた。形の良い唇から吐き出された紫煙が月の光を帯び、辺り一面を白く染める。


「そんな姿でいたら寿命が縮んでしまうよ」


 それは妖艶な容姿に似合わず、太くて深い声だった。


 狼の子は喉を唸らし、牙を剥き出し続けている。


「ああ、面倒くさい。こんな子、預からなければ良かった」


 青年は夜空を仰いだ。

 金色に輝く光が鬱蒼とした森に降り注ぎ、生命が溢れる本来の姿をさらしている。星彩さえ劣るその麗しさに彼は感嘆とした。


「月が綺麗だねえ」


 血のように真っ赤な瞳が緩やかな弧を描いた。

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