11.ドッキドキ☆分裂パーティー
「………………………………」
「……………………………………」
どのくらい歩いただろうか。会話が全くないままどこまでも川沿いの道を辿り、ニッカの後をついていく。
先ほど勇気を出して「あとどのくらい歩くんだ?」と彼女に聞いてみたものの「さあね」とロードガイドとは思えない回答をもらってしまい、もはやクエストの行き先もグループの行く末も全く不明のドッキドキ☆ミステリーツアーである。
「……………………………………」
全員黙っているけど、明らかにナウリに疲れが見え始めて、それをニッカもチラチラ見ていた。まさか、ケンカしてるからって置いていったりしないだろうな……。
と、そんな不安は、杞憂に終わる。
「……休もっか」
名も知らない、大きめのシロツメクサのような花が一面に咲く平原で、ニッカはポツリと呟いた。全員が、無言のまま座る。
そのうち、ナウリが水筒を取り出し、川の方まで走っていった。水を汲みに行ったのだろう。
「ナウリ」
「ああ、タクトさん」
後を追いかけ、一緒に川辺に腰をおろす。最下流なのか、流れは緩やかで、大きな石もほとんど見当たらない。
日差しを反射した水面に小さな光の粒が幾つも生まれていて、それをジッと見ている彼女の柔和な表情が、俺の鼓動をクッと加速させた。
「……ニッちゃんが悪いわけじゃないんだけどさ。というかワタシが悪いんだけど、なんかイライラしちゃってね~」
俺が口を開く前に、彼女はテヘッとバツの悪そうな笑みを浮かべた。
「うちのお父さんね、他の国への食糧輸出のお仕事やってるんだけど、今年は不作が続いてて今はうまくいってないんだ~。だからワタシも家にお金入れてるの。ニッカの靴の話もさ、自分で買ったってのは分かったけど、ワタシにはそのお金もないんだよ~って思ったら、なんか、素直に謝れなくなっちゃった」
「……そっか」
ナウリも無闇に茶化したってワケじゃないんだよな。
「でもニッカ、絶対気にしてると思うぞ」
ああ見えて、とっても気にしいだからな。
「うん、分かってる。でも、なんか、うん、ちょっとだけこのままにしておいて。そのうち何とかするからね~」
そう言って去っていくナウリ。そのまま、子どもの頃を思い出し、石で水切りチャレンジして遊んでいると、「タクト」とオーミがやってきた。
「何してるの? 剣士やめてそれを新しい
「お前にはこれが何に見えてるんだ」
水切りで食べていけないっての。
「ふう」
俺が座ったのに合わせて、彼女も近くの平石にちょこんと腰掛けた。
「……このままで良いとは思ってないけど、きっかけが大事よね」
呟くように彼女が声を漏らす。面倒くさそうに苦笑いしているけど、そのトーンには心配や苦悩が混じっていて、心の中の不安を映し出していた。
「うまく収まるといいな……」
「ん…………」
会話はそこで途切れ、あとは時折やってくる鳥が水面をバシャッと叩くのを見ていた。早く元に戻ってほしいという思いを強めながら、しばしの沈黙を過ごす。
「ニッカも、ナウリの家の事情はなんとなく知ってるはずだからね。嫉妬で出た言葉だって分かるはずなんだよ。でも、事情知ってて靴の話出したニッカも良くないと思うし、どっちを責めるのも違うわよね」
「ん、そうかも、なっ!」
言いながら右手に持っていた最後の石を投げ、綺麗に3回水面を跳ねさせてから一緒に平原へ戻った。
休憩も終わり、沈んだ空気の中で歩き始めてすぐ。目の前にザザッと滑り込んでくる大きな影が一つ。
「グガアアアア!」
「うおっ! クワガタ……じゃない」
「クワガタ? ブラックギロチンね」
名前を教えてくれるオーミ。体格は俺達と同じくらい。茶色でハサミを持っている、どこまでもクワガタのような六本足の二足歩行。
「よし、俺の出番だな!」
剣を抜いて、中段に構えてみる。へっへっへ、別に転生したからって体力も能力もスキルも変わってないのが残念だけど、こう見えても小学校2年生から3年生まで剣道の道場行ってたんだぜ。夜テレビ見たくなって辞めた。
「うおおおおおっ!」
叫んで牽制しつつ向かっていき、我ながら絶妙のタイミングで真正面に振り下ろす。
が、ガキンッと敵のハサミに白刃取りされ、やむなくもう一度間合いを取った。
「オーミ、なんか俺、ちゃんと戦えてるよな!」
「ええ、なんだかまるで剣士みたい」
「剣士だよ!」
素直に褒められないのかお前は!
