第8話〈車内〉
車の中。
運転席に白いスーツを着込んだ男性が運転している。
結界師、と呼ばれる職業を行う彼らは、祓ヰ師の運送を担当していた。
基本的に戦闘能力の有無に関わらず、結界師は事件の記録や補助に徹している。
祓ヰ師が死亡した場合、その報告を行う人物が必要だからだ。
車を運転する結界師の後ろ、後部座席には、長峡仁衛と辰喰ロロが座っている。
長峡仁衛は、最初は助手席に座り、後部座席を辰喰ロロに与えようと思ったのだが。
しかし、辰喰ロロはそれを良しとしなかった。
だから、長峡仁衛の手を引いて、一緒に後部座席の方へ移動させたのだった。
「長峡、寄りかかっても良いぞ」
そう言って、辰喰ロロが長峡仁衛の顔を見た。
何を、と。長峡仁衛は思うが、彼女の手が長峡仁衛の肩を掴むと、無理矢理彼女の体に向けて体を引き寄せる。
「今回は長旅だからな。少しでも体力を回復する為に、私の体を寝具と思って休んでろ」
そういった。
そうか、ならば、そうしよう。
などと、なる事は無い。
長峡仁衛は、恥ずかしそうに、辰喰ロロの顔を見てか細く言う。
「いや……なんか、人目があるし……」
「人目が無かったら良いのか?」
そう聞いて、辰喰ロロはバックミラーを見る。
すると、結界師と目があった。結界師は視線を逸らして咳ばらいをする。
「えぇと……まあ、お若いうちに」
そう言って、結界師はスマホを操作して、車に備え付けられたBluetoothに接続すると、ミュージックを流し出す。
甘くてとろけそうな、耳の奥に残りそうなクラシックだ。
それは煽情を起こす様な音楽で長峡仁衛は首を左右に振って後部座席から運転席に顔を出す。
「いや、空気読まなくても大丈夫なんでッ、なんすか、この音楽ッ」
「いえ、お気になさらず、私は別に、はい、気にしないので、色々な声が聞こえても、えぇ口外しませんよ。はい」
「色々と勘違いしてないですかッ!?俺と辰喰はそういう関係じゃなくてッ」
「長峡、隠すな、私とお前の関係は……な?」
にこやかな笑みを浮かべて、辰喰ロロは長峡仁衛の体を引っ張った。
そして、長峡仁衛を拘束する様に抱きとめる。
「ぐ、ッち、力が強いッ」
「あぁ、そうだ。呪いによる効果だな」
滑らかな指先が長峡仁衛の体を這い出す。
このままでは、食われてしまう。そう思った長峡仁衛は目を瞑った。
そして呼吸を整えて……寝た。
「……ん?なんだ、長峡、寝たのか。つまらんな、まあ、いいさ。本来はこれが私の目的だ」
そう言って、辰喰ロロは長峡仁衛を優しく抱きしめて、その首筋に鼻を近づける。
「すぅ………はぁ………」
長峡仁衛の匂いを嗅いで、辰喰ロロは安堵の息を漏らすのだった。
「」
禍憑姫/龍閃残夢 三流木青二斎無一門 @itisyou
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