第23話子供
そんな時だった。ぽわぁと何かが地面の上で光を放つ。なんだろうと思い、私はその光の方に近づいてみると、なんとそこには魂のようなものがふわふわと浮かんでおり、やがてそれは10歳ぐらいの女の子の形になった。
これはもしかして……。私は女の子を見ていると、その子はパッと目を開けて混乱したようにキョロキョロと周りを見渡し始めた。そして私に気がつくと、驚いたようにびくんと肩を震わせた。
「えっと……?」
状況が全く飲み込めず、何を話せばいいのかわからないようだ。これはあれだ。私が最初にこの世界に来た時と同じ反応だ。つまりこの子は、たった今この世界に来てしまったという事か……。
かわいそうに……。そう思うが、果たして本当にそうなのか? と自問する。だってこの世界は何にもないのだから。あっちの世界で嫌な思いを抱えながら生き続けるぐらいなら、この世界で他人の記憶を失ったまま生き続けた方が幸せなんじゃないのか? この世界に来てしまうことが幸か不幸かわからない。だってそれを判断するのは、私じゃないのだから……。じゃあ私はどうなんだろう? この世界に来て、あっちで過ごしてきた他人との記憶をなくして、果たして今の私は幸せなのかな?
目の前の少女のことを忘れ、一人でそんなことを考えていると、少女は弱々しい声で話しかけてきた。
「あの、すいません……」
少女に声をかけられ、はっと我に帰ると、少し間を空けてから。
「なに?」
無表情で返す。
「その、ここは……?」
状況がなに一つ理解できてない少女は、今のこの状況の説明を私に求めてくる。まあ当然か。私もそうしたしな。考えて、なんて説明しようかわからなくなる。だって、私だってこの世界のことをしっかりと理解できてるわけじゃないもん。
そもそもこんな非科学的なものを完璧に説明できる人間は存在しないと思う。この世界を作ったであろう由貴ちゃんだって、うまく理解できていない様子だったし。
となると、私は何て説明すればいいんだろう。考えて考えて、結局私は自分なりの解釈を彼女に伝えることにした。
「その、この世界は多分、夢の世界だと思う……」
「夢? 夢って、いつも私たちが寝てる時に見るやつですか?」
「ううん、ちょっと違う。でもすごく似てる」
説明するが、少女は要領を得ていない様子だ。まあそうだろう。だから私は続けて補足する。
「この世界はね、何にもない世界だよ」
「何にもない?」
「うん。嫌なことも良いことも、何にもない。君ってさ、あっちの、現実世界で何か嫌なこととかなかった?」
質問された少女は驚いた顔を作った後に、苦虫を嚙みつぶしたような表情で答える。
「はい。ずっと仲の良かった親友と喧嘩しちゃって。それからもう半年ぐらい口を聞いてないです……」
やっぱりそうなのか。こんな些細なことのように思えることでも、この世界に来てしまうのか。そんなことを考えていると、少女は不思議そうにしてこちらを見て質問してきた。
「その……なんで私がそういう、”嫌なことがあった”って分かったんですか?」
「それは、そういう”嫌なことがあった”人たちがこの世界に来ちゃうからだよ」
説明すると、少女は納得したようで「なるほど」と呟いた。
「それじゃあその、こんな世界でお姉さんはなにをしてるんですか?」
少女のその何気無い質問に、私の心臓は高鳴る。ここに来てからなにをしていたか……。最初はこの世界がなんなのかを探るために、峻輝と共にこの世界を探索してた。けれど今は、なにもしていない。そしてそれは、今後一生そうなのだろう。ここに居続ける限りは……。
そう思った瞬間、体の芯からゾッと悪寒が走った。一生このまま? なにもしないまま? 顔が見る見るうちに青ざめていくのを実感する。
私の様子がおかしいことに気づいた少女は、「大丈夫ですか?」と心配する声をかけてきてくれる。だから私は一度大きく深呼吸をして、心を落ち着かせ。
「大丈夫。心配かけてごめん……」と言ってから。
「ねえ、君はその喧嘩した子とどうなりたい?」
間髪容れずに質問する。聞かれて、少女はなんとも複雑そうな顔を浮かべて。
「仲直り、したいです……」
素直に答えてくれる。その回答を聞いて、私は自分の中の考えを今一度改める。きっと私が動かなかったら、一生このままだ。香澄さんも由貴ちゃんも峻輝も、誰も動かないだろうし。一生ここで、なにもせずに生き続けていくことになる。
そんなのは絶対嫌だ。私はパンと両手で頬を叩くと、
「ごめん。少しの間だけここで待ってて」
そう言い残し、私は峻輝を探しに元来た道を引き返した。
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