転生したからハーレム目指すけど、男子校だから女子グループが全然分からない

六畳のえる

1章 女の子って何でできてる? グループと内紛、それから調和 そういうものでできてるの

Quest1:鉱石ミスサイト採取

1.ハイレムでハーレム

「ナウリ、こっちが言うまで魔法使わないこと多いじゃん? ああいう気遣い足りない感じ、ちょっとイラっとするよね」

「悪い子じゃないんだけどね。天然っぽければ何でも許されるかっていうとそうじゃないし」

「学校いたときからそんな感じあったもんね」



 これはなんだ? 転生して、ハーレムを目指したはずなのに、パーティーが早くも不穏な雰囲気になっている。



 やばい、女子グループ全然分からない。男子校の俺には難しい!!



 俺の記憶は、数時間前まで遡っていく……。



 ***



「残念ながらアナタは一度死んだわ。強い念があったみたいで魂が残った結果、ここに転生したの」

「………………っし! うっし! よっし!」


 3秒考えて、8秒ガッツポーズ。


 色々心残りがないわけじゃないけど、まあ死んだものは仕方ない。


 そんなことより遂に! 17歳にして俺も遂に! 二次元でおなじみのウッキウキ転生ライフにいざなわれたんだな!


「ってことはあれだね! ここは異世界だね!」


 答えの予想がついているうえで、目の前にいる、薄紫のミディアムヘアの綺麗な女の子に訊いてみる。


「まあ、そうね。アナタのいた世界とは異なるから、言うなれば異世界ね」

「でしょうね!」

 もうその髪の色と景色で予想ついてたけどね!



 気付いたら立っていた、下の一帯を見渡せる高台。深緑の森、濁りのない川、大きな実が風に揺れる果樹園。ほぼ赤と茶色で構成されている集落には、木やレンガで建てられた家々。


 どこをどう見ても、俺が生きていた場所より文明が進んでいない、ファンタジーめいた世界。



「なんか随分嬉しそうね」

「そ、そうか? まあな」


 テンションの高い俺を、彼女は不思議そうに見る。ううん、まじまじ見ると本当に好みのタイプだ。


 ぱっちりとした目はやや切れ長で、薄墨色の瞳も相俟あいまってクールな印象も持たせる。小さめの口に鮮やかなピンクの唇はどこかあでやかですらあった。


 クリーム色の襟のないシャツに、淡いオレンジのスカート。肩につくかつかないかの薄紫の髪はくるんとカールしててオシャレ。身長は160くらいだろうか。胸やお尻は出てないけど、スラッとした脚がとても色っぽい。



「アナタ、名前は? 記憶はある?」

「ああ、覚えてるぜ。遊馬あすま拓人たくと、17歳だ」

「タクトね、よろしく。私はオーミよ」


 元気いっぱいでもなくおとなしめでもないナチュラルなトーンで、彼女はフッと笑って手を伸ばしてきた。


 こ、これは……あれですか! 握手ですか! 女子の手を触るとか何年ぶりだろう。っていうか普通に話してたけど、これって俺にとって相当貴重な体験だよな……っ!


「オーミか。よ、よろしくな」


 女の子の手。ふにふにと柔らかい。いつも一緒に騒いでるゴツい手の男子と同じ生き物とは思えない。


「それにしても、前世の記憶、しっかり覚えてるもんなんだな」


「今まで転生してきた人もそう言ってたなあ。でも事故で死んだりした場合、その痛みとかは覚えてないって聞くわ。刺激が大きすぎるから記憶から削除しちゃうみたい」

「ああ、確かに痛かったこととか忘れてるな」

 事故の光景はしっかり覚えてるけど。


「向こうの世界で死んじゃったのは残念ね。後悔もたくさんあると思うけど——」

「いや、大丈夫だ! 後悔はむしろ向こうで散っ々してきた!」


 ギュッと目を瞑って「さんっ……ざん!」と再び強調した俺に、オーミはやや後ろ体重に退いた。


 本当に、後悔の多い生涯を送ってきました……。




 17歳、進学校の2年生。とはいえ、人並みの青春かと言われるとちょっと怪しい。


 なにせ俺は、。多感な思春期である12歳からこの年まで、女性といえば英語の加藤先生(40歳・既婚)と家庭科の山森先生(47歳・独身)しかいないという状況で過ごしてきた。


