第22話顔
「顔の子……?」
意味がわからずそう呟く。どういうこと? 顔の子って何? 香澄さんの言っていることを理解できない私に、香澄さんは淡々と説明し始める。
「まだこの世界に来たばかりの君たちは知らないかもしれないけど、この世界に来るとね、日を追うごとに記憶がなくなってくの。そして最後、自分の顔の記憶だけを残してここに閉じ込められる」
香澄さんの言っていることに戦慄する。だんだんと記憶がなくなっていく? それに閉じ込められるって何? 一体どうしてそんなことになるの? 頭がこんがらがってきて、訳がわからなくなる。でもそれ以上に気になったのは……。
「自分の顔って、どういう意味ですか?」
先ほどから香澄さんが言っている、自分の顔とは一体なんなんのか? 自分のことを指しているわけではないだろう。だから、”自分の顔”という言い回しが気になっ
た。香澄さんはジィと私と峻輝の顔を見つめると。
「君達はまだ知らないの? そこに洗面所があるから、一度自分たちの顔を見てきなよ。そうすれば私の言っていることがわかると思うから」
私たちの顔を指さされながらそう言われ、私と峻輝は椅子から立ちあがり、洗面所へ向かう。私たちの顔がなんだっていうんだ? その疑問は、鏡を見た瞬間解消された。
鏡に映った私の姿は、現実世界の私の顔と瓜二つの形をしていた。でも私の顔じゃない。長くて艶のある綺麗な髪の毛に、大きな瞳。透き通る肌。そして何より、左目の下にある涙ぼくろ。間違いない。これは、この顔は、私のお母さんの顔だ。
なんで今更? でも、久しぶりにその顔を見れたことが嬉しくて、やっぱり悲しさもあって、訳がわからなくなり感情がぐちゃぐちゃになって、思わずツーとか細い涙が流れ落ちた。それを一瞬で拭うと、鏡に映っている峻輝が焦ったようにペタペタと顔を触っていることに気がついた。
「峻輝の顔も、現実世界の自分の顔じゃないの?」
質問すると、峻輝は困惑した様子で。
「多分……」とだけ答えた。
多分?
「多分ってどういうこと?」
一目見たら普通、誰だかわかると思うけどなんでそんな曖昧な回答になるんだ? 不思議そうに鏡の中に映っている峻輝の顔を見ていると、峻輝は尚も顔を触りながら話し始める。
「この顔ってさ、多分僕の親友の顔なんだよね」
「それの何かおかしいの?」
「おかしいよ。だってさっきも話したけど、僕の親友は昔亡くなってるんだよ。なのにこの身体は、背も高いし顔も大人びてるし……」
言われて、確かにと気がつく。鏡に写っている私のお母さんの顔も、私が知っている姿より若い。それもだいぶ……。パッと見は高校生と変わらないぐらいだ。
「つまり、私たちの顔とか体は、現実世界の私たちの年齢に重なってるってこと?」
「多分そうだと思う。僕も現実では高校生だから、この体も高校生になってるし、七瀬さんもそうなの?」
「うん。この顔……お母さんなんだけど、私が知ってる姿よりもずっと若いんだ。今の私と同じぐらいに……」
「やっぱりそうなんだ。なんでだろう?」
聞かれるが、答えなんてわからないから。
「さぁ……」
曖昧に返す。
「とりあえず香澄さんのところに戻らない?」
このまま二人で話しても何も進展しないと思った私はそう提案する。峻輝も納得したようで、最後に一度だけちらりと鏡に視線を動かしてから、香澄さんの元へと戻った。
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