第22話斎藤香澄
「そうだね……。とりあえず、下の階に行かない? そこでお茶でも飲みながら話そうよ」
お姉さんは気を使ってくれる。ここで断る理由も特にないので、私たちはお姉さんの意見に同意すると、下の階に降りていく。下の階に着くと、お姉さんはヤカンに水を入れてお湯を沸かし始めた。
「紅茶でいい?」
聞かれて、私は。
「はい」と答える。
峻輝も同様に答えると、お姉さんは「オッケー」と軽く返してお湯が沸騰するのを待った。コンロに火をつけてから数分。ヤカンがピィィィィとうるさく鳴り響き、お湯が沸騰したことを合図する。その音を聞くと、コンロの火を止めて、お姉さんはティーポットにティーバックとお湯を入れた。それからティーカップに砂糖を適当に入れ、私たちが座っている机の前にそれを差し出してくれる。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べ、私はズズと一口紅茶を啜る。うん、美味しい! 飲み慣れた美味しい紅茶だ。こんな世界なのにちゃんと紅茶は美味しいんだなと、改めて変な感覚に陥る。長いこと歩いた疲れを回復すると、早速お姉さんに質問をしようとするが、お姉さんは私達より先に口を開き。
「その、私は斎藤香澄っていうんだけど、君たちの名前を聞いてもいいかな?」
名前を訪ねてきた。そういえば自己紹介がまだだった。早くこの世界のことや、あのお城のことを聞きたくて、色々と順序をすっ飛ばしてしまっていた。私はんん! と喉の調子を整えてから。
「私は七瀬仁美って言います」
そう自己紹介する。次いで峻輝も。
「八田峻輝です」
軽く自己の紹介を済ませる。私たちの名前を聞いた香澄さんは、うんうんと優しく頷くと、早速本題に移った。
「それじゃあまず、この世界がなんなのか聞きたいんだよね?」
そう聞いてきた香澄さんに、私は食い気味で教えを乞う。
「はい。この世界がなんなのか、どうやってできたのか。教えてください」
お願いされた香澄さんは黙りこみ、うーんと塾考する。
ぎゅっと拳を握り、ぐっと唾を飲み込み香澄さんの言葉の続きを待つが……。
「この世界がなんなのか、どうやってできたか。それは私もよくわからないんだ……。ごめん」
謝られた。まあ香澄さんが私達と同じ状況なら確かに知る由もないだろうし、別にここで香澄さんを責めるつもりは毛頭ない。仕方ないことだし、この世界がなんなのか知ったところで私たちに何かできるとは思えない。だったら他の質問をしよう。
「じゃあ他に質問いいですか?」
そう質問すると、香澄さんは俯いていた顔を上げる。
「別にいちいち聞かなくても、私に答えられることならなんでも聞いてよ」
ニコッと笑みを携えながらそう言われ、私は質問を考える。じゃあとりあえず。
「香澄さんは、その……現実世界で記憶がなくなったりしましたか? もしなくなったなら、元に戻す方法なんかも知りませんか?」
私たちの目的でもあることを質問する。質問された香澄さんは、少しだけ表情を顰めて答えてくれる。
「記憶はなくなったよ。今ではもう現実世界の人たちのことは、ある一人を除いて全員忘れちゃった」
「……え?」
香澄さんの言葉を聞いて驚愕する。現実世界の人たちの記憶を、ある一人を除いて忘れた? 何を言っているんだこの人は? 峻輝もそうだけど、どうしてそんなに記憶がなくなってるんだ? 私が戸惑っていると、峻輝は香澄さんの顔をチラッとだけ横目に見て。
「ある一人って、誰ですか?」
神妙な面持ちで質問する。香澄さんは最初っから少し暗い雰囲気を漂わせていたが、今の峻輝の質問を受けると露骨に沈んだ顔を作った。それから掠れそうな声で。
「私の……顔の子だよ」
顔を曇らせながら言った。
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