2.ハイレムでハーレム、だったはずなのに

 転生者がちょこちょこ来るのか、そこからの手続きはほぼマニュアル化されていた。


 こっちの世界の服一式を買い揃えた後、パーティー登録所で職業を選択。


 転生のときにかけられた魔法は言語変換のみらしく、体力も筋力もそのままで特殊能力も身に付けてなかったけど、「本当に敵そんなに強くないわよ」と言われて剣士を選んだ。だって剣振り回したいじゃん。俺の血塗られたやいばが今宵も獲物を求めたいじゃん。


 そして、初心者剣士に無料支給される剣をもらった後、その場でパーティーを決める。高速料金所のような小さな小屋で、ソバージュのおばさんが紙のリストをパラパラ捲る。今パーティーに属していない女子をチェックしているのだろう。


「アンタとオーミ、それから女子2人の計4人でいいね? あと、しばらくしたらメンバー変更になる可能性もあるからね」

「男1の女3ですね、分かりました!」


 入れ替えがあるとすると永続的なハーレムは無理だな、などと考えながら、屋外に設置された待合ベンチにオーミと座って2人を待つ。楽しみすぎて、足をパタパタ動かす。ああ、すごいことだ。女子と一緒にいながら、他の女子を待つ日が訪れるなんて。



 程なくして、「お待たせ~」と白いワンピースの女子がやってきた。


 オーミよりやや背の高い、金髪カールロング。たれ目の可愛い顔立ちでにへへと笑う彼女の右手首には、如何にも特殊な力のありそうな水晶のブレスレットがつけられている。



「こんにちは~、魔法使いのナウリです」

「あ、タクトです、よろしくお願いします!」


 敬語は要らないからね~、というおっとりした声に癒されつつ、ワンピースの生地をぐいっと伸ばすグラビアのような巨乳に目が釘付けになる。何これ、胸って妄想するものじゃなくて鑑賞するものだったの。


「オーちゃんも久しぶり~」

「久しぶりね、ナウリ」

「へ、知り合い?」


 互いの胸の高さでぱんっと手を合わせた2人に首を傾げていると、オーミが「同級生よ」と説明してくれる。


「大体の女子はそれぞれの村にあるクエスト専門の学校に行くのよ。この辺りは人口も少ないから、同い年の女子はほぼ同じ学校ってわけ」

「クラスも女子40人の1クラスしかないからね~。普通の授業は一緒に受けて、クエスト関連の専門課程だけ魔法使いや剣士ごとに授業が違うの」


「そっか。そういやオーミの職業は何なんだ?」

「私? 格闘家よ」

「格闘家!」


 全然イメージなかった! でもちょっとこんな美少女に殴られてみたい……かも……?



「あと1人、そろそろ来るはずだけど……」


 往来に出て左右をキョロキョロ見るオーミ。やがて、「来たわ」と目線の先に手を振った。


「こんにちは! 君がタクトね」


 青い髪のベリーショート、水色のボタンシャツに白いショートパンツ。しっかりと鼻筋が通っていてキリッとした眉の彼女は、全体的にどこか中性的な印象。後輩女子にモテるタイプの女子だな。


「私はニッカ、仕事はロードガイドだよ」

「ロードガイド?」


 聞き返すと、彼女は「道案内ってことよ」と笑って左手で前髪を払う。


「クエストでは色んな場所に行くからね。このあたりの地理なら任せておいて」

 そんな職業もあるんだなあと感心していると、女子3人は「久しぶりねっ!」「卒業以来じゃない? 半年ぶり?」とキャピキャピしている。


「ホントにみんな同じ学年なんだな」


 ニッカが「そうだよ」と満面の笑みを見せた。


「みんな同い年、今年で16歳!」

「16歳!」


 1つ下! ほぼ女子高生! 年下女子高生とハーレム!



「よし、じゃあ4人揃ったし、早速クエストやってみようぜ!」

「うんっ!」



 ハーレムの主 剣士 タクト(脱男子校)

 ハーレム構成要員① 格闘家 オーミ(一番好み)

 ハーレム構成要員② 魔法使い ナウリ(巨乳)

 ハーレム構成要員③ ロードガイド ニッカ(カッコ可愛い)


 最高なメンバーで遂に始まる! 俺の夢が成就するんだ!



 ***



「まずは鉱石の採集か」

「一番簡単なタイプのクエストだからね」


 オーミと並んで歩きながら、ハイキングのように山を登っていく。


 全員揃ったところで今度はクエスト受付所に行き、クエストを選んだ。太った丸眼鏡のおばさんから「初心者にはこれがオススメだよ」と勧められた、ミスサイトという鉱石の採集。


 お目当ての石は、この山の中腹にあるらしい。ニッカはリュック、それ以外の3人は手持ちカバンや肩掛けカバンに荷物を入れ、なだらかな斜面を軽快に進んでいく。



「ねえ、終わってからご飯何食べよっか?」

「下山するときは、きっとお昼結構過ぎちゃってるもんね」

「ねえ、知ってる? さっきの待合所の近くに結構良いカフェ出来たんだって!」


 ああ、いいなあ。キャッキャウフフな女子の会話。早く剣士として良いところ見せて惚れてもらわないと!


「……っっ!」


 決意を新たにしていると、ロードガイドとして先頭を歩いていたニッカが左足をバッと持ち上げる。植物のトゲにやられたのか、白のショートパンツの下、ふくらはぎから血がツツ……と垂れていた。


「わっ、大丈夫、ニッカ」

「ありがと、オーミちゃん。ちょっと切っちゃったみたい」


 全員で彼女を囲み、足の具合を見る。


「ナウリ、回復魔法、使える?」

「あ、うん、分かった~」


 水晶のブレスレットをつけた右手を足にかざして、意味の取れない言葉を呟く魔法使いのナウリ。


 やがて、ポウッと蛍のような柔らかな光がニッカの足を包み、血がスッと止まった後、傷口も塞がった。


「ナウリちゃん、ありがと!」

「おお、本当に魔法だ! ナウリ、すごいな!」


 興奮して彼女を見ると、「えへへ」と照れて金髪の前髪を触る。


「ありがと、タクト君。あ、みんな、ついでにちょっと待ってて。水筒空っぽだったから、さっきの湧き水汲んでくる~」


 そのままタタタッと走っていく彼女。


 いやあ、こんな抜群にファンタジーな世界で、年下の仲良し女子3人組のハーレムを目指せるなんて、俺は最高に幸——



「ナウリ、こっちが言うまで魔法使わないこと多いじゃん? ああいう気遣い足りない感じ、ちょっとイラっとするよね」


 鼻で溜息をつくニッカに、オーミが頷く。


「悪い子じゃないんだけどね。天然っぽければ何でも許されるかっていうとそうじゃないし」

「学校いたときからそんな感じあったもんね」


「…………へ?」



 脳内に作っていた「仲良し女子3人組」というロゴに、軽くヒビが入った。

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