3.これが女子の生きる道
「ん、え、オーミ?」
「何?」
水彩絵の具みたいな青い髪を風に
「あの……こんなこと聞いたらアレだけど……みんな仲悪いの?」
「え? ナウリと? そんなことないわよ、ねえオーミちゃん?」
オーミに目線を向けると、彼女も「そうね」と頷いた。
「私もよく遊んでるわ。ニッカもご飯とか行ってるよね?」
「うん、この前も行ったわ」
そう、なの……さっきのあの感じで……?
「どうしたの、タクト君。何か気になる?」
ニッカに下から顔を覗き込まれる。水色のボタンシャツから胸元が見えそうになって、慌てて目を逸らした。
「なんというか、気になってることあれば直接言えばいいのに、と思って」
その言葉に、ハーレム構成要員候補であるはずの2人は火を目にした鹿のようにザザッと2歩下がった。そしてオーミが芝居がかった動きで首を振る。
「タクト、あなた、どんな風に女子と触れ合ってきたのよ……それともあなたの世界では女子とか女子グループって概念がないの……?」
「ないというか、12歳から5年間女子のいない学校にいたから……」
オーミがさらに大きく首を振る。あの、それ以上やったら首取れますよ。
「あのね……女子にとって大事なこの時期を知らずに生きてるなんて、人生の半分は無能だわ」
「急に罵倒!」
半分損してるとかじゃなくて無能扱い!
「真正面からそんなこと言えないのよ、女子は。男子は楽よ? 直球で言いたいこと言えばいいんだから」
「いや、そこまでストレートに言えないこともあるけど——」
「いざこざがあっても、夕暮れに河原で刺し違えればいいんだから」
「なぜ双方共倒れなんだ」
殴り合いくらいにしてくれませんかね。
「女子はもっとデリケートなんだよね」
ニッカが腕組みをしながら右手人差し指をピンと立てた。
「言えば解決するかもしれないけど、言ったときに多少のカドは立つでしょ。そのあたりも心配するんだ。
「……なんか大変なんだな」
女子グループが大変、みたいな話はなんとなく聞いたことあったけど、如何せんクラスに女子がいないから実態なんて全く知らなかった。そっか、ホントに男子とは文化が違うんだな。
「ごめんね~」
話がひと段落したところで、水筒を小脇に抱えてナウリが駆けてきた。白いワンピースも金髪も巨乳も、全部弾むように揺れてる。うん、目の保養。
「汲んでる途中で水筒落としちゃって、時間かかっちゃったよ」
「えっ、大丈夫だった?」
「ふふっ、ナウリは相変わらずね。学校の演習クエストでも似たようなことあったでしょ?」
「そうなの、あのときはバッグ落としちゃって~」
すごい……またキャッキャウフフに戻ってる……。
「じゃあタクト君、先に進もっか」
「あ、ああ……」
ニッカに促され、ナウリ達の談笑を聞きながら歩き始める。なんだろう、さっきまで見てたグループと違って見えます。
「よしっ、ここで一旦休もっか」
しばらく経った登り道の途中、二手に分かれた道の片方を進み、拓けた平地に出る。風で落ちた緑葉の絨毯に加えて、座れそうな切り株も幾つかあり、休憩にはピッタリの場所だった。
「なあ、オーミ、ちょっといいか?」
「どうしたのよ、タクト」
ナウリの持ってきたパンを分け合ってパクつくメンバーから、少し離れた場所へ。
「あのさ、コンダクターなら正直に答えてくれるだろうと思って聞くんだけど、3人とも本当に仲良いんだよな?」
一瞬キョトンとした後、質問の意図を理解したらしく、薄紫の髪をサッと首の方に払いながら「別にアナタに隠し事なんてしてないわ」と口元をニッと緩ませる。
「仲悪くないわよ、ホントに」
「いや、でもさ……」
食い下がると、彼女はクリーム色のシャツの袖をヒラヒラさせて手招きする。
「なんだ——」
近づいてきた俺の胸に向けて、軽く腰を落とし、拳を脇の下まで引いてから一気に突いた。
「せいっ!」
「ぐえっ!」
胸が! 胸に恋とは違う痛みが!
