隠れ家

「ふぅ……やっと戻ってこれた」


 ここ上層の崩れ遺跡まで。

 本当に大変だった。何が大変かっていうと、緑淵遺跡の一気に飛び降りた15層を地道に杭を打ち込んで上がるのが本当に大変だった。

 地味に1層1層の間が広いから天井までが高くて本当に杭を刺すのが大変だったのよね。


 さて、とりあえず次の探索の為にも地上街で準備しなきゃだけど────


『俺が……俺様が!こんな翼無しにぃぃぃ!』


 ……戻る前に、ひと休憩してから戻ろうとしようかな。

 よし、それじゃあそうと決まればあそこに行きますか。


「僕の隠れ家に!」


 ーーーーーーーーーー


 探跡者たる者、地上街だけでなくこの遺跡のあらゆる場所に探索の拠点となる隠れ家を持つべし。これは探跡者になる時に教えて貰った事だ。

 でも実際買い出しとか整備に使うお金やら使わない道具なんかを保管するなら地上街の空き家より、こういった隠れ家の方がいい筈なんだけれど……


「……なんで居るの?」


「今日もお喋りしたくて。ダメ?」


 いやっ、ダメじゃないけれど!ないけれども!

 なんで目が覚めたら隠れ家にハクヨクさん居るのさ!中層行くからって別れた筈でしょうになずぇ!?


「……?あぁ、これで来た」


 これ?……ってもしかしてそのお花みたいなお守り?それ採古物だったのか。


「一日2回、登録した場所とかヒトの場所にいける採古物」


 はぁー……なんと便利な。ってそんな事話していいの?しないけど取られるとか考えたり……して無さそうな顔だ。うん。


「私、隠れ家黙ってる。長耳ちゃん、これの事黙ってる。うぃんうぃん」


 あ、はい、ソウデスネ。

 というか僕が女ってバレてから薄々思ってたけれど……


「ハクヨクちゃん、結構喋るね」


「っ!だ、だって……初めての女の子の友達だもん……」


 あー可愛い。

 女になって散々だっていつも思ってたけれど、こんな可愛いものが見れるならなって良かったかもしれない。


 あの事件の後、芋づる式に僕が女だってスペランツァーの全員にバレた日の夜にいきなりテントにやってきたと思ったら「私も女」っていきなり胸触らせてくるんだもん。

 本当にびっくりよ。

 で、それから毎晩の如くテントに来て遅くまで女の子のあれやこれを話すんだから、たまったもんじゃない。


「だから……仲良くなりたい。たまになら遊びに来ても、いい?」


 うぅーん……遊びに来てくれるのは別にいいけれど、そもそも僕女の子じゃないしなぁ。

 いや今は女の子だけれど、その内男に戻るつもりだし、たまにとはいえ流石に────


「…………ダメ……?」


「ダメじゃないですっ!」


 そんな顔されて断れる訳がないでしょうがっ!


「やった、ぶい」


 くっ、ハクヨクちゃん満足気な顔しちゃって……まぁ、流れで許しちゃったとはいえ、女の人に関する知識が僕にはまだまだ足りないからそれを学ぶいい機会になるし。


「今日は中層で見つけた果物持ってきた。だからこれで……長耳ちゃん?」


 っと、黙ってちゃ伝わんないよね。

 こういうのはきちんと言葉で伝えないと。


「改めてよろしくね、ハクヨクちゃん」


「……!うん、よろしく」


 こうして僕とハクヨクちゃんの、ちょっと秘密な仲同士のちょっと秘密な会合が定期的に行われるようになったのだった。

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