第4章 負けるなハーレム、乗り越えて衝突

Quest7:スイートスネーク脱皮殻採取

24.入れ替え注意報

「良い天気だねえ」


 クエストのない平日昼。レストランでパンと肉のセットをゆっくり食べて散歩、途中に置かれていた木製ベンチにごろんと寝転がって日なたぼっこ。


 元の世界とは比べ物にならないくらい穏やか。女子に聞いた話によると、ハイレム王国の中でも、都心部に近い方はもっとせわしない生活を送っているらしい。異世界にも都会と田舎があるってことか。


「こういうのんびりした生活も悪くな……あれ?」


 思ってたことを口に出して噛み締めながら起き上がると、少し離れた場所、腰に剣を携えて歩く男子を見つけた。俺より少し年下、13~14歳だろうか。


 男子の剣士? 待て待て、クエストやってる男子は転生してる人がほとんどだって言ってたな。それに、オーミの口ぶりだと、元いた世界から過去にも何人か転生してこのハイレムに来てるっぽい。



 ってことは……



「転生者だ!」

 思わず駆け寄る。この世界で仲間を見つけられたかもしれない!


「あのっ!」

「…………あっ!」

 こっちに気付いた黒髪の彼が、驚きと喜びに満ちた声で小さく叫んだ。


「……だよね!」

「……ですよね!」


 お互い、言いたいことは完全に分かっている。そしてよく見ると、顔立ちが元の世界の人達とそっくりだった。しかも黒髪だし、なんなら俺のいた男子校にもいそうな顔。


「……あの、違ったらごめん、ひょっとして、日本から……?」

「です! そうです!」

「やっぱり! 俺も俺も!」

「うわあ、嬉しい! こんなところで転生仲間に会えるなんて! しかも日本の!」


 2人でキャッキャとはしゃぐ。周りから見たらさぞかし変な2人に見えるだろう。




「僕は来て半年くらい経つんですよね」


 空いているベンチで隣に座った彼は、ユウマと名乗った。年齢は予想通り、14歳。俺と同じように事故で亡くなった後、ここに来たらしい。


「向かいの車がフラフラしてるなあと思ったら、急に歩道に突っ込んできて。その後は覚えてないんです。今考えると居眠り運転だったのかもしれませんね。タクトさんも事故ですか」

「あ、ああ……うん、結構大事故だったみたいだ」


 下校中に女子高生の集団に見蕩れて、女子オーラだけでも浴びようとフラフラと近づいたら女子高生の並走自転車3台に同時に轢かれて頭を打ったなんて、とても言えたものじゃない。



「でも、いいよな、ここ。パーティ―組んだらみんな女子だもんな、幸せな気分だぜ」


 4人の顔を思い出しながら顔を綻ばせていると、ユウマが「そんな!」と手を勢いよくブンブン振った。


「いやいや、遠慮しなくていいんだぞ、ユウマ。お前もハーレ——」

「女子って男子と生態違いすぎませんか! みんな16歳で僕は年下だし、正直どうしていいか分かりません!」

 ええええええ! そっちなの!


「元の世界の中学でもそうでしたけど、クラスで普通に褒めてるのに裏でけなしたりしてますよね? それにたまに皮肉で褒めてるようなときもあるし」

「うん、ね、ユウマ、一旦落ち着こう? な?」


「話してて目が笑ってないときもあるし……。それに男同士って正面きって相手に注意できるじゃないですか。前のパーティーの女子がそれやって、言われた方が『絶対許さない!』とか言いだして内部分裂ですよ! 別に嫌いで言ってるわけじゃないのに」

 ダメだ……完全にストレスが爆発してる……。



「なんで何でもかんでも待ち合わせて一緒にやろうとするんですか? クエストだって途中で個人行動してもいいのに、バラバラに動けないんですよね。タクトさん大変じゃないですか?」

