二日目

第6話きっと杞憂だから

「……っは!?」

 ガバッと体を起こす。目を覚ました世界は、とても見慣れた部屋の中で、聞き慣れた目覚まし時計の音がうるさく鳴っていた。

 なんだ、やっぱり夢じゃん。私はそっと胸をなでおろし安堵する。本当に寝ている間にどこかこことは違う別の世界に行ってしまったのかと思ったが、そんなわけはなかった。安心すると途端にお腹が空いてきた。

 私はぐっと背伸びをして二階へと向かう。二階に着くと、お父さんがテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。

「おはよう仁美」

「おはよ〜」

 そんな朝の挨拶を交わすと、私は台所で目玉焼きを作り始める。フライパンに卵を二つ投入してから、火をつけて水を入れ蓋をする。こんな簡単な手順でこんなに美味しいものが作れるなんて、目玉焼きを考えた人は天才だな。

 なんてことを考えつつ、お父さんと私の弁当を作り始める。とは言っても、冷凍食品を適当にレンチンするだけだ。あとは適当にサラダとご飯を弁当箱の中に入れて終わり。いちいち手作り弁当なんてしていられない。よっぽど早起きした時か、私の気分がいい時以外は基本冷凍食品だ。

 冷凍食品を温めている間に、ジュージューと目玉焼きが焼きあがる音がしてくるので、がぽっと蓋を開けて皿に移すと。

「はい、出来たよ」

 半熟の目玉焼きをお父さんの目の前にあるテーブルの上に置く。

「お、ありがとう。それじゃあいただきます」

 その後、弁当の中に具材を入れ終えると、私も目玉焼きの乗った皿を手にお父さんの横に座る。

 そうして私たちはテレビを見ながら、目玉焼きをムシャムシャ食べ始める。

「昨夜未明、神奈川県川崎市在住の須美奈緒子さんが、意識不明の状態で発見されました」

 最近話題のニュースがまた流れる。原因不明で不可解な現象が、日本各地で起こっている。何が原因で、どうしてそうなってるのか、およそ見当もつかないらしい。

 朝っぱらからあまり陰鬱になるようなものを見せないで欲しいと思い、私はテレビの電源を消す。

「あ、なんで消すんだよ」

 いきなりテレビの電源を消されたお父さんは、もう一つの白いテレビリモコンを持ってくると電源をつける。つけると同時に、私は電源を消す。

「あ!」

 お父さんはすぐに電源をつける。私はその電源をすぐさま消す。消した電源を、お父さんはまたしてもつけて、それを私は消す。それから徐々に二人とも躍起になり、持っていた橋をお皿の上に置くと、リモコンの電源ボタンを連打する。一分ほどの時間、そんなくだらない戦いをして、ようやくお父さんの心を折ることに成功した。

「はぁ、はぁ、なんでテレビの電源を消すんだよ……」

「はぁ……はぁ……、朝から、こんな暗いニュースを見たくないの。見るなら他の観なよ」

 私とお父さんは肩で息をしながら、呼吸を整える。

「他って言ってもなー。朝なんてニュース番組ぐらいしかやってないんだよ」

「じゃあ観なくていいじゃん」

「んー。わかったよ」

 お父さんはテレビを見るのを諦めたようで、何事もなかったかのようにしてご飯を食べ始めた。

「そういえば仁美。今週修学旅行だろ? もう準備は済んだのか?」

 一瞬だけ場が静かになるが、沈黙を嫌ったのかそんな話題を振ってくる。

「うん。着替え以外特に持っていくものもないしね」

「そうか……。いくらぐらい持っていくんだ?」

「一万円ぐらい持っていこうかなって思ってるけど」

「一万で足りるか?」

「だってあんまりお金ないし……」

「じゃあ渡すよ。三万でいいか?」

「そんなにくれるの?」

「うん。一生に一度だしな」

「ほんと? ありがとう!」

 私は喜び、テレビの電源をつける。

「え? なんでテレビつけたんだ?」

「気分がいいから」

 そう言って私たちは、テレビでやってるニュースを黙々と見ながらご飯を食べた。

 食べ終えて、お皿を台所に持っていくと、お父さんは食器棚の上に三万円を置いた。

「ここに置いておくから。それじゃあ行ってくるよ」

「うん! 行ってらっしゃい!」

 お金をもらえたことでテンションが上がりまくった私は、いつもの数倍元気な声で父を見送る。それから「ふんふふーん」と鼻歌を歌いながら、汚れた食器を洗う。食器を洗うと、食器棚の上に置かれている三万円を財布の中にしまい、いつも通り学校へ向かう支度をする。気分が高まっているからか、なぜだかどうでもいい行動をしてしまう。例えば特に汚れてないのに掃除機をかけてみたり、普段適当に済ませてる洗顔をきちんとやったり。

 そんなこんなでいつも私が家を出ていく時間になり、私は学校へと向かう。

 















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