第11話二人ぼっち
向かう途中のこと。私は先ほど香澄さんと峻輝が話していた会話の内容について聞いてみる。
「峻輝はこの世界に来る人の条件が、現実世界で悩みとかを持ってたり、逃げ出したいと思ってたりする人たちだって考えてるの?」
聞かれて、峻輝は私の方を一瞬だけ一瞥してから答える。
「僕はそうだと思うんだけど、七瀬さんは違うの?」
「うん。あっちは楽しいことだらけで、逃げ出したいなんて考えは全くないよ」
「そうなんだ……。じゃあ違うのかな? まあ、あくまで僕と香澄さんがそう思ってるだけで、特に根拠とか確証とかがあるわけじゃないから……」
「そっか……」
私は今の自分の発言を思い返し、心に問答する。
もしかしたら私の深層心理は逃げ出したいとか思ってるのかな?
深く心の中を探るように、今までのことや現実世界のことを軽く思い出してみるが、やっぱりそんな気持ちはないと思う。峻輝の話は憶測でしかないのだし、私たちがこの世界にきてしまったのは他に何か理由があると思う。そもそも理由なんてあるのかな? 運悪く連れ去られただけなんじゃ?
そんなことを下を向きながら考えていると、地面の色が、赤茶色からねずみ色に変わることに気がつく。どうやら橋の上に着いたらしい。これはコンクリートかな?
そういえば、どれもこれも現実世界に存在する物資で作られている。じゃあやっぱりここは夢なのかな? まあどうでもいっか。私は恐ろしく大きな灰色の橋を渡りながら、峻輝のことについて質問する。
「ねえ、峻輝は嫌なこととか、現実から逃げ出したいとか思ってるの?」
不意にそう聞いてみると、峻輝は正面に顔を向けたまま。
「……うん。親友が亡くなったあの時からずっとずっと、逃げ出したいって思ってるよ。まるで足枷みたいだ……」
哀愁漂う表情で答えてくれる。足枷か……。私は死んじゃったお母さんのことをどう思ってるんだろう? もうあまり覚えてないからわかんないや。そもそもお母さんのことなんて、さっき鏡で顔を見たとき久しぶりに思い出した。家に飾ってある遺影は無意識に目をそらしてしまうから、お母さんの顔はすごく久しぶりに見た。
そこで、自分の中にある矛盾というか違和感に気がつく。どうして私はお母さんの遺影からいつも目をそらすんだろう? どうしてさっき、お母さんの顔を見た時涙を流したんだろう? もうほどんと顔も声も忘れていて、思い出も特にないはずなのに……。今一度、自分の中でその答えを探ろうとした時、峻輝が不意に。
「二人ぼっちだね……」
なんて、奇妙で意味のわからないことを言ってきた。私はそんな彼の言葉にツッコむよう。
「二人なのにぼっちって矛盾してない?」
疑問形で指摘する。私の言葉に、峻輝は顔を私の方に向け。
「このよくわからない世界で、自分というものがわからなくなって。どこかぽっかりと穴が空いているような感覚。まるで僕たち以外の人間は生きていないような孤独感。それをうまく表現するには、ふたりぼっちって言葉が一番適切かなって」
彼の言葉に納得する。二人ぼっちか。不思議な言葉だ。短い言葉なのに矛盾していて、矛盾しているのに今の私たちに一番適切な言葉な気がする。そんなことを考えていると、ちょうどお城にたどり着いた。遠目からでもすごかったけど、目の前にするとその迫力は凄まじいものだ。見上げるほど大きなお城に、私は圧巻した。でも私は、そのお城の外装よりも、内装に圧倒された。豪華なシャンデリア。煌びやかな明かり。真っ赤なカーペット。そして中央には、大きな階段がありその先には玉座があった。思わずほわぁーと声を出したくなる内装をしていた。
先ほどまで感じていた恐怖や蟠りの感情はなく、今はただ何も考えずにはしゃぎまわりたい気分になる。
「ねぇ、すごくない!?」
この気持ちを共感しようと、私が峻輝の腕を引っ張ってそんなことを言った時だった……。ぐわんと強く脳が揺さぶられる感覚に陥り、たまらず膝をつく。これは昨日のあれだ。目が覚める前の前兆だ。だんだんと視界はぼやけていき、心配そうな顔で私に声をかける峻輝の顔を最後に、私は現実世界で目を覚ました。
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