挟まれたクイズ [中編]
ブライダル研究会に依頼が届いた。
三年八組、クイズ研究会会長
◆
『図書館の本にお気に入りの
◆
「うーん、その問題文だけじゃ難しいよね」
椿ノ峰高校の図書室の蔵書数は膨大だ。漫画、小説、参考書。画集に絵本、辞典に白書。果ては紙芝居から古新聞まで。創立以来の歴史が
百個ほどの指輪の持ち主を探す方が簡単かもしれない。
クイズを聞いたその場で答えは出なかったので、そこで面談はひとまず終了した。
そのまま図書室へ赴く。
改めてその本の多さに圧倒される。
この中の該当する本一冊を探し当てるのは、砂漠で一粒の砂金を探し出せと言われているものとほぼ同じだ。
目の前では先程の
彼女にとっての知恵は『私の持ちうる全ての手段を使い果たす』ことだと言っていたから、
「
「役割分担おかしいだろ……。俺が机の上に持って行って、確認が終わったら戻す係で、お前は?」
「椅子に座って
「確認するだけなら棚の前で一冊ずつ見れば俺要らないだろ!?」
「えー。だって棚の前にずっと立ってるの疲れるしぃ? 下の段はしゃがんだり、上の段はハシゴ持ってこないといけないから疲れるじゃん」
「……はぁ。こいつの性格の悪さ、先輩早く気付いてくれねぇかな……」
私から見れば、矢文さんは彼のような優しい生徒が似合っていると思うのだが……。今は遠くから見守っていることにしよう。
私はカウンターに座る生徒に話しかけた。
「すみません、図書委員さん」
「はい!」
「え?」
後ろから元気な声が聞こえたと思えば、矢文さんだった。
「え、どうしたんですか? 先生今私を呼びましたよね?」
「あぁ、そういうことか。カウンターにいる図書委員に話しかけようとしたんだけど、矢文さんも図書委員だったんだね」
「はい。私とこいつが二年一組の図書委員なんです」
「こいつじゃない。俺にはちゃんと
矢文さんにさされた指を避けた目録君と自己紹介をし合った。
「じゃあ矢文さんに聞くとしようか。灘解先輩が借りた本は、貸出カードを見れば分かるんじゃないのかな」
「先生、それは私もそうですし、私の前に告白チャレンジした友達も確認しましたよ。先輩の借りた全ての本を見ましたが、栞は挟まってませんでした」
なるほど。問題文に『借りた本』とは書いてなかった。そこからその本を特定することはできないようだ。
試しに書棚にある本をパラパラとめくってみた。
まだ矢文さんが見てなさそうな、奥の方の棚だ。
「まぁ……無いよな」
15ページと16ページの間に挟んだ。
比較的早いページだから、確認することは容易いが、これを全ての本に適用するとなるとやはり、本のジャンルだけでも特定させたいところだ。
そうして数冊を確認したところで、一つの奇妙な点に気付いた。
「矢文さん、もしかしてこのクイズの答えが分かったかもしれないよ」
私は真剣な顔をして彼女に伝えに行ったが、当の矢文さんはにやにやと笑っていた。
「先生、多分違うと思いますけれど、聞かせてもらえますか?」
その笑顔が少し気になったが、私は参考書を一冊取り出して机に広げた。
「実際に見てみれば分かるんだよ。本は奇数ページと偶数ページの間に栞を挟むことはできないんだ」
奇数ページと偶数ページは表裏、表裏一体。栞を挟むことが出来るのは、見開きである、偶数ページと奇数ページの間だけだ。
「クイズの答えは、『栞を挟むことは出来ない』、なんじゃないかな?」
矢文さんは、私の答えを聞いて、びっくりした顔をした。
「先生、すごいね! 私の友達が1週間かけてたどり着いた答えに、たった数十分で気付くなんて!」
「うんうん、え? 矢文さんの友達?」
さっきもその話をしていた。
矢文さんの友達も、灘解先輩に告白していたと。
「私の友達がそのことに気づいて、『栞を挟むことは出来ない』って答えたんだけど、不正解なんだってさ!」
『仮にもクイズ研究会会長の僕が、『解無し』なんてクイズを出すと思うかい? きちんと答えはある』
「って言われたんだって! もう分からなくて、なら全ての本を探すしかないじゃない! ほら、縁。この本戻しといて!」
違ったか……。
でも、これはクイズの答えにたどり着くまでの
図書室のどの本だって、奇数ページと偶数ページとの間に栞を挟むことは出来ない。
なら、逆に考えてみよう。
どの本ならば、栞を挟むことが出来るのか?
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