第28話お願い
私はスッと家の扉の方に顔を向けると、峻輝の顔を見ずにお願いする。
「とにかくさ、由貴ちゃんと香澄さんを仲直りさせるためには、もう一度あの二人を引き合わせる必要があるから。だから峻輝も手伝ってよ」
ゴーゴーと強い風に当てられガシャガシャと喚く窓ガラスを見ながら、峻輝は不安そうに聞いてくる。
「手伝うのはもちろん構わないけど、もう一度二人を引き合わせたところで昨日と同じことが繰り返されるだけなんじゃないかな?」
峻輝も不安はもっともだ。でも私だって無策じゃない。まあ大したことはできないけど。
「昨日の良くなかった点は、由貴ちゃんに何も伝えなかったこと。そりゃ、いきなり大好きなお母さんが現れたら、戸惑っちゃうもんね」
私がハハッと笑いながらそう言うと、峻輝は「大好き?」と小声で復唱するように言った。
「由貴ちゃんは香澄さんのことが嫌いなんじゃないの?」
何を言っているんだと言いたげな視線を後ろから感じる私は、峻輝の疑問に答えてあげる。
「昨日さ、由貴ちゃんに『君は、その顔の人のこと、どう思ってるの?』て聞いたら、由貴ちゃんは”嫌い”って言ったじゃん。
でも、その後すごく不機嫌になって私たちを追い出した」
「つまり?」
「つまりさ、ムカついたんだよ。大好きな人を嫌いって言った自分に対して。それと、言わせた私たちに対して」
言うと、峻輝はあぁと納得した声を出す。それからは特に追求してくることなくどうすればいいか聞いてくるので、私は一つだけお願いをする。
「香澄さんを、由貴ちゃんの部屋に連れてきてよ」
「それだけ?」
「うん、それだけ。由貴ちゃんの方はさ、私がなんとかしとくから。だからお願い」
私は峻輝の方に顔を向け、優しくお願いする。そんな私のお願いに、当然峻輝は前向きな返事をくれるので、私は直ぐに由貴ちゃんの部屋へと歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます