27.飲み込め摩擦
「あっ、フランの実だ! タック、これ甘いんだぞ」
横の太い木に幾つも成っていた、手のひらサイズの赤いぷっくりした果実をプチッと
「久しぶりに食べてみようかな」
「アーネックちゃん、
彼女の腕をグッと掴むカナザ。
「なに? 食べる食べないまでカナに制限される筋合いないんだけど」
アーネックさん……言い方……もっと柔らかい言い方を……。
「それ、少し皺ができ始めてるでしょ。そういうのは熟しすぎて苦味が出てるの。他の実も皺できてるし、吐き出したくないなら口に入れない方がいいわ」
カナザさん……言い方……もっと柔らかい言い方を……。
「ふうん。カナ、詳しいんだね」
「授業でやったじゃない。食べ比べもしたわよ。今度から気をつけてね」
「はいはい、ありがとね」
もう、ちょっとした地獄だぞここ……この状況でクエストとかやるの……。
「ねえタクト、何か笑える話とかないの」
「無理! 無理だから!」
鬼みたいな振りはやめてくれ!
「ったく……どうしろってんだよ……」
山道の途中、図ったかのようにちょうど良い場所にある平地で休憩。とはいえ、これまでのパーティ―で何度も見てきた女子同士で連れ添って近くを歩き回るようなことはない。なるべく2対2の構図を作らないようにしているのか、4人全員が初心者の将棋の駒のようにバラバラに動いている。逆に違和感。
「おい、オーミ、オーミ」
近くにいた彼女を呼び止める。真っ白なロングTシャツに、薄いチェック柄の入ったグレーのミニスカートは、オトナっぽすぎず等身大の女子感が強くてドキッとする。
「何よ、タクト。アナタに従属する気はないわよ」
「頼むから俺をまともな人間扱いしてくれ」
このタイミングでハーレム攻勢なんかするか!
「正直さ、雰囲気気まずくないか? このまま進むの?」
その問いかけに、彼女は何も言わず、シャツの袖を揺らしながら手招きする。
「どうした——」
近づいた俺に対し、彼女は右足を軸にしてくるりと回る。そして完全に背中を向けた状態で軸足を左足に替え、空いた右足で豪快に俺の足を蹴り飛ばした。
「せいっ!」
「痛ってええええ!」
太もも! 太ももが割れる!
「何で蹴るんだよ!」
「イラっとして暴力を振るいたくなったからよ」
「人として間違ってる理由を堂々と語るな!」
パーティーメンバーへの接し方じゃないだろ!
「確かに雰囲気は悪いけど、ならタクトはどう解消してほしいの? どっちかがグッと堪えればいい?」
「まあ、それも一つかもしれないけど——」
「そんなの意味ないわよ、表面上合わせたってストレス溜まるだけだわ」
心の中の疲労を全て吐き出すかのように、大きく嘆息するオーミ。
「もともと合わないんだから、多少の摩擦は飲み込んで進んでいくのよ」
「そこは織り込んでやってくってことか……」
何ていうか女子ってしっかりしてる……俺の1つ下とは思えないな……俺去年はドーナッツをどこまでぺちゃんこにできるか教室で実験してたな……。
「期待してるわよ、ハーレム王子」
「やかまし」
クックッと笑いなら、彼女は近くを流れる川に水を汲みに行く。
この状況でハーレムって……ん? いや、待てよ、今って内紛状態だよな? ここで味方をするフリして近づけば、相手もひょいひょい乗って来て一気に距離縮まるんじゃない? それをしれっと双方のグループにやれば、どっちの好感度も上がるんじゃない?
来た! 起死回生の一発! さすが俺、夢は諦めずに叶える男! 早速試してみよう!
「カナザ、カナザ」
「どうしたの、タッちゃん」
「俺さ、お前の気持ち分かるよ。アーネックやナウリのグループとはやっぱり違うしな。なんか味方になれる気がする」
「あ、そういうのは要らないよ。どっちが味方増やしたとかになるとまた面倒だから。タッちゃんは中立のスタンスでいた方がお互いのためだと思うな」
「…………そうですね」
ハーレムの道は遠い。
「ふう、ようやく山頂だね~」
ナウリが手の甲に出来た玉の汗をタオルで押さえる。気温もほぼ最高潮に達する中で、滲み出た汗が赤のワンピースを濃色に染めた。
結局最後まで緩い傾斜のままで、登山というよりハイキング状態。外周をぐるぐると周るような道のりになってたけど、生い茂る木々さえ邪魔していなければ一直線に登れたに違いない。
「おっ、あれじゃないか」
見晴らしの良い、開けた平地。その山頂に、黄色い皮があちこちに脱ぎ捨ててあった。今回の目的、スイートスネークの脱皮殻。
「私も何回かこの粉末調合してるけど、皮のままのは久しぶりに見たな。うへえ、なんかこれだけあるとやっぱりちょっと気持ち悪いわね、タッちゃん」
「ん、だな」
といっても、本体がいないのなら噛みつかれる心配もない。微風にカサカサと揺れるその抜け殻を掴んでみると、ぶにゅっと柔らかい感触。思わず何度か押してみる。
「気持ち悪いけど摘まんでみるか」
「アーちゃん、一緒に触ろ」
アーネックとナウリが恐る恐るその皮に手を伸ばす。その時、カナザが「あ、2人とも」と遮った。
「尻尾の部分を触るといいわ。そこだけ固くなってるから、持ちやすいと思う」
「カナちゃん、ホント?」
人差し指だけ伸ばして、尻尾をツンツン突くナウリ。
「ホントだ、ここなら触れる~!」
「すごい! ありがとな、カナ!」
ひょいひょいと拾って採取用の麻袋に入れる2人。アーネックも、「そんなに怖がる必要なかったな」と上機嫌。それを見ているカナザとオーミも、静かに顔を綻ばせていた。
これは……来たんじゃない? ほんわか和やかみーんな仲良しモード来たんじゃない?
「よし、じゃあ帰ろうか!」
見えていた抜け殻を全て袋に詰め、4人に声をかける。
「そうだな。なあ、ナウリン、帰ったらバッグ見に行かないか?」
「いいね、アーちゃん! 行こ行こ~!」
そうそう、そこでカナザ達にも声を——
「じゃあ久しぶりに2人でデートだな」
アーネックの受付は終了しました。追加人員は許容されません。
「オーミちゃん、帽子一緒に選んでくれない?」
「もちろん。私もカナザと一緒に見たいな」
対抗してコンビ結成! やっぱりバラバラだった!
くそう、こうなったら無理やり5人で行動してやる。
「おいアーネック、俺もいるんだから俺も混ぜてくれよ」
「分かったよ。じゃあアタシとナウリン、カナとオーミンでそれぞれ出かけるから、タックはその抜け殻をクエスト受付所に届けてくれ」
「なんで分業制なんだよ!」
結局5人全員で抜け殻を届け、その場で解散となりました。
俺は1人で散歩しました。名も知らないオレンジの花が綺麗でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます