25.1・2・2

「それにしても、こんなにコロコロ入れ替えてたら、組み合わせも尽きるよな」


 残った3人で待合所のベンチに座る。おばさんによると、もう1人がすぐに来るらしい。


「一度分裂したメンバー同士が再会して大変になったりしないのか」

「ケンカしても、しばらく距離置いてからまた一緒になれば仲良くやれたりするのよ」

 体を屈め、覗き込むように視線を合わせるオーミ。


「ああ、時間が解決してくれるってやつか」

「それもあるし、他の女子と一緒にいて『コイツよりはあの子の方が随分まともだったなあ』って思ったりね」

「何その生々しい話」

 ジョークなのかどうかも分からないんですけど。



「ごめん、遅れちゃった!」


 走ってやってきたのは、アーネックと同じ美人タイプの茶髪の女子。かなり長いであろうその髪を束ね、ぐいっと上に持ち上げて髪留めで留めている。バンスクリップとかいうヤツだな、小学生のときに隣の子が教えてくれた。


「剣士やってるタクトだ」

「カナザだよ、よろしくね!」


 手を伸ばすと、握手に応じてくれるカナザ。ノースリーブで黒と白のギンガムチェックのブラウスは、肩についてるフリルが可愛い。下はたいして物が入らなそうなポケットのついたベージュのスカートで、茶色の髪ともよく似合っている。


「あっ、私はロードガイド兼、薬師くすりしね」

「兼? 2つやってるのか?」


「うん、ロードガイドの訓練で色んな場所歩いてたら、草花や鉱石の成分に詳しくなってね。もちろん治療もできるけど、モンスター倒す薬とかも作れるよ」


 調合に使うらしいすりこぎを見せて微笑む。ううん、この子もやっぱり可愛いなあ。


「タクトかあ。じゃあ私はタッちゃんって呼ぼうかな?」


 すりこぎを人形のように使い、首を傾げているかのように傾けて訊く彼女に、さも普通のことのように「い、い、いいぞ」と首肯する。来た! 来ました! 2人の距離がグッと縮まる魔法の言葉、ちゃん付けの愛称頂きました!


「オーミちゃん、やっほー!」

「元気そうね、カナザ」

 2人でハイタッチする。実家の話が飛び出したりして、仲が良いことが窺えた。



「アーネックちゃんもナウリちゃんも、久しぶりね」

 カナザが髪を留め直しながら挨拶すると、アーネックは鼻でふうっと息を吐いた。


「ああ、カナと一緒にクエストやれるなんてな」

「カナちゃん、よろしくね~」


 ……なんかグループ全体が良い雰囲気じゃない! アーネックの溜息みたいなのがちょっと意味深で気になるけど、これハーレムいけるんじゃない!



 ハーレムの主 剣士 タクト(脱男子校)

 ハーレム構成要員① 格闘家 オーミ(一番好み)

 ハーレム構成要員② 魔法使い ナウリ(巨乳)

 ハーレム構成要員③ ランサー アーネック(美人リーダー)

 ハーレム構成要員④ ロードガイド・薬師 カナザ(元気な美人)


 

 思えば男子校時代は「現世を諦めてもいいからハーレムを作りたい」「多感な青春の時期に男子しかいない教育機関を選ぶというのは公然たるマゾヒストではないか」「最近はノートに『体育着の女子』と書くだけで興奮できる」と数々のゴミのような話に花を咲かせては泣き崩れていたけど、今の俺はハーレムが実現できるポジションにいるんだ……!


 何度でも言おう! 俺は! ハーレムを! 作る!



 そう、このときの俺はこんな前向きで爽快な心持ちだったのだ。転生以来、最大の試練が訪れるとも知らず……。






「皮を拾う? 脱皮した皮ってことですか?」

「察しがいいね」


 開け放した窓から心地よい風が抜けるクエスト受付所。業務中だというのに酒を呑んでることをもう隠しもせず、ぶはあと香りの強い息を吐きながら、丸眼鏡のおばさんがケタケタと笑った。いや、笑うところ一つもなかったですけど。


「スイートスネークっていう、まっ黄色の蛇がいるんだけどね。そいつが結構な頻度で脱皮するのさ。その皮を粉末にして飲むと、内臓の病が治るって言われてる。ちなみに川は食べても美味いらしいよ、甘みと歯応えがあってさ」

「うえ、なんか想像したくないです……」


 おばさんはグラスの中身をカッと煽り、「そういえばさ」と話題を変えながら残り少ない瓶の中身を注いだ。


「あの丸眼鏡のババアいるだろ。ついに呑みに行ったんだよ」

「あ、そうなんですね。どうでした?」

「いやあ、お互い好きな酒が一緒でねえ。割と楽しかったよ」

「良かったですね!」

 そうそう、共通の趣味が見つかれば距離が一気に縮まるよね。


「でもねえ、あの女、何かあるとすぐ自分の親族の話をベラベラ話すんだよ。アタシはああいう風にプライベートを赤裸々に話す女とは仲良くなれないね」

「ううん、そうですかあ」


「でもまた関係拗らせるのは面倒だからねえ。アンタ、今度あのババアに会ったら『楽しかったって言ってましたよ』って伝えとくれよ。他人から伝聞の形で耳に入った方が印象もいいだろうしね」

「そこまで考えるんですね……」

 もう会話っていうか読心術だよ。


「面倒なのにクエスト紹介してやってるんだしさ、頼むよ」

「紹介は仕事でしょ! 報酬もらってるでしょ!」

 面倒とか言っちゃいけません!




「というわけで、スイートスネークの皮を拾うぞ。これが近場で唯一残ってるクエストらしい」

 受付所の外に出て4人に話すと、「今回のクエスト選びは任せるわ」と言っていたアーネックが途端に顔をぐしゃっと歪めた。


「なんかイヤなんだよなあ、蛇の皮とか。気持ち悪くない、ナウリン?」

「アーちゃん、分かる~。触るとぶよぶよしてるし、ちょっとね」

 ううん、やっぱりそういう女子もいるよなあ。虫苦手な子だっているわけだし。



「カナザ達は大丈夫か?」


 俺は自分のこの言動を、ここでカナザに振ってしまったことを、後に激しく後悔した。


 この質問が呼び水になったから。


「私は結構好きな方かも。学校でも結構触ったし。ね、オーミちゃん?」

「うん、他の種類の蛇も触ったし、私も平気かな」

 先頭のアーネックが頭の後ろで手を組みながら、くるっとカナザの方を向いた。


「まあ、確かに触ったけど。でも嫌いなものは嫌いだからさ、気は進まないよなあ」

「嫌いなのは仕方ないと思うよ、私も嫌いなものあるし。でもクエストだから」

「分かってるって。好き嫌いと仕事は別だってことだろ? さっすが、オシャレも勉強も遊びもできるグループは違うねえ」


 被せて返してきたアーネックと、その後ろで彼女を見ているナウリ。

 一方のカナザとオーミは、同時に小さく嘆息した。


「そうね、でも好き嫌いと勉強の成績も別の話よ。さっ、ロードガイドの仕事しなきゃ。スイートスネークのいる山に案内するわ」

「……そうだな」


 待合所でみんなが見せてた笑顔は、とっくに消費期限が切れたらしい。対立構造が、浮き彫りになる。



 このパーティー、俺と女子4人じゃない。もちろん、俺とリーダーと残り3人でもない。



 1人と2人と2人だ……っ!

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