崩れ遺跡5

「キシャァァァァア!」


 まだだ……まだだ…………まだだ………………よし、今っ!


 壁際ギリギリで僕は待ち構え、逃げずに伸ばしてきた蛇腹状の鋏角を避け、その後の奴の突進を今度は横に大きく飛び退って避ける。

 するとマモノはゴシャァッという音をたてながら、畳切れなかった鋏角を潰し、頭に刺さっていた街灯を更に深く突き刺して悶絶し始める。


 よし今っ!

 アイツの動きが止まってる今の内に、あのちぎれた糸の先を輪っかになるように結んで……よし。


「どうしたバケモノ!早く来い!」


「キュガァァァア!」


 もう一度だ、またギリギリまで引きつけろ。

 大丈夫、コイツはこんな閉じられた場所でこんなでかくなるまであの単調なケモノしか相手にしてなかったんだ。

 それはこれまでの動きを見てても間違いない事だし、臆する必要は……


「ないっ!」


 先程とは違い、壁際では無くこの広間のど真ん中でマモノを待ち構えていた僕は、迫るマモノを前にそう自分を落ち着かせる。

 そして壁にぶつけた時以上にギリギリまでマモノを引き付け、今度は横ではなく上に飛び、そこで僕がマモノの頭に深く刺さった街灯の先端に結んだ糸を引っ掛けると─────


 ビキッ!ビチンッ!


 何かがひび割れる様な音と、それよりも大きな糸の切れる音が響き、一瞬だけ糸に引っ張られ動きを止めたマモノの首がほんの少し上向きにになっている事を確認する。


 これならば、行ける……!

 さぁ最後だ。来い、長年生きただけの木偶さんよぉ!


「グギ、グギュラァァァア!!」


 でもナイフじゃリーチ的に流石に無理がある……ならば!


 作戦通り頭を下に向けられなくなったギョロリと幾つもある目だけを僕に向け、声を上げながらこちらへ突っ込んでくるマモノに対し、僕は初めてこちらから魔物へと走り出す。

 その最中、振袖のようになっている自分の腕の毛を硬化させ、長いブレードの様な形に変形させる。

 そしてそのまま互いに全速力でぶつかり合う瞬間、僕は奴の首元の甲殻の隙間へと、そのブレードを突き刺し相手の肉を、体の中の血管を断ち切る感覚を得る。

 しかし相手の方が重く速さもあった事で、相手の体に片腕突っ込んで引きずられる様にし、勢いそのまま壁にぶつかり……


「グギャッ、グガァギャァァァァァァ……」


 ズズン……


「な、何とかなったぁ……」


 大きな音を立て沈んだ巨体の下、ほっと僕はやり切ったとそう声を漏らすのだった。


 一応地形とかから考えてここの主のマモノには勝てる自信があったけれども、やっぱりマモノとの戦闘は初めてって事もあったし、危ない所も多かったなぁ。

 今更だけど……そもそもマモノって皆こういう感じで、こいつも主なんかじゃなくて通常のとか……ないよね?ないよな?

 んー……何せ浅い層にはマモノは居ないし、ここ数年はマモノ自体もディスモダールクに上がってないらしいから、確かめる術はないか。


 さて。それじゃあ無事に倒せた事だし、コイツを箱にしまってから…………そうだなぁ……


「一旦戻るとしますか」


 そう言って、僕は集中力が切れたと言わんばかりにさっきまで下敷きにされていたマモノの腹へと身を預け、一先ず目を閉じるのであった。

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