第13話

一方その頃、魔導国家エリシオン所属、魔導研究機関『ネメシス』アルデニア王国支部。


「支部長!!観測された暴風龍が分体を送り出した先が判明しました!!」

「何っ!!本当か!!」


『ネメシス』は魔道国家に在って最上の研究機関と言われている。その研究内容は各地に存在する『龍』の観測とその力の研究で、その力の発生メカニズムを解明し災害から人々を救うことを目的としている。


というのは建前でその力のメカニズムを解明して兵器転用し世界を魔導で制服しようと考えていた。その為、『龍』がいつ力を使うかを調べるために災害を事前に予報するという建前を利用して、観測施設を国の協力の元各地に作り調査研究をしていた。


しかし、なかなか龍は力を使うことが無い。使うとしてもほんの少しで淀みの調整が終わればすぐに飛び立ってしまう。それでは研究が進まない。どうにかして力の解明が出来ないかと頭を悩ませていた中、ネメシス職員が目を付けたのは暴龍達の性質と古くから伝わる【厄災の壺】と言われる物だった。


その壺は、見た目は唯の素焼きの壺だが一度開けば中から悪霊が飛び出し近くの生物に寄生して暴れだす。決して開けてはいけないという言い伝えがあった。


壺を調査していた研究員が偶然見つけたネメシス秘蔵の古代の文献にも、かつて【魔王】と呼ばれていたモノを神の使者が封じたものであり。それは他の生物に寄生してその生物そのものを【魔王】に変容させると書かれていた。


ネメシス本部は暴龍達が【魔王】と敵対的であり見つけ次第攻撃して殲滅しようとする性質を利用しようと考えた。


そして実験を行う場所の選定に入ったが、暴炎龍、暴土龍、暴水龍は所在が分からない、もしくは人が到達できない地にいる事が分かりその3体に対する実験は断念せざるを得なかった。


そして目を付けられたのが定期的に一定のコースを飛んでいる暴風龍である。そしてその巡回コースに一番近く被害が出ればエリシオンの利になる地域が選ばれ、実験場所がアルデニア王国に決定したのだった。


寄生させる魔物には人数を揃えれば比較的捕獲が簡単なジラフベアが選ばれた。檻に入れ眠らされた後、壺と一緒に観測所への補給物資として運んだ。実行する者は危険性を加味して下級の職員(元犯罪者であり人体実験の対象にもなる奴隷)を使った。


アルデニア王国の検問も観測所への補給物資である事を疑わず問題なく通ることが出来た。(ジラフベアは一般兵でも人数を揃えれば勝てる魔物であり魔道国の行事の為と言われれば、実際に生き胆を使った儀式がある事を知っている検問官達には納得出来るものだった。壺自体は素焼きなので見た目に怪しい点はなく、中身は壺を振っても音がせず重さも無かったので空だと判断して開けて確認しなかった。)


そして本部が指定した場所で計画は実行に移された。壺を開けてジラフベアに壺の口を向けると黒い靄が溢れジラフベアに纏わり付いた。そしてジラフベアから麒麟熊、麒麟へと急速に進化したのであった。


もちろんそれを実行した部隊は麒麟へ変化したのを確認するとすぐに退避しようとしたが、強制的に進化させられた上に『邪神の恩寵』により狂暴性がさらに上がっていた麒麟によって雷に撃たれ全員死亡した。


本部から暴風龍観測のための計画を知らされていたアルデニア支部は暴風龍の観測体制を万全に整えて準備をしていた。


そして狙い通りに暴風龍がアルデニア王国に到来し、ネメシス観測班はその暴風龍の力の一片が本体から離れどこかに飛び去ったのを観測していたのだ。


「本部の言った通り暴風龍が現れたが分体を出すとは予想外だ!!これは貴重な情報が得られるぞ!!場所は何処だ!!」

「アルデニア王国王都であります!!細かい場所に関しましては今現地職員を使って調査中です!!」

「良くやった!!わかり次第報告するように!!」


暴風龍が分体を作る事自体前代未聞であり、それが人の住む領域に降りてきたとなれば一大事である。どのようにして分体を作ったのか。降りてきたのはなぜなのか。もしや過去に廃れた巫女が復活したのか。


本体の方もそろそろ【魔王】と衝突するはず。暴風龍が【魔王】と戦えばその戦闘能力と力の発動の仕方等多くの事を知ることが出来る。これによりさらに研究が進むことは明白だ。