「グガアアアアア!」
急に叫んだブラックギロチンが、ニッカの方に首を曲げ、ビュウッと何かを吐き出した。
「
「ニッカ!」
その場に崩れ落ちるニッカ。酸の強い消化液のようなものだろうか。かかった右腕の皮膚が赤く変色している。
「ニッカ、大丈夫!」
「……うん、大丈夫だよ、オーミちゃん。すぐに処置すれば傷痕も残らないはず。ナウリちゃん、回復お願いできる!」
「あ、うん、分かった!」
ナウリはすぐに駆け寄り、右手を翳して、呪文らしき言葉を詠唱する。やがて、右手につけた水晶のブレスレットが柔らかく光り、その光が腕を照らして、元通りになった。
うん、さすがパーティ―。ケンカしてても戦いのときは協力し合うんだな。
「ワタシ、このまま攻撃するよ」
続けざまに攻撃しようと、掌を相手に向けるナウリ。しかし、その動きに気付いた敵が、素早く六足歩行に戻り、ガサガサと猛スピードで突進してきた。
「きゃあっ!」
ぶつかる直前で倒れ込むように避けるナウリ。
「ナウリ! この……っ、喰らえ!」
横にいたオーミがグッと屈んでから跳び蹴りをかます。頭上を狙ったその一撃は、見事にハサミを捉え、ボキリと折った。
「最後、狙うよ!」
リュックから取り出した弓を構えたニッカが素早く矢を放ち、ブラックギロチンの胸を貫通する。「グガアアアア!」と悲鳴とも咆哮ともつかない声をあげ、敵はその場に倒れた。
「よしっ!」
全員で協力して敵を倒した! さあ、ここからまた、友情のスタートだ!
「…………………………」
なんで! ほら、喋ろうよ! さあさあ、まずは好きな食べ物の話とか! 好きな男子の話とか! 俺の名前出してもいいからさ!
「……………………」
「……………………………………」
カラッと晴れた気候に、ピリッと重い空気が流れる。こんなん呼吸困難になるぞ。あ、なんかシャレになってた! 披露したらウケて仲直りしてくれるかなあ! 絶対しないと思う。
それにしても、男子校ではどうやって仲直りしてたかな……「ゲーセン行こうぜ」って誘って、その帰りには普通にバカ話してた気がする。ううん、すごく楽なノリだ。
……いいや、こういうときこそノリが大事なんじゃないか!
「よし! みんなでさ、このクエスト終わったらやりたいこと考えようぜ! 討伐クエストは報奨金も高いし! あ、宿屋で聞いたんだけどさ、闘犬のイベントやってる村とかあるんだろ? 行ってみないか?」
ハイに早口でまくし立てたその提案に、3人の視線が集まる。お、これはいい感じなんじゃないか。やっぱり楽しいこと考えると元気になるもんな。
「タクトさん、気楽でいいね~」
憐憫めいた笑みを浮かべるナウリ。やめろ、優しい目をするな。
「私もタクト君みたいに生きられればなあと思うよ」
ああ、ニッカまで影のある微笑を!
「アナタ、修行の一環として闘犬で戦ってくるといいんじゃない? 噛み殺されないようにね」
「お前だけ反応が違うな!」
分かった、オーミの髪の紫は毒の色なんだ!
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