地上街3

 霧と水の入り交じるこの地。

 我が身と数多の遺跡を重ね合わせ、この地の真相を見識する。


「ふぅー……よし」


 少しは周りをながれる力の流れって奴を掴めてきたかもしれない。

 準備に必要な一ヶ月の間練習してたのもあるけど、それでもやっぱりこいつのお陰かな?


 そのお世話になったコビアの入口にある練習場の壁や天井、床に突き刺さる採古物『刃無しの短剣ノックスデイガー』から作られた刃達は、今まさに込めた力が無くなって消えてるんだけど。

 これはこれで幻想的な風景だとは思うけどね。


 さて、それじゃあ今日は力索方の練習はこんなもんで終わるとして……これ、練習しちゃいますか!

 てってれー、射杭糸機ー。

 こちら先日手に入れましたあのちょー頑丈なマモノの糸と、その爪を使って作りました、一応は移動用の道具でございます。

 使い方は至って簡単、手首の内側に装着して魔物の爪から作った杭を天井に投げる!

 するとあら不思議、天井に刺さった杭からあのマモノの糸で紡いだ超頑丈なロープが伸びていったではありませんか。


 我ながらこれはいい出来だ。

 とはいえこの道具はここからが大事、今掴んでるこのロープの手を離せば……


「おぉうっ!」


 お、思ったより勢いが強かった……

 でも自動で巻きとってくれたし、捻り金を使った一つ目の機能はよし。

 んで、横のスイッチを押して手を離せばロープの長さをロック出来るんだけれども……うん、これも上手く動いてくれた。

 そして最後はこちら、地味だけど便利な機能。ボタン長押しでロープをさらに伸ばすことが出来るんだけど……

 おぉ!これも上手く行った!


 基本的にこんな道具を作ってくれる人は居ないから自分で作る必要があるとはいえ、まさか1発でここまで上手く作れるとは思ってもいませんでした。

 さて、それじゃあ練習も検証も終わったし、今日は戻──────


「……なんのつもり?」


「いんやぁー。可愛い可愛いお嬢さんがこーんな遺跡に入るのを見てよォ。オニイサン達心配でついてきたんだよ。なぁ?」


「あぁ。この遺跡にはマモノなんてのも居るからな」

「か弱い女の子が襲われないかって心配でよォ」

「そうそう、だからついてってやろうと思ってよ」


「って事だからよ。外はもう危ねぇし、今日は一晩ここで過ごして行きなよ?な?」


 ちっ、どっかで女だって事がバレちゃってたか……


 練習場から出ようとしたタイミングで四人組の男に声をかけられたので、とりあえず練習に使っていた道具達を直ぐに仕舞い、今は軽く身構えておく。

 探索者の心得の一つだが、こういった遺跡とは言えない場所でもコラビスの一角である以上、出会った人を信用するのは探索者として失格である。

 というかそれ以前に、入口で待ち構えていた挙句、そんな事をニヤニヤしながら馴れ馴れしく声をかけて来られたら流石に警戒するもので……


「おいおい、そんな警戒すんなって。せっかく守ってやるってのに俺達悲しいなぁ」


 正直、喋るの苦手なんだけど。こういった相手は話さないとわかんない奴が多いからなぁ……仕方ない。

 別に安全だから大丈夫、そこに居ると邪魔だって端的に伝えれば分かってくれるだろう。


「要らない、だからどいて」


 うむ、我ながら完璧だ。

 これならこの人達も──────


「おいおいお嬢さんよォ。せっかく守ってやるってこっちが気ぃー効かせてんのに、それは冷た過ぎねぇか?」


「黙り込んでお高くとまりやがってよ。あんま舐めてっと潰すぞおい」


「地上街だと盗みとヒト殺しはダメだけどここなら許されるしなぁ。まぁ詫びとしてよ、護衛代としてその採古物と道具をくれるんならアニキ達も許してくれると思うぜ?」


「もしそれも嫌なら、体で払う……って手もあるぜ?ねーちゃんいいカラダしてそうだからよォ」


「……ッ!」


 ダメでしたね。

 というか気持ち悪っ!何今の感覚?!

 このデカくて汚いウサギのヒトに見られた時に全身の毛が逆立った位には気持ち悪かったぞ!


 とはいえただ金と装備品を狙われてるならまだしも、今も感じるこの気持ち悪い下心丸出しの視線を受けてれば、嫌でも体狙いなのは流石に女の子初心者でも分かる。

 なのでジリジリこちらに迫る彼らには申し訳ないが……


 一応、一端の探索者なら死なない程度にボコさせてもらおう。

 もう二度と遺跡に潜れないレベルの怪我だけどねっ!


「ぐっ!いっでぇぇぇええ!血がっ!血がァァァァァァァあ!」


「んなっ!?オイテメェ!こいつに何しやがった!」


 何しやがったって……今日練習してた力索方の応用で、ウサギヤローの腕の上にノックスデイガーを落としただけですが、何か?


「舐め腐った顔しやがって……!オイテメェら、やっちまえ!」


「「「おう!」」」


 さて、喧嘩を売ったはいいものの……こんな狭い場所で1人手負いにさせたとは言え、4対1はちょっと不味いよなぁ。

 しかも相手は全員体格良くて、僕は女の子ーっていう華奢な体格と来たもんだ。

 まぁそんなのまともにやって勝てる訳ないし、ここはとりあえずノックスデイガーを4本ばかり作り出して、手前2人に向かって飛ばしてみるか。


「ぐあっ!ふぐっ!」


「くっ!あっぶねぇなぁ!おらっ!」


 おっと、片方は防いで反撃してくるか。

 でも流石にそんな大ぶりな攻撃は当たらないし……それっ!


「ぐぅっ!う、腕がぁぁ……!」


 そんなにバランス崩してたら、片腕を尻尾で跳ね上げて切り取るくらい簡単なお話よ。

 さて、あと一人だけど────


「ウオラァァァァアア!」


 ほう!

 僕の攻撃後のスキに攻撃してくるか!ならば……


「ふっ!」


 射杭糸機を打ち込んで地面に背負い投げで叩きつける!

 んで、こいつは行動させないようノックスデイガーを適当に叩き込んでおこう。


「ぐあっ!ぐぅっ!?テ、テメェ……」


 さて、最後に最初手負いにした一人だけれども……あら?


「し、死んでる……」


 泡吹いて白目むいて血をドクドク流しながら死んでらっしゃる……

 この中じゃそんなに大怪我って訳じゃ無いだろうに……って他のヒトは!


「あぁー……」


 間に合わなかった……というかこれくらいで死ぬ程弱い種族なら来ないでくれよ。

 特に盗むべからず殺めるべからずがこの遺跡にいる間は通じないって分かってるならば余計にさぁ。

 ……はぁ。仕方ない、せっかくの練習場に死体を転がしたままっていうのもアレだし。


「おチビ、食え」


「きゅーあっ!」


 待ってましたと言わんばかりに僕のポーチから出たおチビは、そのまま四人の死体へと近づいて大口を開けたかと思うとペロリと死体を飲み込んでしまう。

 そしてスイカの種でも飛ばすように装備品をぷぷぷっと吐き出す。

 毎度餌を上げる度に思うけどどうやったらあんなに大口開くのか、謎だ。


 まぁおチビの謎はおいといて、今日は戻ってゆっくりしましょうかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る