「これで暴風龍の力を我が国の物に!!そして世界は魔導国家エリシオンの物となるのだ!!」

「支部長!!緊急です!!」

「降り立った場所が分かったのか!!」

「違います【魔王】の方です!!【魔王】が突然姿を消しました!!」

「なっ、なんだと!!」


実行部隊は【魔王】麒麟によって消し炭にされたが、動物から【魔王】に変化するという貴重な情報を取りこぼすはずもなく。秘密裏に観測していた部隊からの報告であった。


「消えたとはどういうことだ、説明しろ!!」

「原因はわかりません。突然姿を消して痕跡も残っていないようです。【魔王】が消失した為、暴風龍は当該地域から離れております。」

「これでは戦闘に関する情報を集める事が出来ない・・・。仕方ない現地の調査部隊は撤収次第分体の調査に協力する様伝えろ。巫女が居る可能性が考えられる。」


ネメシスには過去に居た「暴風龍の巫女」の文献も残っており、今回王都に降り立ったのは巫女が現れたからだと支部長は考えていた。


「巫女を発見した場合どういたしましょう?」

「生きていればどんな状態でもいい。必ず連れてくるのだ。」

「わかりました。」


もし本当に巫女が居るのであればその人体実験を行ってその力を解明し、暴風龍と通じ合うという伝承を確かめるのだ。もしそれでわからなければ解剖を行って何が違うのか探るのも良い。そして暴風龍の力を我が物に!!


支部長がそんな欲望にまみれた思考をしていると突然頭の中に声が響いた。


《そのような事をされては困るのですよ。》


「誰だ!!」


突然聞こえてきた声に驚き支部長は問いかける。


《知る必要はありません。あなた達の行いは全て知っていますよ。己が欲望の為に人の命を使い、マスターを危険にさらした。その罪は許される物ではありません。》


「魔導の発展には犠牲が付き物!!それをとやかく言われる筋合いは無い!!いい加減に姿を現せ!!」


《自身の行動に対して罪の意識を確認できませんでした。魔道国家エリシオンを思考調査開始。国民の大半が同じ思想であることを確認。一部勢力が災害から他国を守るという信念を信じて行動している事を確認。》


「なっ、何を言っている?」


声が聞こえてきたと思えばよくわからないことを言われ、さらには何かが起ろうとしている。支部長は言い知れない恐怖に駆られていた。


《思考調査終了。結果、暴龍の力を使い世界を統一するという思考とその資料、そして開発された技術を収納すれば、世界統一から建前であった世界を救うという認識にすり替える事が可能と判断。この世界に存在するあらゆるものから該当する全てを “収納”します。》


「何をするつもりだ!!やめろ!!やめてくれ!!」


支部長は止めようと声を上げるがそんなことで止まるはずも無く。この瞬間、魔道国家エリシオンとその協力者から暴龍を利用しようとする思考は全て消え去り、兵器転用されそうだった技術とその情報は全て消失した。それに付随してエリシオンに所属している人間には記憶のすり替えが起こった。残ったのはエリシオンが暴龍を観測してその災害をいち早く他国に報せ人々を救うという使命だけであった。


「はっここは?私は・・・・・。」


どうなっている?私は気を失っていたのか?なにか大変な事が起こっていた気がするが・・・・。


「そうだ暴風龍は!!進路はどうなっている!!誰か居るか!!」


私の呼びかけに観測班が慌てた様子で入室してきた。


「支部長!!暴風龍は進路を北に向けました!!あの先には人の生活圏があります!!」

「何ぃっ!!急いで知らせるのだ!!避難勧告と外出自粛を早急に!!支援物資の手配も忘れるな!!」

「わかりました!!」


妙に頭がスッキリしているがそんなことは後回しだ!!暴風龍と言う天災が今この国を襲っているのだ我々ができる事をせねば!!


「支部長、王都部隊より通達です。王都に降りた分体による被害は皆無。王都はいつも通り平穏です。」

「どこにも被害は無かったのだな?攫われたもしくは姿を消した人物は?」

「調査中ですが今の所突然消えた人物はいない模様です。」


よかった。過去の文献で暴風龍が人をさらう場合があると記されていた。巫女等と言うふざけた扱いをしていたようだが攫われた子がどんなに怖い思いをした事か。我々は絶対にそれを阻止し悲しい思いをする子供を救うのだ!!


「了解した。明日まで調査を断続し、異常が無ければ帰還するように通達してくれ。」

「了解しました。」

「ふぅ今回も被害が少なければいいが・・・・・。いやその為に我々が居るのだったな。」


指示を出し終えた支部長の顔は満足感とやる気に満ち溢れており、記憶改変前の支部長を知っていればあまりにも変わりすぎた人格に腰を抜かすであろう。


《これで大丈夫そうですね。》


「ん?誰かいるのか?」


こうしてとあるスキルのせいで一国家の思想が大きく変わり他国との関係性も大きく改善されることになったのである。


《ふぅ、世話の焼けるマスターですね。》


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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