「え、何! 何なの!」
「正拳突きって呼ばれてるものよ。今回は中段に——」
「技の話じゃねえよ!」
繰り出した理由だよ!
「変に食い下がるからツッコミよ。スキンシップ」
「下手したらスキン湿布なんだけど」
ツッコミで本当に突くなよ。
「あのね、タクトはずっと男子にだけ囲まれてたから分からないだろうけど、女子の仲良しは男子の仲良しとちょっと違うの」
「違う……のか?」
そうよっ、とリズムをつけるように、彼女は近くの小枝を蹴る。薄オレンジのスカートが揺れて、陽射しをゆらりと反射した。
「確かにちょっとトゲトゲした部分もあるけど、仲良しは仲良しなの。ううん、もうちょっと言うと『仲良しグループを維持すること』が何より大事なの」
「維持すること?」
「そうよ!」
「おわっ!」
急にずいと顔を近づける。そ、そんなに、可愛い笑顔をそんなに近づけないで……と思ったら、あれ? 意外と真顔だぞ?
「いい、タクト。私達は13歳でクエストの学校に入って、16歳から基本的には同じクラスのメンバー同士でクエストを生業にするの。1クラス40人、つまり女子40人の人間関係がずっと続くの。この怖さが分かる?」
「いや、正直よく分からないんだけど……」
「分かりなさい」
カッと目を見開くオーミ。こんなコンダクター嫌だわ。
「え、あ、うん、分かりました……」
「あのね、そんな簡単に分かるわけないでしょ」
お前どういう情緒なんだよ。
「とにかく、同じ女子達とずっと一緒にいる以上、途中で何かあって嫌われたり仲間外れにされたらクエストもやりづらくなるのよ」
「そうか、そんなにやりづらいのか……」
「だから、このグループの活動は大事なの。もしここでグループがバラバラになったら、他の女子達にも、あの人と組むと面倒っていう噂が回るわ」
「いや、それは考えすぎ——」
「正拳突きする?」
「考えすぎじゃないと思います」
暴力で意見
「ね? だから、グループとして健全に活動するためにも、思ったことをズバズバ本人に言わない方がいいのよ」
小さく首を振るオーミ。気苦労は理解しつつも、そこまでグループを維持することを考えて立ち振る舞っている彼女が、年下なのに随分オトナに見えたりして、胸が少し熱くなる。
「そっか、俺がうまくやっていくのも大変そうだ。ハーレム計画が……」
そこまで口走ってしまって、「げっ!」と口を塞ぐ。が、時すでに遅し。
「ハーレム? 私達がタクトに?」
そりゃ聞かれてますよねー! ええいっ、ここまでバレちゃ仕方ない!
「まあ、俺はこっちの世界でモテてやるって決めたからな! ナウリもニッカも可愛いし、オーミもめちゃくちゃ綺麗だしな」
「あら、ありがと」
見開いていた目をフッと細め、顔を綻ばせる。くっ、その笑顔は犯罪的な破壊力だ。
え、というか待って、俺、今、流れとはいえ告白めいたことしちゃってない?
え、ちょ、ちょちょちょっと待って、告白! どわああああ! 恥ずかしい! なんかすっごく恥ずかしい!
「随分と1人で盛り上がってるわね」
ジッと俺を見ていたオーミはやがて、イタズラを思い付いた子どものようにクスクスと楽しげな声を漏らす。
「タクト、モテるのを目指すのは自由よ。でも、ハーレムはちょっと難しいかもね」
「え、なんで……」
「私達にとっては、タクトに尽くすより、このグループの人間関係の方が大事だから」
そう言って「戻りましょ」と駆けだす彼女の微笑は、何故だか冗談を言っているようには見えなかった。
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