地上街2
「ぴくちゅっ」
んあー……体冷やしたかなぁ。
「おいおい大丈夫か?ったく、風邪引くにしても街に戻れてからで良かったな。遺跡で風邪なんて引いたら死んじまうぞ」
そんなの分かってるっちゅーに。
というかそもそも風邪引いてないし、ただくしゃみしただけだし。
あの戦いから数週間後、何とか先日ディスモダールクにまで戻ってきた僕は、店長の店であのマモノとの戦いで得た戦利品の解析が終わるまでゆっくりしていた。
「というかそもそも、女が身体を冷やすのは良くないってくらい聞いた事あるだろ。お前も今は女なんだからその辺ちゃんと────」
「きゅお?」
おぉ、心配してくれるかおチビ。
どこぞの母親かって言いたくなる奴と違ってお前は本当に可愛い奴だなぁ。
「……はぁ。にしてもまさかあんな主だけじゃなくて、幼体まで見つけて来てるとは、一体崩れ遺跡のどこにそんな場所があったんだ?」
前の探索の時にたまたま休憩に寄った横穴で、たまたま焚き火の煙が壁に入って行ったのを見て、たまたま見つけました。はい。
「ま、その顔と尻尾見るにたまたまだろう?所でよ、その幼体には名前付けてやったのか?普段なんて呼んでやってんだ」
名前?
そういやまだつけてなかったなぁ……一応呼び方としては────
「おチビ?」
「おいおいまじかよ……もっとマシな名前付けてやれよ。お前こいつの主だろ」
って言われてもなぁ……
「きゅあっ!」
もうおチビって名前を自分の名前ってこの子認識しちゃってるしなぁ。
すりすりかわいい。
キラキラとした目でこっちを見てくるおチビとは対照的に、責めるようなジトーッとした目で店長に見られているのはちと辛い。
なので僕の肩に乗るふわもこのおチビ事幼体に、名前くらい考えてやるかと名前を暫く考えてみたものの……
うん。思いつきませんね。
よし、お前はこれからもおチビだ。
「きゅい!」
「まぁお前らがそれでいいならいいけれどよ。そうだ、お前が持ってきた採古物、解析終わったぞ。ほれ、受け取れ」
「?」
あれ?
お金じゃない。返してくれるの?
「流石にそれを同意も得ずに買い取るのは俺の信条に反する。なんたってそれは上位の古物だ」
「!」
まじかっ!
店長にそう言われ、ギョッとしつつ帰り際に巣の底で見つけたその刃の無い、そのナイフの持ち手のような採古物を改めて眺めてみた。
だけど黒紫色の金で幾つもの四角い模様のある鍔、そして根元に四角く白い宝石の埋め込まれた、白い螺旋の柄が施された黒曜のような質感の柄があるだけだ。
総評すると派手な刃無しのナイフの持ち手という事になる。
つまるところ明らかに普通の道具ではない、2等級以上に該当する採古物とは思えないのである。
念の為って思って拾ってきたけど……本当にこれがそんな能力あるのか?
「疑ってるな?ならばそれを「使って」みろ。勿論、店を壊されちゃたまったもんじゃじゃねぇから、裏の空き地でな」
ふむ、なるほどこいつは
なら使ってみないと分からない訳だ。
採古物にも色々な種類があるものの、大きく二つに分けられる。
1つ目は何らかのスイッチや手順を踏むと起動できるタイプの採古物、そしてもう1つは
店長の使ってみろという言葉を聞いて、この採古物が魔物だと気付いた僕は、裏庭に出ると早速採古物に力を送り込んでみたものの……
あれ?
なんにもおきない?
「そんな事は無いぞ。次はその状態で空いてる手に力を集めてみろ」
力を集めるか。
どれどれー……
「おぉ!」
凄い!光でナイフが出来てる!
はへー。
全体で見ると魔物の見た目を飾りまでそのまま白い光が再現してて、刃の形は四角を2つ斜めにしてあると。
模様とか以外の場所は透明だし、重さは無いけれど確かに持ってる感覚はある。
面白いなぁ、これ。
「面白いだろう?しかもまだそれだけじゃねぇんだ。それから手を離してもう1回同じようにやってみろ」
ふむ……おぉ!増えた!
あれ?でもこれってずっと増え続けるやつ?
「一応、それは時間経過で消えるんだが。俺らの力をナイフの形にしてるみたいでな、込める力の量や持ってた時間で持続時間が変わるみたいだ」
「おぉ……」
これは……本当に凄いな!
切れ味も悪くなさそうだし、うん。
これは有難く使わせて貰おう。
「店長、これ貰うね」
「おう」
こうして、僕は取ってきた採古物を初めて自分の物として改めて店長から受け取ったのであった。
「ちなみにそれ、売ったら1発で返金出来る上にお釣りまで帰ってくるぞ」
「!?」
|……本当に受け取って良かったのだろうか。
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