 嗚呼、小学生の俺よ、なぜ「男だけの方が楽しそう」なんて笑って親の受験案内に承諾の意思表明をしたんだ。そこは汗と猥談が飛び交い、文化祭のパンフレットにはどの出し物にも女子を勧誘するために「イケメンが……」という文言が出てきてイケメンの平均値が暴落する魔の巣窟だぞ。


 そしてその生活に限界が見え始めた男子オンリー5年目の夏。歩いて下校中に女子高生の集団に見蕩れ、女子オーラだけでも浴びようとフラフラと近づいたところ別の女子高生の並走自転車3台に同時に轢かれて頭を打って死亡した。女子に囲まれた最期だった。



 オーミは言っていた。強い念が残っていたから魂が残った、と。俺はその念の正体を知っている。


 モテたい。はちきれるほど、じ切れるほど、モテたい。モテモテなんかじゃ全然足りない、モテモテモテモテモテになりたい。


 女子と話せるだけでいい、触れられるだけでいい、なんて男子校内で飛び交う自虐はゴミ箱に捨てる。モテたいさ、そりゃそうでしょ! 俺だって別に顔もパッとしないし、身長だって170半ばで飛びぬけて高いわけじゃないし、頭もスポーツもそこそこな普通の男子だよ。共学行ったってモテなかったかもしれないよ。でも、モテたかもしれない。中学3年間、そして高校2年間、おれはそのモテの機会損失をしてきた。これが後悔でなくてなんだ、悲劇でなくてなんだ!


 でもきっかけはどうであれ、俺は新しい世界にいる。あの生活とはおさらばだ。


 俺はここで! 全身全霊で! モテる!




「オーミ、ここは何ていう国なんだ?」

「ハイレム。ハイレム王国よ」


「王国! いいねえ、その響きが良い!」

「タクト、面白いわね」


 丸く握った手を口に当てて顔を綻ばせる。ああ、笑った顔も可愛いなあ。


「でさ、でさ、こんな世界ってことはひょっとして、モンスターとかも出るのか」

 その問いに彼女は目を丸くした。


「すごい、よく分かったわね」

 なんとなくそんな感じがしてさ、と返すと、オーミは広がる大自然を眼下に見た。


「といっても、そんなに強いモンスターじゃないけどね。命の危機になるようなことはあんまりないわ。私達も、クエストって呼ばれてる請負型の仕事で草木や鉱石の採取に行くことがあるんだけど、その途中で戦ったりするの。あとはそのつのや翼を目当てにしたモンスター討伐のクエストもあるわね」

「……最高じゃん!」


 そんなに強くないモンスター、ベストじゃん! 異世界だからって痛いのは嫌だ。


 しかもクエストとな。これあれじゃん。完全に剣と魔法の世界じゃん。


「……ん? 今オーミ、私達って言ったよね? ってことはオーミもクエストやるの?」


「うん。クエストは基本女子の仕事だからね。男子は漁業とか商店、大工みたいな家業をやって、女子と転生者はクエストをやるのよ」

「なるほどね、女子と転生者……転生者!」

 思わず声がひっくり返る。


「何! ってことは何、俺もクエスト参加できるの! 女子と!」

「ええ。転生者は家業がないから、クエストに参加しないとお金稼げないからね。組む相手が女子しかいないから、色々やりづらいかもだけど——」


「全然そんなことない! やろう、オーミ! クエストやろう!」


 ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、これ女子と仲良くなるどころじゃなくない? ひょっとしてあの、いつもアニメやラノベでお世話になってるハーレム、ハーレムできるんじゃない? ハイレムって国名もちょっと似てるし! ハイレムでハーレム! ハーレム・イン・ハイレム!


「もちろん、クエスト参加をお願いするつもりよ。そのためにコンダクターの私が来たんだから」

「コンダクター?」


「この世界の案内人よ。定期的に転生者が来るから、女子数人で担当してるの。これからタクトをパーティー登録所とクエスト受付所に連れていくわ」

「お願いします!」


 来た! 男子の海に埋もれていた俺にも遂に春が来た!


 どうせあのまま生きて大学に行っても、もっと女子慣れした共学男子達に女子を全てさらわれたに違いない。昨日までだって、「進学校のヤツはいいよなー」と愚痴メッセージを送ってくる小学校の男友達(共学・ブレザー可愛い・死すべし)がどれだけ羨ましかったか。


 でもここなら大丈夫! ほぼ女子だけの生活で、ハーレムタクトワールドを作るのだ!


 何度でも言ってやる。俺は! ここで! モテる!

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