第7話〈喧嘩〉

長峡仁衛が連れて来たのは水流迫洸だった。


「まさか、俺を選ぶとは思わなかったな」


長峡仁衛と水流迫洸は共に歩きながら夜の校舎を歩く。


「悪いね、水流迫」


「……まあ、呼ばれて悪い気はしないがな」


そう言って水流迫洸は自らの黒色の手袋を嵌め直していった。


「長峡」


彼女の声が響いてくる。

長峡仁衛は、教室の方で待機していた辰喰ロロを見つけた。


「辰喰、連れて来た。参人目」


「へえ、こいつ、あれか。水流迫家の努力家」


優等生エリートを付け忘れるな。辰喰」


そう不機嫌そうな表情を浮かべて、水流迫洸はそう辰喰ロロに言う。


「お前さ、自分でエリートって言って恥ずかしくないのか?」


「何故だ?エリートである事は事実なのだから、恥ずかしいなどと思う筈が無いだろう」


水流迫洸はさも当たり前と言った具合で言う。

長峡仁衛はこのままだと二人が喧嘩しそうだな、とそう思った。

別段、相性が悪いワケではない。

だが、この二人は変な所で頑固なのだ。


「まあ、水流迫、それに、辰喰、今日はよろしくな」


そう長峡仁衛は冷や汗を流しながら、挨拶をした。

その言葉に対して、辰喰ロロはさも当然と言った様子で言う。


「お前はご主人様だからな、ついていくのは当然の事だ」


「一応は友人だ。同じ優等生、手を貸さない道理はない」


そう二人は言う。


「なんだ、お前、その恥ずかしい呼び方。長峡に付けるのは止めとけ」


「お前の方こそ、ご主人様、などと、恥ずかしいとは思わないのか?」


「?馬鹿か。思うワケ無いだろ」


辰喰ロロと水流迫洸が喧嘩しそうになる。

長峡仁衛は二人が睨みだして、其処で考えに至った。


(あぁ、この二人、相性が悪いんだな)


そう、長峡仁衛は思った。

だから、彼らが喧嘩しない様に割って入る事にした。


「水流迫、今日、車は二台呼んだから、もう片方の車に乗っててくれ」


「何故俺が……」


「お前が特別だからな、お前の為に用意したんだ」


そう長峡仁衛はにこやかな笑みを浮かべて言う。

それを言われて、水流迫洸は悪い気はしなかった。


「そうか」


「長峡、こんな奴を特別扱いするのか?」


後ろに居た辰喰ロロは気に食わないと言った様子で言う。


「いいんだよ。辰喰、俺はお前のご主人だから、一緒の車だ、いいな?」


そういった。

長峡仁衛は、取り合えず二人を引き離せば良いと、そう思っていた。

辰喰ロロは、長峡仁衛と一緒の車ならば……そう思って素直にうなずく。


「分かった、長峡」


そうして、先に水流迫洸が校舎を離れる。

後を追うように、長峡仁衛と辰喰ロロが車に乗った。


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