第26話

「それで? 結局峻輝はどうなの?」

 どうなのかと問うと、峻輝はぽりぽりと首筋を人差し指で掻きながら苦笑いで答える。

「どうって聞かれてもなぁ……。そもそも七瀬さんみたいに、恋をしたことがないって人の方が珍しいと思うけど」

 質問の回答としては50点ぐらいの返答だが、つまり峻輝は恋をしたことがあるってことか……。まあ当り前か。健全な学生は普通そうだ。普通そうなのに、何故だか無性に腹立たしい。私は嫉妬してるのかな? どこの誰かもわからない誰かに対して。

 それとも峻輝が恋をしていたことに対して、腹を立てているのかも。普通の学生ならと言ったが、峻輝はそんな有象無象の学生たちとは違うと、彼だけは特別だと勝手に思い込んでいたから。

 なんで自分でこんな質問しといてイライラしてんだろ……。バカみたい。やっぱり情緒が変だ。めんどくさい女だなと思いつつ、私は顔に出さないようにして質問を続ける。

「じゃあその、峻輝が好きになったのはどんな人?」

 どうなの? とか、どんな? とか、そんな抽象的な質問ばかりしているけど、峻輝は律儀に答えてくれる。んーと唸り声をあげ、ゆっくりとひねり出すようにして口に出す。

「えーとね、どんな人って聞かれると、変な人かな?」

「変な人?」

「うん。すごい変な人。陽気だったり暗かったり、お人好しだったり、何考えてるのかわかんなかったり」

 そう言っている峻輝は、どこか楽しそうだった。その表情を見て、私はまたもドス暗い嫌な嫌悪感を抱いてしまう。なんでそんな変な人がいいんだろう。峻輝も変だから、変人に惹かれるのかな? そんな失礼なことを思いながら、私はまたも自分の気持ちに不快感を抱くような質問をする。

「じゃあさ、もしここから出られたとしたら、その子に告白とかするの?」

 私が聞いてみると、彼はあからさまに赤面して。

「どうだろ……」

 とだけ答える。



























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る