「いや……まあ確かにそういう部分も無きにしもあらずだけど……」

「ですよね! 困ってるんですよ! 他にも、この前……」


 彼の話はとめどなく続く。まあ年下だもんな。余計に難しいところはあるよな。


「でも同じ境遇の方に会えて良かったです。タクトさん、またいつかお話しましょう!」

「おう、クエスト受付所で会えるだろうしな」


 と、遠くから「あ、いた、ユウマ!」と呼ぶ声が。オレンジの髪の女子が近づいてくると、彼は大きく溜息をついて「じゃあまた……」と会釈してくれた。



「ねえ、ユウマ、聞いてよ! リズがさ、私の服見て『ちょっとお、キャラ被りやめてよね』って笑ってきたんだけど、ひどくない!」

「え、あ、はい、どうでしょう……」


「確かにリズの方があの服先に買ってたけどさ! そのとき私も『この色いいね、買おうかな』って探り入れておいたんだよ! そのとき何も言わなかったのにみんなの前になったら急に掌返してさ! どう思う!」

「あの、んっと、買いたいものは人それぞれだし、好きな物買ってもいいかなって……」

「そんな単純な話じゃないの!」


 連れていかれながらハイトーンの愚痴を聞かされるユウマ。気が付くと俺は何故か、彼に向けて精一杯の敬礼をしていたのだった。




 いやいや、人の心配してる場合じゃない。俺ですよ、俺。ぽかぽかおさまに包まれてハッピー、なんてやってる場合じゃない。


 俺は何のためにこの世界に来た? そう、ハーレムを作るためだよな? でも1人に絞るのもアリか? この前のパン焼いてきてくれたときのオーミ、めちゃくちゃ可愛かったもんな……いやいや、1人じゃ足りない、モテモテのモテにならないと!


 今一度強く決意するんだ。女子グループというものがどれだけ大変でも、今集まってる4人の女子を何としても虜にして、俺が頂点を極めるのだ。


 さあ、心の中で激しく叫べ。俺は! ハーレムを! 作る!






「パーティ―入れ替えだね」

「いやだああああああ!」


 宝くじ売り場のような小さな部屋、パーティー登録所で、首をブンブン振りながら目の前のおばさんに泣きつく。後ろで立っている4人から壮大な溜息が聞こえた。


「おいタック、いちいち騒ぐなよ。女々しいな」

「なんとでも言ってくれ!」


 さあこれからハーレム建国に向けて全力でモテまくっちゃうぞと意気込んでいた矢先、アーネックのマジトに連絡が来て、ここに来る羽目に。


 しかも前は増員だったけど、今度は入れ替え!


「他のパーティーでロードガイドがちょっとトラブルになってね、入れ替えることになったんだ。ニッカ、頼むね」

「なんで俺のパーティーばっかりとばっちりを……」


 頭を抱えていると、綺麗なパーマのおばさんは呆れた目で俺を見る。


「あのね、言っておくけど『俺のパーティー』じゃないんだよ。剣士の歴だって浅いし、役に立ってないだろう?」

「え、そこから!」

「アンタはね、ケーキで言えばフォークをくるんである紙ナプキンみたいなもんなんだよ」

「ケーキ関係ないんですね」

 せめて材料組には入りたかった。


「そんなわけでニッカ、今日から別のパーティーに行っておくれ。集合場所が少し離れてるから、あとで地図を渡すよ。お前さんたちはここで新しいメンバーを待つんだぞ」

 そして外に出され、あっさりと別れのときが近づく。



「ニッカ。離れても、俺達はずっと、パーティーだからな!」

「タクト君、あくまで仕事の繋がりだから、離れたらパーティーじゃなくなるよ?」

「絶対にまた一緒にクエストやろうな……!」

「それは登録所で決めることだから確約はできないなあ」


 ねえ、もう少し余韻みたいなもの愛でない? ハンバーグ食べ終わった後もなんか名残惜しくてミックスベジタブルをソースにつけて食べちゃったりするでしょ?


「みんな、またマジトでね」

「うん、ニッちゃんまた一緒に冒険靴買いに行こー」

「俺とも! 俺とも連絡先交換とかしようよ!」

 4人でばっかりズルい!


「タクト君、何か連絡できるもの持ってるの?」

「……いや、持ってない。宿屋暮らしだし……」

「じゃあ何かあったら宿に連絡するわ。台風来そうだから逃げて、とか」

「そんな状況にならないと話してもらえないの!」


 結局、いざというときはパーティー登録所経由で呼び出してもいいと許可をもらい、ニッカは川の方へと去っていく。


 最後に彼女に苦笑いされながら耳打ちされた「こっそり新しいメンバー教えてもらったけど、大変だと思うよ」という言葉が少しだけ気になった。

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