第15話嫌い……
由貴ちゃんはとことことレッドカーペットの上を駆けていき、中央にある階段下の扉の中へ入って行った。
なんだかすごい。階段下の部屋なんて、誰もが一度は憧れるものだ。
そんな感動を覚えつつも、私たちは由貴ちゃんに続くように階段下の部屋に入る。
入った先にあったものは、斜めの天井と綺麗で白い壁。後は大きなベッドに細々とした家具など。内装は天井が斜めなこと以外は普通だ。私たちが中に入り扉を閉めると、由貴ちゃんはポンと白いベッドに座り込む。そしてちょいちょいと私に向かって手招きをしてくる。
手招きをされた私は、由貴ちゃんが座っているベッドの上に腰掛ける。私が隣に座り込むと、由貴ちゃんはベッドの上に置いてあった絵本を手に取り、私に手渡してきた。
「はい。これ読んで」
そう言われ手渡され絵本を受け取ると、私は中身を確認する。ペラペラと絵の部分だけを見てみると、本当にこの世界とそっくりのものが絵本に描かれていた。この湖に囲まれたお城なんて、まんま絵本の中とおんなじだ。
と言うことは、この世界は本当に由貴ちゃんが言っていた通り、絵本の中の世界なのかな? いや、そんなわけなくない? でも実際、この絵本に書かれているものと全く同じものが目の前にあるし……。
何がなんなのか、どうなっているのか、本当に考えれば考えるほど訳がわからなくなる。この世界に来てからずっといろんなことを疑問に持つが、どれもこれも何が何だかわからない。色々と一人で絵本の表紙を見ながら考えいると、由貴ちゃんが落ち着かない様子で。
「早く読んでよ……」
と急かしてくるので、一旦考え事をやめると、私はゆっくりと絵本を音読し始めた。ペラ、ペラ、とページをめくり、ゆっくり文字を読んでいると、あっという間に絵本を読み終えてしまう。
「これでよかった?」
隣で静かに聞いていた由貴ちゃんにそう聞くと、由貴ちゃんは少しだけ不満そうな表情を浮かべて。
「うん、ありがとう」
感謝を述べて、私の手にある絵本をサッと取ると、自分の膝の上にそれを置く。それから階段下の部屋はシーンと静まり返り、私は気まずそうにして視線を峻輝に向け、目だけで「この後どうする?」と伝える。しかし峻輝には伝わらなかったようで、少しだけ首を傾げられた。そこは察してよ! と思っていると、由貴ちゃんが私の気持ちを代弁するようにして、
「お姉さんたちは、この後どうするの?」
ちょこんと首を傾げて聞いてきた。この後はどうしようかな……。何も決めてないな。そもそもこのお城に来た理由って、無くなった記憶を取り戻すためだったけど、いざお城に着いてみたら一人の絵本好きの女の子しかいなかったわけで……。
もうほとんどなくなってしまった記憶を、この後どうやって取り戻すか。私はあまり期待せず、由貴ちゃんに記憶のことを聞いてみる。
「ねえ、もうなくなった記憶って戻らないのかな?」
由貴ちゃんに質問すると、由貴ちゃんは。
「ないと思うよ」
少し考えてからそう答える。それを聞いた私は、露骨にうな垂れる。じゃあ私は今後どうしていけばいいんだ? この先永遠に記憶が戻らないまま生活していくの? そんな先のことを考えると、本当に絶望しそうになる。そんな私を見ていた由貴ちゃんは。
「別に記憶なんてなくなっても良くない?」
と、さも当然のように言ってきた。そんな由貴ちゃんの言葉に共感できない私は、由貴ちゃんの発言を否定する。
「記憶がなくなってもいいなんて、そんなわけないよ。由貴ちゃんだって、大切な人の記憶がなくなったら悲しいでしょ?」
問いかけるように言ってみるが、由貴ちゃんは私の言葉を否定するようにして。
「別に……」と、悲しそうに言う。
その哀愁漂う顔を見て、私はこれ以上は何も言わないことにした。
もし仮にこの子が香澄さんの子供だとしたら、ものすごく辛い過去を持っていることになる。今のは失言だったかな。心の中で反省すると、またしても静寂が訪れる。そんな静寂の最中、峻輝は由貴ちゃんの顔を見つめながら。
「君は、その顔の人のこと、どう思ってるの?」
突然そんな質問をした。質問をされた由貴ちゃんは、俯き、地面を見たままボソッと。
「嫌い……」
とだけ呟き、それから目に見えて不機嫌になると。
「もう用はないから、出て行って……」
若干口調に怒りを混ぜて私たちに言ってくる。いきなり不機嫌になった由貴ちゃんの態度に困惑しつつも、私たちは部屋を後にして、パタンとドアを閉める。
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