第37話思い出の品

 無理やり手を引っ張られた私は、足を止めて抵抗する。

「ちょっと待って。私まだ着替えてないし。それに多分、記憶を戻すなんて無理だよ……」

 後ろ向きな発言をすると、目の前の彼女は私のネガティブな発言を無視して。

「あ、着替えてなかったね。忘れてた〜」

 そんな呑気なことを微笑みながら言ってきた。

「それじゃあずさは待ってるから、すぐ着替えてきてよ!」

 グイグイと催促するようにして家の中に押し込まれると、パタンと玄関のドアが閉まる。どうやら拒否権はないらしい。なんで私が……。そう思いつつも、自室のクローゼットからそれなりに良さげな私服を見繕うと、私は梓の前に姿を現すと。

「わぁー!」

 なぜか梓は感動したような声で私のワンピースを見ている。

「ど、どこか変かな?」

 梓の視線が気になり、青のワンピースをひらひらさせながら自分の腰らへんに目を向ける。そんな私の様子を見た梓は、ううん! と首を横に振って、どうして感嘆の声あげたのか説明し始めた。

「そのワンピさ。あずさが仁美の誕生日プレゼントに送ったやつなんだよ。記憶がなくなってもその服を選んでくれるって、本当に仁美はあずさのことが好きだね」

 ふふふっと微笑を浮かべる彼女。そう言われれば、確かにこの服には何か特別な思い入れがあったような気がしなくもなくもない。どうだっけ? やっぱり思い出せない。うーんと自分の服を見つめていると、梓は私の腕に突然抱きついてきた。

「それじゃあ早速行こっか。まずは近場のデパート!」

 テンション高めで声高らかに目的地を宣言する梓。私はそんな彼女に流されるまま、近くのデパートに歩いて行った。

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