黒翼
俺はオオバネと呼ばれてる。
数こそ少ないが誇り高き翼持ちのヒトリであり、黒翼の持ち主である。
そして今、そんな翼を持つ者のヒトリが目の前で下された。
目の前の、この翼の無いヒトによって。
……とはいえ、見てしまったのだからこのままって訳にも行かんな。
「おい、お前」
「!なっ、何……?」
「この状況で何って聞いてくるとか……お前ほんと馬鹿だろ」
あ、耳立った。
こいつ無口な割に尻尾とか耳とか、そして何より表情で何考えてるかわかりやすいんだよなぁ。
すっごい睨んで来てるし、さてはこいつ煽りに対して死ぬ程弱いな?
「まぁ、それはいいだろ。んで殺ったんだろう?俺らのリーダーを」
「……っ!」
「まてまて、そう構えるな。リーダーら竜種の翼族はしらんが、少なくとも俺らは仇討ちなんて事をする柄じゃない」
「……本当?」
「本当だ。それに、表面は翼差別無さそうに言ってたが、リーダー達みたいな竜と名乗る翼族は俺達を下に見るくらい差別が酷い。倒してくれて清々したくらいだ」
これは本心だ。
実際、竜種の翼族は俺ら通常の翼族すら下に見ている。
そんな奴らに付き合うのは散々だったからな。それに……
「竜種以外の翼族は基本名ばかりの強者より、真の強者こそ志向だと思っている。だからその……済まなかった。今まで翼無しと侮っていた事、許してくれ」
「え、あ、うん。わ、わかった」
ヒトが謝ったら謝ったでなんだそのびっくりした顔と取り乱し方。
そんなに俺が謝るのが意外か。
さて、それじゃあリーダーの死体をどうするかだが……
「えっと……他の人は?」
他の人……?あぁ、博士とハクヨクか。
博士は研究以外はどうなってもいいって奴だし、ハクヨクこそ強いやつこそ至高主義者だからな。
「その2人なら大丈夫だ。それに博士もハクヨクも竜種にはいい印象は無いからな」
あ、耳がピンっとしてた状態から治った。
やっと落ち着いたって事なのか?翼族は翼に感情が出る奴が多いし、長耳の耳も同じ感じなんだろうか……
っとそんなのはどうでもいいな。
今はリーダーの死体を処理する方法を考えないと。
「このまま放置してもケモノに堕ちるだけだからな、手早くバラすか」
装備をひっぺがしてバラせば少なくともケモノに堕ちる事は無くなるし、バラされる事で翼を持つ者の名誉を守れるならこのクズも本望だろう。
……あまり、進んでやりたくは無いがな。
さて、それじゃあ足か……ら?
「おい長耳、なんだその……なんだ?」
その手の上にある毛玉は。というかいつの間に出したそれ。
「死体を処理するなら、いい手があるだけ」
長耳がそう言って毛玉をぽいっとリーダーの死体へと放り投げると、その毛玉はどういう原理か分からんがみるみる膨らみ────
ーーーーーーーーーー
「悪かったな、リーダーの装備を貰ってしまって」
「いい、おチビのストレス解消になった」
「きゅあっ!」
俺としてはそのおチビが怖すぎるんだが。
まさかあんな光景を目にかかるとは思わなかったし、そんなやばそうなマモノをお前が従えてるとは思ってもいなかったぞ。
「私としてはそのマモノ、是非とも研究させて欲しいのだね!お金なら幾らでも払うから譲ってくれないかね!?」
「やだ」
「博士、長耳ちゃん困ってる」
で、「俺の」チームメンバーはいつもと変わらずか。
「……まぁいい、とりあえず報酬の中層までへの案内はさせてもらった。ここからどうするかはお前次第だが……まだ、来ないのだろう?」
「うん」
「早い返答だな。まぁいい、俺達の寿命は長い。生きてさえいればいつかまた会えるだろう。それまでお前の成長を楽しみにさせて貰おう。長耳」
「また会った時はそのマモノの研究!させて貰うのだね!」
「またね。長耳ちゃん」
あの返答の速さからするに、まだ長耳は上層で力を付けるつもりなんだろう。本当にこれからが楽しみな奴だ。
にしても。幾つもの光剣を使って戦う……か、案外、あいつが新しく二つ名を冠する事になるのかもな。
リーダーを失った数日後、俺はそんな考えを抱きながら数ヶ月を共にした強者と別れたのであった。
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