中層下部:落水の小路2

 あ、またなんかでかいのが流れて行った。

 壁に目印つけながら虱潰しに探索してはいるんだけれど、時々とはいえ僕の身長くらい大きな塊が流れてくる場所すら分からないとは、一体どれだけここは広いんだか。


 行き止まりだった道から戻ってきた僕は、道穴でも活躍してくれた白色の刃となったカタナで壁に傷を入れる。


 芯材はそのままに、刃をあの水性マモノの牙を鍛えたものに変えた事により、軽さと扱いやすさはほぼそのまま蟲素材特有の脆さによる刃こぼれを抑えることに成功した。

 っておやっさんが早口で言ってただけあって、少し切れ味落ちた代わりにずっと使って刃こぼれ1つないくらい耐久力すっごい上がって、本当に使い勝手良くなったなぁ。


 さて。かれこれ数日下流の方にさまよったわけだけれど、出口が見つからんのよなぁ……

 水が落ちて来てる所とか、流れ込んで来てる場所とかは何ヶ所か見つけたけれど、狭すぎるか硬すぎる鉄格子が嵌めてあるせいで通れんのよねぇ。

 かといって絶対間違いなく出口があるであろう上流の方に行くかというと……


「少なくとも今は行きたくないんだよなぁ……」


 というのも、あの超巨大で長いやつが行ってしまった方向が上流なもんで、生きる為にもとりあえずあのマモノが下流の方に来た事を把握出来るまでは行きたくないな。

 でもまぁあいつ以外マモノもケモノも見てないし、比較的安全なのは救いかなー────


「……とか思ってたのになぁー」


 思わずそう呟いた僕の覗いた曲がり角の少し細い通路には、黒い塊とその周囲に蠢く大量の赤い目を見てゆっくりと身を引こうとしたものの────


「ヂュッ」


「あ」


 大量の赤い目の内の2つと目が合ってしまったのだった。


 よし、逃げよう。今すぐ逃げよう。あのデカいマモノに目をつけられたらおしまいだけど脇目も振らず全力で逃げよう。

 昔の人も言ってました。三十六計逃げるに如かず、明日勝つ為に勇気の撤退を、などなどだからー……


「ヂュヂュッ」「ヂュヂィ」「ヂュヂュヂュ」「ヂュアァァア」「ヂュギッ」


「ヂュエェェェアァアア」


 死ぬ程全力で逃げるよ!うん!

 というかあのデカい黒い塊なんだろうと思ってたけど、他のマモノの二、三十倍はありそうな同種のマモノじゃんか!


 全力で来た道を走り逃げながら、まるで黒い波のようになっておってくる大量の赤い目に、ホントのホントに地面を蹴る度にタイルを軽く砕く程全力で走るのだった。

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