緑淵遺跡10

 さて、案の定罠は破られた訳だけれども……逃げ切るにも機動力で負ける。それに────


「そこか!この翼無しめ!」


 ヤッパバレテーラ。

 容赦なく槍を投げて来た辺り、相当苛立ってるっぽいな。

 ま、リーダーが僕が女だって気付いた相手って予想して用意した罠にかかってくれた分、良しとしますか。

 ちなみになんでリーダーが気付いた相手だってわかったかと言うと。


 あんなに胸みられちゃあ……ねぇ?


 今まで話す時すらニコニコしてきちんと目を見てすら来なかった相手にさ、いきなりジロジロ胸をみられちゃあ気付くに決まってるじゃん?

 それに、なんだか途中から暗に見下してる感じがどうもなぁ……


「翼無し如きがこの俺を、俺様を罠にかけやがって……ただで済むと思うなよ?」


 そんなに罠にかかったのが屈辱でしたか。

 ならお相手してしんぜよう!


 ガギィン!


 投げてきた槍とは別の、このリーダーが本命としているであろう双頭槍を上手いこと逆手持ちのカタナで受け流し、そのまま反撃に転じてみるものの……


「ふっ!」


 くぅ……っ!やっぱり防がれるか。

 振り下ろした槍の後ろにある刃を勢いそのまま顔を逸らしてカタナの軌道に合わせて来るとは、そんな扱いずらい武器で危ない事よく出来るね。

 っと!


 少し力負けした瞬間に鍔迫り合いをしていた方とは逆の刃を蹴りあげられ、僕は不安定な体勢から突然の切り返しにバランスを崩す。

 しかし身体能力に物を言わせ、バランスを崩し倒れかけた体勢から無理矢理バク転を何度か繰り返し、体勢を整えられる程度距離をとる。


「ちっ。翼無しのくせに身体能力だけは無駄に高い」


 だってそりゃあ僕の一族の特徴の1つですから。

 後は毛を硬化させて攻撃に使えるくらいしか特徴無いけれど、その能力と僕の持つ魔物、この隠してた2つがこの戦いの結果を決める事になりそうだ。

 おチビにはまだ戦わせられる程力がないからね。

 っと、悠長にそんな事考えてる場合じゃ無さそうだっ!


「槍技、千段突き」


「……っ!」


 思ったよりも突きの速度が早いっ!

 やっぱ主力武器の相手を主力でもなんでもない武器で相手にするのは無理があるか……ならまずは武器を変える好きを作るために────


「貰った!」


「後歩一閃」


 技名なんてわざわざ言う必要ないけれど、敵の警戒心を煽るには丁度いいよね!


 しっかりと1歩後ろに引きながらそう呟き、カタナを左手から右手に持ち替え素早く横一閃し、リーダーの槍を強引に横へ弾く。

 そしてすぐさまカタナから手を離し、持ち手の底の部分を掌底でリーダーの方へと打ち飛ばす。が、しかし。


「はっ!攻撃しようと焦って武器を落としたか!ならこれで────」


 これが狙いだ……っ!


「はっ!」


「ぐあっ!よくもこの────ぐぅ……っ!やってくれたな!」


 隙と見て近づいてきたリーダーの懐にある、先程地面へと刺さったカタナの持ち手へと、僕は左足で勢いよく回し蹴りを叩き込む。

 するとカタナは少し浮かび上がりながら、勢いよくその場で回転してリーダーの胴から血を流させ、一瞬だけ怯ませる事に成功する。

 そしてその隙に回転していたカタナの持ち手を掴み、リーダーの心臓へと突き刺そうとしたものの、上手いこと体を逸らされカタナは右肩へと突き刺さる。


 わぁお、すっごい形相で睨んで来てるよリーダーさん。

 さて、本来なら即座に続けて攻撃を叩き込むのが得策なんだけれど僕は知ってるよ。

 あんたの持っているその双頭槍、ソレも魔物だろう?


「ふん、攻めて来んか。流石にこの武器が魔物だと分かってるみたいだな」


「当然」


 索力方にも反応あったし、それが無くてもチームのメンバーが持っていてリーダーが持ってない訳がないからね。

 それにその魔物の性能がどんなものかは分からないけど、焦りが薄かった分何か逆転出来る力があるんだろう。


 それはぱっと思いつくだけでカウンター、背水の陣的な奴くらいか────なっ?!


 あぁぁぁぁっぶなっ!

 槍投げてきやがった!しかも横薙ぎに回転させながら!

 でも主武器を投げるなんて愚かな真似を────


「後ろっ?!」


 ガァィィィイイン!!


 間に……合った!

 予め索力方を使ってたから戻ってきた事に気がついたけれど、もう一瞬尻尾の硬化が遅かったら片腕どころか、綺麗に背中から真っ二つにされる所だった……!


「ちっ!本当に勘のいい奴だな。まさか双刃の帰槍(サースデュランアル)の能力を見切るとはな。まぁいい、お前の能力が分かったんだからな」


 まさか全く予想してない能力で攻められるとは思って無かったなぁ……ってあれ?つまりあの槍には予想してたような反撃系の技はない?

 いや、もしかしたら武器系じゃない採古物があるのかもだけど……直接の武器がないならば!


 使わせて貰うよ、僕のメイン武器を。

 さぁノックスデイガー、僕の力を糧にし幾つもの形なき刃を────


「光刃千降」


「な、なんだこれは!お前の採古物か!」


 おしい、半分正解だよ、リーダー。

 正解はノックスデイガーと索力方の組み合わせ。

 前から練習してた索力方の範囲内に今じゃ50程ノックスデイガーを何処にでも顕現させ、勢い良く降り注がせる事が出来る大技だ。


「さようなら、リーダー」


「俺が……俺様が!こんな翼無しにぃぃぃ!」


 怒りと憎悪に歪むリーダーのその顔は、トドメの合図と言わんばかりに腕を振り下ろした僕の脳裏にきっちりと刻まれたのであった。


 改めて体感したこの世界の非情さと共に。

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