第22話豹変
目を瞑りしばらく経つと、いきなり肌寒い空気が私の周りをまとわり出した。
やっぱり来たか……。目を瞑っていてもわかる。もう慣れたものだ。少しだけ、いつもより風が強いかな? 私はいつも通りのあの場所に来たことを実感しつつ、目を開ける。目を開けると、昨日の橋の上に座っており、私が目覚めたことに気がついた峻輝が声をかけてきた。
「あ、おはよう七瀬さん」
こんな世界なのに礼儀正しく挨拶をしてきてくれる峻輝に挨拶を返そうとするが、言葉が詰まる。いつもの私ならなんて返してたっけ? 元気よく変なふうに? それともテンションは普通で挨拶も普通な感じ? よく覚えてない。今までの過去を振り返ってみても、頭に靄が掛かっているような感じで、ハッキリと今までの自分の言動を思い出せない。
だから私は無難に挨拶を返す。
「おはよう……」
私が挨拶を返すと、峻輝は続けて香澄さんや由貴ちゃんのことを話しかけてくる。
「香澄さんたちのこと、どうする? もう一回香澄さんの元へ行って、話し合ってみる?」
峻輝に言われて、なんで今までの私はそんなお節介なことをしていたんだろうと思う。だって意味なくない? こんな世界で、誰かもわからない親子の亀裂を、なんで私たちが修復しなくちゃいけないの? 昨日までの私の考えがわからない。今の私はすごく薄情だ。いや、私が薄情じゃなくて、昨日までの私がお人好しすぎなだけなんじゃないの? おかしな気持ちだ。自分のことなのに、まるで理解できない。
私が黙って地面を見つめているのを不思議に思ったのか、峻輝はジィと私の顔を覗き込んできて「七瀬さん?」と名前を呼んでくる。
名前を呼ばれ、ハッと顔を上げると、私は峻輝の方へ顔を向ける。なんて話そう。
どうやって会話しよう。今まで通りの自分を頑張って演じる? それとも今の私のまま? ぐるぐると頭を回して考えると、あることを思い出す。私は本来の私、素の自分が嫌われるのが怖くて演じたんだ。自分を否定されたくなくて、好かれたくて、肯定されたくて、嫌な記憶を忘れたくて、人の皮を被った。
でもこの世界だったら偽る必要がない。だって、こんな世界で誰に何を言われようとも、どうだっていいんだから。誰からも好かれる必要はないし、否定してくる人間もいない。だから私は、何一つ偽ろうとせずに峻輝と話す。
「別にもう良くない? 香澄さんも由貴ちゃんも。あの二人の問題に、私たちが首を突っ込む必要なんてどこにもないじゃん」
バツリとそう言い切ると、峻輝は驚いた表情を作る。
「どうしたの七瀬さん? なんだか昨日までとは様子が違くない?」
様子が違うか……。峻輝は勘がいいな。私は無表情のまま立ち上がると。
「ごめん。昨日までの私はもういないんだ。色々と忘れちゃって……」
「忘れる?」
「うん。峻輝も他人の記憶をなくしたでしょ?」
「確かになくしたけど、でもだからと言って、なんで七瀬さんの性格が変わるの?」
「別になんだって良くない? 峻輝には関係ないことじゃん」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「でしょ。だからもう私には関わらなで欲しい。今まで色々振り回してごめんね」
峻輝にそう言い残すと、私は橋の上をテクテク歩いていき、適当な家の中へと入る。そして家の中に入ると二階に登り、ベッドの上で毛布に包まった。
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